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キリスト編~2023年、青森への旅~

 翌朝、とびないさんの勧めで、近所にある川島雄三監督のお墓まで散歩してきたり、とびないさんが10万円で購入したという、川島監督作品の「幕末太陽傳」の宣伝用パンフレットを見せてもらったり、その合間に昨夜と変わらぬとびないさんの猛烈トークを聞いたりしてるうちに時間は過ぎ。

君はもう常連みたいなもんだから、また来るように

 そんなある意味恐ろしい言葉を残しつつ、とびないさんは親切にも車で下北駅まで送ってくれた後、去っていった。

 今日はキリストの墓に行く予定だったが、

「とびないさんが濃すぎて、キリストの墓に行っても印象かすむんじゃないか…」

 そんな不安を残したままのスタートとなったが、逆に言えば「もう何も怖くない」かもしれない。

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■神の御許へ

 下北駅でワク君と合流後、八戸付近の有名な食堂で昼食をとってから、三戸へと向かう。
 タクシーに乗り込み、

キリストの墓までお願いします

 たぶん人生で二度と言う機会がないであろう言葉を発すると、

キリストの、墓!?

 老齢の運転手が、なまりの強い調子で叫んだ。
 地元民なのに知らないのかなと思ったが、その後タクシーはすぐに動き出した。

 どうやら知らなくて驚いたんじゃなくて、「そんなところに行く奴がいると思ってなかった」驚きのようだった。
 確かに敬虔なキリスト教徒ぐらいしか行かないだろう…いや逆に敬虔なキリスト教徒ほど行かないか…だってどう考えてもウソだもんな青森にキリストの墓…。

 しかし三戸駅から案外遠い。
 みるみるうちにタクシーのメーターが数千円台まで跳ね上がっていくのを見て、

「こんな一発ネタにしては金がかかりすぎている…」

 後悔の念もよぎったほどだ。

 結局7千円を少しオーバーしたところで、新郷村、キリストの墓まで到着した。
 降りる際、

「あんたら地元の人?」

 ふと運転手の人に聞かれた。
 地元の人だったら逆にキリストの墓来ないだろと思ったが、

「もし駅に帰るんだったら〇▽×@π…

 申し訳ないが、なまりが強すぎて何を言ってるのか5パーぐらいしか理解できなかった。
 自分は母親が秋田出身だし、その秋田にも何度か行ったことがあるため、東北弁には耐性があると思っていたが、ここまでガチだと全然わからなかった。

「え? え?」

 何度か聞き返すうち、

「こんなとこタクシー来ないから、見終わって帰るまで、ここで待ってる」

 的なことを言ってるのがわかった。
 確かにそうだろうなと思ったので、お願いした。

 辺りを見回してもマジで山の中といった風景だった。

山奥の村落という感じの中、突如出現するキリストの里公園

 実は自分、石川県のモーゼの墓(モーゼパーク)も訪れたことがある。
 キリストの墓と同じ伝承…というか出どころが一緒のやつだ。

こちらはモーゼの墓


 モーゼパークも、このキリストの墓と似た風景だった。
 山の中の公園というか、単なる山というか。

 近くの標識に堂々と「キリストの墓」とか書いてあるところも一緒だった。
 つまり街、というか村がオフィシャルで認めているのだ。キリストの墓を。

オフィシャル標識キリストの墓


 両者ともに「こんな山の中では他に観光資源がないから…たとえどんなウソでもすがるしか…」という、切ないヤケクソ感をひしひしと感じる。

 とはいえオカルトブームもとうの昔、タクシーの運転手がボクらに驚くぐらい、訪れる者は少ないのだろう。

 それを証明するかのように草木で浸食されまくった階段を上り、キリストの墓へと向かっていく。

休憩所も完備

■墓たち

 まず目に入ったのは、和式の墓。

 キリスト、こんな普通の墓に入れられてんの?

 と、思いつつ改めて見てみると「〇〇家の墓」と、どうやらキリスト関係ない墓みたい。
 
 えっ、こんなところに一般人の墓があるの?

 キリストの墓より先に目に入る配置もおかしい。
 もしかして関係者の墓なのかもしれないが、キリストより目立ってどうするんだ。

 虚を突かれつつ、辺りを見回すと。

 おっ、十字架タイプの墓、これぞまさしくキリストの墓…って2つある!?

墓2つ、どっち!?


