かえる殿仏教版

極短編「ちょっと人面犬」

雨の中をトボトボ歩く犬が笑えたのは、その顔の中に、深夜にもかかわらず家を追われてトボトボ歩く哀愁の塊たるおじさんの姿を見出したからかもしれない。もしもあの時、私が犬に傘を差し出していたならば、その顔の中のおじさんのあまりの哀愁に引きずり込まれ、地面に落ちる雨脚にひとり涙を加えていただろう。今私が健全面して笑っていられるのも、悲しみの最中の彼と接点を持つことなく、部外者でい続けられるからだ。笑いとは、残酷なものである。そして笑う私もまた残酷だ。きっと再びあの犬に会った時、私は表情の奥におじさんの姿を見つけてまた笑う。たとえその犬がうれしそうにしていても私の眼に映るのは、悲しみの中偶然通りかかった公園で娘に似た女の子が遊ぶ姿を目を細めて眺める哀愁のおじさんに違いない。私の、そして人間の想像力は、豊かだ。

晴れているが嫌に寒い日のことだった。私はあの時の、多分あの時の犬と再会した。そしてその犬は見事に私から笑いを引き出した。しかしそれは想定していた論理に基づきはしなかった。舌を半分出した雄犬の表情に架空のおじさんの姿を重ねるまでもなく、つまり想像力を働かせずとも、その犬の顔はまさしく人間のおじさんだったのだ……ちょっとだけ。

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2020年1月 新春怪奇コント祭り「ちょっと人面犬」のチラシに寄せた「関係ない文」からの掲載でした。


【公演情報】

イッテルビウムとがらくた宝物殿 新春怪奇コント祭り「ちょっと人面犬」

2020年1月18日(土) 15:00/19:00

会場:konya-gallery (福岡市中央区大名1-14-28 第一松村ビル201+202)

料金:500円

ご予約→ https://forms.gle/CcsLCFeGsfCpembT6

ちょっと人面犬HP-01

ちょっと人面犬HP-02


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