見出し画像

フィンランド・サウナ聖地巡礼記④エストニア編〜ととのいを求めて8000キロ〜


5時起床。
怖いくらい目覚めがいい。
ドミトリーの隣のベッドには、結局だれも寝ていなかった。
シャワーを浴びて、ホテルを出る。5時半すぎはまだ真っ暗だ。
そんなことはもう分かっている。

そういえば、フィンランドに来てから、現金オンリーの店に出会っていない。駅のコインロッカーを除いて、これまですべての店でカードが使えてきた。
フィンランド最古のラヤポルッティサウナでさえ、
逆に「カードで払ってほしい」と言われた。
日本では消費増税に伴ってキャッシュレスキャッシュレスと騒いでいるが、ヨーロッパではもうひと昔前から、テクノロジーが溶け込んだ生活は当たり前だったのかもしれない。

そんなヨーロッパの中でも、とりわけIT化が進んでいる国がある。
それがきょう行く国、

エストニアだ。

スクリーンショット 2019-11-26 15.34.22

エストニアは、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、ロシア、ソビエト、など、周辺の国々によって侵略されてきた。
その歴史や、小国ながら多くの大国に囲まれている地理などから、サイバー防衛の分野で国際的なイニシアティブを発揮していて、2007年に世界で初めての大規模なサイバー攻撃を受けたことをきっかけにサイバー防衛の重要性を世界に訴えてきた。
2008年には、エストニアの首都・タリンにNATOのサイバー防衛協力センターが設立されている(*1)。

今では全世界でおなじみのコミュニケーションツール、「Skype」が生まれたのも、エストニアだという。外務省のホームページにも、なんだかすごいことが書いてある。

 IT立国化を国策として進めており,電子政府,電子IDカード,ネット・バンキング等の普及が顕著。各行政機関のデータベースは相互にリンクされており,オンラインで個人の情報を閲覧可能。また,選挙投票や確定申告,会社設立がネット上でできる他,電子カルテ等の先進的な取り組みが進められている。なお,エストニアでは世界で唯一,国政選挙で電子投票が行えるようになっている。
2014年12月,外国からの投資,企業誘致等を促進するため,電子居住権(e-Residency)の制度が導入された。これにより,電子居住権取得者は,エストニアの国民・居住者以外でも,エストニアの電子政府のシステムが利用可能になった。また,企業の設立・運営,納税や電子署名をエストニア国外から行えることで,事業の効率化,時間・コスト削減につながる。ただし,最近はマネーロンダリング規制との関係で,ほとんどの銀行でe-Residencyによる銀行口座開設ができないケースが増えており,国外からの企業運営には制約があると見られている。
             (外務省ホームページ エストニア基礎データ)

なんかもう、すごいな。
さらに、エストニアの電子居住権システム、「e-Residency」の公式パートナーであるEstLynx社CEOのポール・ハッラステ氏は、ITMediaビジネスオンラインのインタビューに対して、エストニアのIT戦略を次のように説明している。

「エストニアは世界初のデータ・エンバシー(=データ大使館)を持っていて、政府関係の全てのデータベースは、ルクセンブルグにバックアップがあります。仮にエストニアに爆弾が落ちて国が全滅したとしても、情報を復元できる施策があるんです」(*2)

