見出し画像

【とある物語】フィクションだったら、いいのにな

白い息が増えるのは、君と話すのが楽しいから

誰も歩いてない帰り道、君の声と一緒に歩く

彼とは少し遠距離だけど
そのくらいが丁度寂しくて、丁度安心

アタシ達がそれぞれを想える恋人以上1年未満の距離

アタシは飲食店を掛け持ちしてラーメンの匂いにまみれて

彼の手は工場でついた油の匂いに包まれてる

一緒に入ったカラオケボックスで朝を待ちながら
目を閉じても、二人が二人を認識できる匂い
の中で

君といるこの空気だけは、やっぱり特別だと思う

あたしは少しお酒に飲まれちゃうクセがあって、たくさん飲んでしまう時がある

君がいないとさ
増えちゃうんだ


酔い潰れたアタシ達を迎えに来た時

彼は初めて本気で怒ってた


気がつくと迎えに来たはずの
彼は居なくなってて

何度電話を掛けても聴こえるのは
長いコール音ばかり

やっと電話に出てくれたら
『今は話したく無い』って、何もあたしの
話しを聴いてくれない

嫌だ

嫌だ嫌だ


休み空けに、彼のラインから連絡が来た

あたしは彼を引き止めたかったから
『もう別れた方がいいかな』とイジワルを送った

なんと彼はその通りにした

アタシはそのまますごく気持ち悪くなって
その日は仕事を空けてしまった

同じ記憶だけがグルグル回って
ひたすらアタシは後悔した

彼からのラインを見てスマホを投げて、また拾って見て、投げてを繰り返した


彼の誕生日になって、久しぶりにラインを
送ったら会うことになった

たった3ヶ月だけだったけど、彼と付き合ってた時よりもずっと永く感じた


久しぶりの彼は、全然変わってなかった

まるであの時からずっと時が止まっててくれた
みたいに

それであたしは安心した

相変わらず、彼からは
特別な匂いがしてた

あたしの一番欲しかった匂い

彼は誕生日プレゼントを受けると
すごく喜んでくれた

あたしと彼は他愛もない
いつもの会話で笑った
ようやく戻ってきた大切な日常

嬉しかったなあ
幸せだったなあ



けど、その日を境に
彼の匂いがあたしに帰ることは無くなった


あたしはバイトを増やした
すぐにスマホも解約した

少しでも彼の匂いを記憶から
消すために

彼の笑顔を忘れるために

涙が全部を洗い流してくれるまで

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?