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環状六号線

「いってきます!」

扉を押して春の近づいた青空の下に身を踊らせる。


つい先日、卒業式を終えたばかりなのに僕は慣れたバス停に向かって歩く。ひとつ違うとすれば制服を着ていないことだろう。

集合時間よりも1本早いバスに乗り込む。座席に座ると窓を鏡がわりにして髪型を確認する。


バスに揺られながら窓の外の流れる景色を眺める。いつぶりだろうか、こんなにスムーズにバスが走っているのは。

まだ高校に通っていた頃は工事をしていていつも渋滞していた。「今日は何を話そうか?」「昨日の小テストは出来たんだろうか?」そんなことを考えながら毎日高校に向かってバスに揺られていた。


君と出会ってすぐに恋した。それでも君には彼氏がいたから僕の立つ場所は君の横にはなかった。

たまに話す程度で僕はもう一歩を踏み出せなかった。諦めようとも思ったけど、その度に君の笑顔を見てやっぱり好きでいようと決めた。


それからしばらく経って、君が彼と別れたって聞いた。申し訳ないけどチャンスだって思ったんだ。

君とよく話すようになって君の知らなかったことをたくさん知った。

君はよく笑って、何事にも一生懸命で、几帳面で、でもどこかおっちょこちょいで、勉強は少し苦手で、そして何より優しかった。


でも君は僕にそんなに気がないみたいでその度にこのまま友達でいようと思った。

それでも僕はやっぱり諦めきれなくて卒業式の頃にはいい感じになった。


やっとふたりきりで会えるようになった。

ゆっくり進んだ僕の恋はこの道路みたいに今日からスムーズに動き出すのだろうか。

そう考えながら空いてる道路を見て渋滞していたあの頃を思い出して、少し切なくなる。


そんな僕を乗せたバスが走る環状六号線。



〈完〉

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