「国土が消滅しても、データ上の国家は消えない」。
なんともSF小説かと思うようなプランだ。

とまあ、とにかく進んだ国なのだが、私がきょう行くのはデータ集積拠点でも、新進気鋭のITベンチャーでもなく、サウナだ。サウナ、サウナ。

ヘルシンキからエストニアの首都・タリンは、国際フェリーで2時間。

スクリーンショット 2019-11-26 17.45.21

ヘルシンキのターミナル。横浜の大さん橋を彷彿させる

国際といっても、シェンゲン協定でパスポートの提示もないし、あっという間なので、他の国にいくという感覚はあまりない。
松山から広島にわたるくらいの感じだ。

7時半発の船に乗り込む。
船内はカフェやバー、バーガーキングにスーパーマーケット、ちょっとしたショッピングモールみたいになっている。

スクリーンショット 2019-11-26 17.46.46

スクリーンショット 2019-11-26 17.46.53

朝9時半、首都・タリンの港に着く。

スクリーンショット 2019-11-26 17.40.14


サウナの開店まで時間があるので、街を歩くことにした。

世界遺産に登録されているタリンの旧市街地。
赤いレンガ造りの景色が美しい。

画像1

昼食は、トリップアドバイザーで1位の「ラタスカエブ16」というレストランに入った。

スクリーンショット 2019-11-26 17.43.20

ローカルビールはビールはなぜか血の味がしたが、料理はどれも上品で美味しかった。

さてさて。
本番はここからだ。

エストニア最古のサウナ、「カルマサウナ」

スクリーンショット 2019-11-26 17.40.29

これまた住宅地のど真ん中にある。
下校途中の小学生の集団の流れに逆らい、カルマサウナに到着した。

歴史を感じる外観とは一転、ロビーはとても洗練されていて、高級ホテルのそれを彷彿させる。

スクリーンショット 2019-11-26 17.41.32

入浴料は10€。
タオルも1.5€で借りられる。
このサウナは、全裸にビーサンという不思議な格好をする。
サウナハットも一緒に購入した。

スクリーンショット 2019-11-28 20.17.50

エストニアの国鳥、ツバメがあしらわれている(後日撮影)

更衣室にも売店があり、水や酒、マット、ヴィヒタ、カミソリにシャンプーなどかなり充実している。
スチームサウナとノーマルサウナがあるとの説明をうけ、まずスチームサウナへ。
タイル張りの室内は煙で見えない。
温度は体感で50℃ほどで日本と変わらないが、蒸気の量がえぐい。

ノーマルサウナとやらに行ってみる。
中は急勾配6段、入り口すぐ左手にストーブがあり、2メートルほどの高さ。サウナストーンは角のとれた丸石だ。川から拾ってきたのだろうか。

アツアツのサウナストーンにお湯をかけて蒸気を楽しむのはフィンランドと同じだが、エストニアのおじいさんたちは室内にボトルを持ち込む。
飲み物ではなく、アロマオイルだ。
セルフロウリュをするとき柄杓にアロマオイルを注いで混ぜて、
サウナストーンに放つ。

熱を帯びた風はさることながら、シトラスにユーカリ、ティーツリーといった思い思いの薫風が身体に吹き付け、全身を爽快感が駆け巡る。

エストニアのサウナでは、「外気浴」という文化がそこまで浸透していないのか、カルマサウナは室内完結型だった。

その代わり、プールがある。この点、日本の水風呂文化に近い。
体感で23〜25℃くらいの、ぬるめの水温だから、
水風呂というよりも、やはりプールなのかも知れない。
このくらいの水温は、ずっと入っていられる怖さがある。
一撃必殺を食らわせられるのではなく、微量の毒を毎晩盛られて時間をかけて殺すタイプ。5分も入っていると、ハイになってくる。
ダメだ、このままでは動けなくなる。

ヴィヒタは通常、乾いた状態で売っていて、10分ほどお湯につけて馴染ませてから使う。白樺の葉を束ねるのが一般的だが、ここのおじいたちは、みたことのない葉っぱを束ねて持参していた。

スクリーンショット 2019-11-26 17.39.23

ヴィヒタ(白樺の葉)


レッドロビンのようなツヤのあるタイプ、笹の葉のようなやつ。
自宅の庭に生えているものをそのまま持ってきています、当たり前ですけど、と言わんばかりの自然な所作でサウナ室に持ち込んでピチピチ。

ビヒタを浸したお湯は茶色く濁り、すごくいい匂いがする。
お茶のような香り。試しに一口飲んでみた。味わいは紅茶に近い。
「白樺茶」ってあるのかな。

室温は110℃。
何もせずにこの温度だから、蒸気が発生した時の温度はさらに高い。
きょうはサウナハットで髪と耳が守られていたとはいえ、身体の末端という末端が熱くなる。
手を握りしめていると、またもや甲のゲンコツ部分が赤くなる。
胸の突起も容赦ない。

それにしてもGショックは強い。
何があっても壊れないな。クマムシか。
カルマサウナを後にする。

スクリーンショット 2019-11-26 17.41.18


街では、クリスマスマーケットをやっていた。

スクリーンショット 2019-11-26 17.42.57

肉とビールを頬張り、一足早い年の瀬を異国の地で感じながら、
フェリー乗り場へと急いだ。

スクリーンショット 2019-11-26 17.41.44

ホステルに帰ったが、ドミトリーのルームメイトは今日もいなかった。
聖地巡礼も残すところあと2日となってしまった。
あと何か所、いけるのだろう。

(第5回「ヘルシンキ・公衆サウナ今昔編」に続く)

【参考】
*1:外務省 エストニア基礎データ
*2:「エストニアが「電子国家」に生まれ変わった本当の理由」
    (ITMedia ビジネスオンライン 2019.7.18)



#フィンランド #サウナ #ヘルシンキ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?