 キリスト分裂したんか???
 一昔前のゲームの中ボスみたいに???
 (同時に倒さないとクリアできないやつ)

 そもそも何でここにキリストの墓があるかというと、あの有名な、ゴルゴダの丘でキリストが磔にされるシーン。

 あの時、槍で刺されたのは実は身代わりにした弟イスキリで、キリスト本人はちゃっかり逃げ延びて日本にやってきて余生を暮らしたという。

 そんな弟を身代わりにして助かろうとする奴に、「汝の隣人を愛せよ」とか言われたくねぇよ。右の頬を打たれそうになったらかわりに弟を殴らせなさい、じゃないんだよ。
 バチカンめっちゃキレるだろその設定。

キリスト様へのお供えフルボトル

 
 ワインがお供えされていたの、めっちゃ良かったな。
 「これが私の血である」って、それを本人の墓に供えてどうすんだ。

 ちなみにモーゼの墓に行った時は、ワンカップ大関が供えられていた。
 モーゼは日本酒党みたい。


■伝承館~そして伝説へ~

 キリストの墓付近には土産物屋の「キリすとっぷ」に「伝承館」という、2つの併設施設がある。
 モーゼパークにはこうした施設は一切何もなかったので、やはりキリストは偉大なんだと実感する。
 残念ながらキリすとっぷは閉店時間を過ぎていたが、伝承館にはぎりぎり入ることが出来た。

キリすとっぷ、ミニストップにも叱られそう
伝承館、ちょっと教会チック


 まず玄関脇に謎のピラミッドと、そこに絵馬を飾るという謎イベントがあって笑った。
 キリスト感ゼロすぎるだろ。

ピラミッドの中に絵馬


 絵馬の内容も「お金持ちになりたい!」という俗物的なものが多く、キリスト教の教えを全く理解してないのがよかった。

キリストにお願いすることじゃないだろ


 そして入り口脇には土産物コーナーが。
 おそらくキリすとっぷで売ってるものとほぼ一緒だろう。

 キリスト手ぬぐいや、この地の盆踊り「ナニャドヤラ」のCDや湯呑など、「欲しくない人には全く欲しくないだろうけど、ここまで来た人なら絶対欲しい」グッズばかり。
 やはりというか月刊ムーとのコラボグッズも目立った。

祭りの日にはそのナニャドヤラを墓の周囲で踊るらしい…キリストもめっちゃ困るだろうな…

 
 残念ながら中は撮影禁止だったが、前述のキリストが訪日した理由だったり、キリストが青森にいた形跡などのパネルが飾られていた。

 なんでも青森の方言がラテン語に聞こえるからきっとそれもキリストの影響とか、そういうヨタ話…いや夢のあるお話がずらっと並んでいる。

 ボタンを押すと動画を流してくれるコーナーもあって、ナレーション付きでこの場所の由来について語ってくれるのだが、

「これは突拍子もない話に聞こえるかもしれませんが…」

 信ぴょう性について諦めていて思わず笑った。
 せめて自分たちだけは! 信じていようよ!

 ついでに受付のおばあちゃんに、

「今日はボクたちだけみたいですが、ここを訪れる人はどれぐらいいますか?」

 と、聞いてみたところ、

「そりゃあ~、土日とかに来る人が…まあ…」

 と、例によってなまりがキツい+言葉を濁す様子だったので会話を打ち切った。

私たちもこんなことは信じてないんだ、深く追求するのはやめてくれ…

 そんな空気がビンビンだった。
 おばあちゃん、おそらく村から持ち回りで派遣されて来てるのだろう。

 謝罪の意味も込め、絵馬を買ってつるしてみた。

よくない絵馬


 もし次に来ることがあるならば、盆踊りの日に来てみたい。

■帰路

 タクシーに乗り込み、もと来た道を戻ることに。
 何とまたしてもここでワク君とはお別れだった。
 ここから北の方に泊まりたい宿があるらしい。
 その後は別行動で東京まで帰るので、本当にここでお別れだった。

 まさに男友達2人だから許される距離感だろう。カップルなら別れてる。

「おかげで良い旅になったよ、また東京か川崎で会おう」

 心からの礼を言いながら、別れを告げる。
 だってここまでタクシー14000円ぐらいかかったから…
 キリストの墓まで行くタクシー代をワリカンできる友人マジで貴重すぎる。

 そんなわけで一人、八戸まで戻ったボクは、人口比率で言うと日本一飲み屋が多いと言われる八戸の飲み屋街へと飲みこまれていくのであった…。

おみやげに買った恐山せんべいと、キリストのハッカ飴(墓とハッカかけてるのが良いですね)


~つづく~

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