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フィンランド・サウナ聖地巡礼記②初・湖畔サウナ編〜ととのいを求めて8000キロ〜
飛行機では、背骨に沿って「自分」という文字のタトゥーを彫り込んだ西欧人女性と隣だった。「自分」の下にも何か聞かれているみたいだったが、服に隠れて見えない。 「Myself」と書かれたタトゥーをしている日本人がいたら、外国の人には同じように見えているのかもしれない。
夫婦で乗っていて、話す内容的にイギリス人のようだった。
その夫婦はとにかく頻尿で、通路側の自分に申し訳なさそうに断って出て行った。「俺も頻尿だから分かるよ!辛いよね!」って言いたかったけど英語のボキャブラリーがなく、私は悔しくノープロブレム、と繰り返していた。
フィンエアーはおしゃれだしいいけど、映画コンテンツの品揃えがあまりよくない。Wi-Fiに繋ごうとしたが、無料ではなく課金。1時間で7ユーロ。しかし、通信速度はかなり遅いので動画はもちろん見られない。本がないときつい。
隣の西欧人夫婦は、ベジタリアンなのにそのオーダーが予約時に伝わっていなかったらしい。
キャビン・アテンダントが
「申し訳ありません。機内食は2回ありまして、次のお食事でしたら野菜だけですので、それを2度食べていただくことになってしまうんですがよろしいでしょうか。。」と伝えると、寛大な笑顔でそれでいいと返していた。茶色い小箱を手渡され、何かを食べていた。
1回目は魚料理とアサヒスーパードライ。味付けはさっぱりしていて、美味しかった。2回目の機内食では、件の茶色い小箱を手渡され、中身を見てみると焼きそばだった。文化祭でPTAが作る感じの、いたってシンプルな、紅生姜とキャベツ、しいたけ、タマゴの焼きそば。お腹が減っていたので2分ほどで食べてしまったが、味も素っ気もない。
隣の夫婦は2食もこの焼きそばを食べていたのか。
少し、かわいそうだった。
***
ヘルシンキ に到着。
現地時間は2時半なのに、寒くて暗い。
空港は、木材と建材の独特な香りで、IKEAの店内の匂いがした。空港はコンパクト。市街地までは鉄道で向かう。車内は広々としていていい。基本的に、短距離交通では改札もなく、乗務員による切符のチェックもない。完全に、客を信用している仕組みだ。
ヘルシンキでは、最初の2日間はAirbnbで宿を押さえていた。中心部からトラムで15分くらい、東京で言えば笹塚あたりの、マンションの一室。スキンヘッドにヒゲモジャのお兄さん&巨大なイヌが住む家にお邪魔した。
たまたまというか、奇跡的に同じタイミングでサウナトリップに訪れていた大学時代の先輩とヘルシンキでサーモンスープを飲んだ。
飛行機では寝てなかったら、日本で起きてたら朝の4時くらい。ほぼオールだ。めっちゃ眠い。現地時間の22時にギュン寝。ホストのおっちゃんは上裸でタオルケットにくるまり、カウチで寝ていた。忍びねえ。
***
さて、やっとこの日がやってきた。
いよいよ、フィンランドサウナ1発目。
楽しみすぎる。
9時間寝て、朝の7時に起床。この時期のフィンランドは圧倒的に日が短い。
7時は真っ暗で、シャワーやら荷物の整理やら準備を終えて出たのは8時。8時でも、日本でも「真冬の6時過ぎ」くらいの暗さ・寒さ・景色。
だいたい、明け方の雰囲気は眠い記憶しかないけど、マックス寝て冴え渡っている状態でこの景色だと充実感がすごい。
まあ実際は8時なんだけど。
そして、ホストに勧められてダウンロードしたアプリが神だった。
公共交通機関のチケット購入・経路案内・検索ができるアプリで、これがあれば困ることはない。
ヘルシンキ大聖堂の前の「Cafe Angel」で、モーニング。
シナモンロールにクロワッサン、コーヒーを注文する。
かもめ食堂に出てきたシナモンロールを思い出す。サイズが大きくて、ナイフとフォークを使って食べる。
フィンランドのサウナは、ほとんどのところで、午後からしか営業していない。いわゆる「公衆サウナ」は14時〜15時くらいから、観光客向けのところでは11時くらいからやっていることもある。
きょう行こうとしていたサウナは13時からオープンだったので、午前中は街を歩いた。
