見出し画像

働く上で知りたい体外受精のリアル

この3年半のあいだに全身麻酔を伴う手術を5回もした。採卵手術を3回、流産手術を2回。

どう考えても心身に過度の負担がかかっている。しかも、仕事しながら両立してきた。

先日は3回目の採卵手術を終えた。

採卵手術を超簡潔に言うと。女性は本来、毎月卵巣で何十個もの卵子の種を生み出し、その中で選ばれし1つの卵子だけが大きくなり排卵する。残りの卵子の種たちは消えていく。その消えゆくはずだった卵子たち複数個を大きく育て、針でひとつひとつ刺して採取する手術である。

出典:はらメディカルクリニック(https://www.haramedical.or.jp/content/infertility/risk)

聞くだけでおっかない手術だが、採卵手術はその前後の過程も大変だ。

まず生理3日目以内に病院に行く。この3日というのを守らないと治療開始できない。生理中は婦人科の内診ができないと思っている人も多いけど、採卵周期は生理の出血が一番多い時期に子宮エコーの内診を受ける。これが不快極まりない。

通院の度に採血も行う。ホルモン値の経過をはかるためだ。地味に採血が嫌いなので、毎回ストレスである。

それから手術に向けて来る日も来る日も自分の腹に注射を打ち投薬する。

医療従事者でもないのに自宅で注射を打つのは恐怖でしかない。誰も見ていてくれない、もし失敗したら?

さらに、この注射はホルモンの関係で、毎日かならず決まった時間に打たなければならない。これが仕事との両立が大変なところで、たとえば毎晩注射を打っているのに夜に仕事の会食が急遽入った!となると調整がしんどい。周りに「腹に注射打つんで抜けさせてください」とか言えるわけでもないし。

このように数週間は地獄の投薬注射の生活で、卵巣がパンパンに腫れて歩くのも痛いくらいになっている。そりゃそうだ、本来の人間の機能として備わってないことをしているのだから。子宮のように大きくなる機能は卵巣にはない。

いよいよ手術が近くなると、通院時にやたら痛い注射を腹に打たれたりする。手術の恐ろしいリスクが書き連ねてある同意書に署名するのも毎回うんざりだ。

極めつけは手術前の点鼻薬と自己注射。採卵前に卵子を成熟させるためのブースターとして決まった時間に点鼻薬と注射を行う。これは時間通りにできないと手術が中止になるレベルの大事な処置。これまた時間が決まっているので、仕事があると調整しづらいときも多々ある。

手術当日。夫が精子を採取する。女性がどんなにがんばって質の高い卵子を増やしても、男性の結果次第でいろいろ変わる。

卵子と精子を受精させるには二つの方法がある。ひとつはふりかけ。言葉どおり卵子に精子をふりかけて、自然に受精させる方法。もう一方は顕微受精。卵子に針をさして人工的に精子を注入し受精させる。

出典:はらメディカルクリニック(https://www.haramedical.or.jp/content/vitro/icsi)

なので、精子のコンディションが気になって仕方ない。もし採卵前に夜更かしや飲み会をしている夫をみたときにはブチギレ案件である。

男性が精子を採取する傍ら、女性は手術の準備に入る。手術用のガウンに着替えて帽子をかぶりベッドに横たわると「ああ、もう逃げられない、手術せないけん」と覚悟を決める。

不妊治療は夫婦でするものだけど、どうしても女性側に負担が偏る。一番怖い採卵手術だって、夫が病院までお見送りしてくれたとて、結局最後は女性ひとりで立ち向かわなければならない。

人気の病院だと、1日に何人も採卵手術が行われる。順番待ちしている間は、手術室の他人の心電図の音が聞こえる。ピッ、ピッ、ピッ・・・あの音は嫌いだ。でも、順番までただベッドに横たわって待つしかないので、嫌でも聞かされる。  

最後には看護師さんが患者を起こす声も聞こえる。「〇〇さん、手術終わりましたよぉ!起きてくだい!!」全身麻酔の手術なので、なかなか起きない。そのやりとりを聞くのもまた怖い。私はちゃんと起きれるかなと不安がよぎる。

「次、順番です。お手洗いを済ませて、ショーツに生理用ナプキンをひいてください」

自分の心拍数が上がるのを感じる。全身麻酔のあとは動けないので、看護師さんが生理用ナプキンを設置したショーツを履かせてくれるのだが、なんだか申し訳ないので、せめてきれいなショーツを用意してきた。

手術室に入ると、看護師さんたちが淡々と準備を始めだす。血圧を測り、点滴を刺して、足を縛り、あとは先生を待つだけ。ああ、いよいよだ・・・心電図から聞こえる自分の心拍数はすこぶる速い。おさえようとしてもゆっくりにはならない。そんなとき私の肩をゆっくりとやさしくトントンして「緊張しますよね、大丈夫ですよ」と言ってくれた看護師さんには涙がでそうになった。看護師さん、優しい!!!

手術室に先生が来ると、「先生よろしくお願いします!!!」と私は必ず伝える。頼むよ!

「麻酔の点滴入れます」

喉にすーっとした冷静感が上がってくる。得体のしれないやばいもんが体に入ってきた・・・ああ、目の前が暗くなってきて・・・

「手術終わりましたよ」

無事終わったんだ!!!ちゃんと目覚めた!!!私は安堵しながら起き上がり、看護師さんたちに支えられ、麻酔がまだ残った状態でベッドに向かって歩き出す。別の病院では車椅子に座らせてくれたので、病院によって対応が違うのだろう。ベッドに戻ると安堵と達成感で眠りにつく。

「9個取れました」培養士さんがベッドまで説明しにきてくれた。無事に9個の卵子を取れて、夫の採取した精子の状態も良好。でも、ここから凍結できる胚盤胞に育つかどうかが勝負だ。

過去2回の採卵では、12個とれたのにそれぞれ1個ずつしか凍結できなかった。若いわりに少ないねと言われてしまい、今回はふりかけと顕微受精を半分ずつわけてお願いすることに。

そこから暫くやすんだら、先生の診察が入る。洋服に着替えて診察室に入ると、子宮内の出血が止まっているか確認される。

ここで気持ち悪いのが、手術後から子宮内に入っているガーゼを取り出されるとき。想像以上に長く、万国旗が子宮から出てくる感覚で、ちょっとウケると思いながらも、気持ち悪い。

診察後は採卵手術の副作用「卵巣刺激症候群(OHSS)」を予防する薬を処方され、腹に注射を打たれる。OHSSはとても怖い副作用で、命がけで採卵手術に臨んでいるんだなと震え上がる。

出典:津田沼IVFクリニック(https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12687321073.html)

帰宅時は痛くて歩いて帰れないので、やむを得ずタクシーを使う。やっと帰宅すると疲れ切って寝て、翌日も必ず仕事を休むようにしている。

今もOHSSの恐怖とたたかいながら、毎日予防の薬を飲む。

結果がでるには1週間かかる。そこまでに胚盤胞がひとつでも育って凍結できているのか、これで0個だったら絶望しかない。

採卵手術は不妊治療の中で最もリスクも負担も大きい。それなのに多くの人が仕事との両立を強いられる。いくら保険適用になったとて高額だ。3年半も不妊治療を続けている私はもう150万円を治療費に費やした。これじゃ仕事はやめられない。

しかし、これまで仕事と採卵手術を両立できていたのが信じられない・・・いま休職していて痛感した。がんばったな、自分。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?