街では、景色とともに色々な匂いに出会う。
匂いというものは、世界各国、どこでも似ている気がする。
ヘルシンキの繁華街は、朝の渋谷センター街の匂いがした。夜のセンター街は、人々の往来がありあまり匂いを感じないが、朝一番で歩くと、前の日の夜の熱気の残り香と、滞留したゴミの匂いが混じって、逆に人間臭い、不気味な匂いがする。デパートはIKEAを思い出すし、食事前に、家の窓から漏れ出てくる家庭の匂いは同じ。匂いって世界の共通語なのかもしれない。
ガイドブックに載っていた、中古洋品店を訪ねてみた。
小学校のころの給食配膳室の匂いがした。
知らない人の手紙とか、写真とかが売っている。
こんなもの、商品になるのかよ。
コーヒーを飲んだあと、ヘルシンキ中央駅から739系統のバスに乗り込む。
いよいよ、サウナが待っている。
1発目に訪れるのは、
「クーシャルビーサウナ」。
ヘルシンキの中心部から40分ほどのところにある、湖のほとりのサウナ。日本では、水風呂しか入ったことがなく、サウナのあと自然の湖に飛び込むのは夢だった。1発目として間違いないチョイスだと思う。
運転手に、「クーシャルビーへいきますよね?」と尋ねておく。
このバスで間違いないはずだけれど、万が一降り忘れそうになったとき、「ここがクーシャルビーだけど、降りないのか?」と救ってもらうことを期待している。 天は自ら助くる者を助く。
バス停で下車するが、辺りは森に囲まれている。
本当にここで大丈夫なのか?
日本でも、田舎のローカル線を夜走っていると「ここで降ろされたら大丈夫だろうか」と心配になることがあるが、あの感覚だ。
森を進んでいくと、視界が開けた。湯気が出ている。間違いない。
タオルは貸してもらえる。利用料とあわせて13€くらいだったか。
ここのサウナは、水着着用で男女混浴だ。
着替えて、湖畔のサウナ小屋へと向かい、木の扉を開ける。
熱い。暑い、ではなく熱い。
なんだこれ。日本では体験したことがない熱波だ。瞬間的な熱さでいえば、日本でもロウリュされた蒸気をタオルなりうちわなりでアウフグースされて熱波をくらったときのそれに近いが、空間全体があの熱量で満たされている。蒸気がジリジリと肌を焼いていく。
「ロウリュ」とは、サウナの室内に蒸気を発生させる行為のこと。サウナストーブの上に石が積まれ、熱された石に水をかけることで一瞬で水は気化し、熱々の蒸気が発生する。それを浴びるのが醍醐味になっている。フィンランドの伝統的な楽しみ方だ。
なお、タオルやうちわで発生した熱波をあおぐ行為は「アウフグース」と言われ、これはドイツ発祥の文化。日本ではそれらを組み合わせ、また温泉や水風呂といった古来の入浴文化と融合させることで、ガラパゴス的なサウナ文化が形成されている。
しかも、日本ではだいたい、蒸気を発生させる権利「ロウリュ権」は管理者や運営サイドに付されることになっているが、フィンランドは違う。ほぼ全てのサウナで、客が自らロウリュウを行うことができる「セルフロウリュ」が認められている。これはすでにカルチャーショックだ。
隣に座っていた地元のおっちゃんに「熱い、熱い」と言っていると、
「ここは世界有数のマジのスモークサウナだよ。室温は120℃くらい」
と解説される。確かに、入ったときから気になっていたが、スモークの匂いが強烈だ。ウイスキーでいえば「ビッグ・ピート」くらいの、バーベキュー終わりの帰り道、服や髪の毛から発せられるあの匂いだ。
そういえば、小さい頃からバーベキューでは焼き担当をすることが多かった。焼き担当は、全体に貢献しているように見えて、実際貢献しているけれど、実は自分の好きな肉を好きなように育てられ、好きなタイミングで食べることができる。バクバク食べていても、「お前ばっかり食べるな」と誹りを受けることもない。ある種の特権を持つ。そんなことを思い出しているうちに、身体が限界に近づく。
慌てて室内を出て、外気浴を楽しむ。気温は5℃だったが、サウナを出たあとの冷気が心地いい。
5分もすると、身体が冷えてくるので、またスモーキーなサウナ室に戻る。
見逃していたが、室外には温度計があった。見てみると・・・
132℃。まじか。
しかも、目標は160℃と書かれている。狂っている。
そりゃあ熱いわけだ。でも、懲りずにもう一度、暗黒の室内へと戻る。
ロウリュのサウナでは、まずはじめに耳がやられる。
身体から飛び出ているところはだいたいはじめに熱くなるので、耳の熱を発散させようとモミモミしているうちに、手の甲のげんこつの突起部分が焼けてくる。汗をかいてくる中、自分の髪をかきあげようとしたら最後、なんと自分の髪がありえない温度になっていて、自分の髪で自分の手を焼くという自滅行為に陥る。
熱い、熱い、と小屋を飛び出し、念願の湖に向かう。
小屋から70メートルほどのところにある湖には、おばちゃんとおじちゃんがスイスイ泳いでいた。
早く涼しくなりたいという気持ちと、少しの怖さ、期待と興奮が一緒くたになって、片足を入れてみると、
あれ、意外とイケる。
気持ちいいぞ、気持ちいいぞ。全身浸かってみる。
う、うおお、冷たい、けど、なんだろう、この、解き放たれた感覚は、冷たさとともに、針葉樹林に囲まれた森の中で水に浸かっているという解放感も手伝って、身体全体が水に溶けていくような感じがする。
でも、5秒が限界だ。
これ以上浸かっていたら、身体が動かなくなって上がれないかもしれない。
本能的な怖さが襲いかかる。
ハシゴを登り、地上に戻る。温度計を見てみる。
驚異の3℃。
日本でも、名古屋にある名店「ウェルビー栄」には、北欧の湖を模したフリーザールームがあり、それは体験したことがあったが、足を入れることさえ憚られた。
人工的な寒さはどこか生理的な心地悪さがあるからなのか、単純に慣れていなかったからなのか、とても気持ちいいと思えるものではなかった。
でも、本場の湖の冷水浴はとても気持ちいい。
身体の芯はまだ熱いのに、皮膚の表面は冷水に冷やされ、空気との境界線が曖昧になっている。じわじわと、血管や毛穴を伝って熱が逃げていく感覚がとても気持ちいい。ベンチでリラックスする。
スモークサウナは薪ストーブだが、クーシャルビーには電気サウナもある。
こちらは85℃。日本のサウナの感覚に近い。
ただ、やはり一度、130℃を体験してしまうと、物足りない気がしてしまう。熱々の小屋に戻る。
13時からオープンしていたのは小さなサウナ小屋で、大きな小屋は、15時からオープンだった。ついた頃から、大男たちがせっせと薪をストーブに投入して部屋を温めていた。
大きな部屋では、いちごのサウナハットをかぶった地元のおじちゃんと話した。
「ここのサウナは一番だ、世界でここまで本格的なスモークサウナは3つしかないからね」。
地元のサウナを誇りに思っている。
おじちゃんは、「サウナマフィア」という謎の団体への加入をしきりに薦めてきた。それはなんなのか、と聞くと、「サウナフレンズの団体だ。みんなサウナが好きだ」。というざっくりした回答。
興味があったのであとから調べてみると、フィンランドサウナ協会の会員組織で、会費を集めることで地域のサウナを守っていくという趣旨の団体のようだった。こうやってサウナを大切にし、継承していくのか。
まさに、文化だ。
この季節のフィンランドは、15時半になるともう日が暮れてくる。
暗くなるのに合わせて、サウナ客はどんどん増えていく。
若い2人組のお兄さんたちは色違いのバスローブを羽織って、ずっと何かを話しながら湖とサウナを往復している。大笑いすることもなく、悲しい顔をするわけでもなく、静かに何かを話している。商談か何かだろうか。
大きいサウナ小屋の外には、なぜかソ連製?のサウナハットがあった。
思想が強い。
帰り道は真っ暗で、本当にヘルシンキまで帰れるのか不安だったが、恐ろしくダイヤ通りにバスがきた。
戻って、「Kamppi」というモールの「Fisken på Disken」でサーモンスープを食べる。事前に入手した情報では、ここのやつはフィンランドで一番美味しいらしい。ローカルビールはIPAっぽい、かなりホップ強めな味。大汗をかいたあとは、ごくごく飲めるラガービールもいいけど、こういうガツンとくるのも悪くない。
夜が早いと自然と眠くなる。21時にはベッドに入った。
相変わらず、ホストは上裸でカウチにゴロゴロしている。
明日は、「サウナキャピタル」と呼ばれるサウナ都市、タンペレにいく。
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