SDGsという第二の大転換(4)産業革命
…より続く
「貨幣」を用いた市場交換では「同等の交換」を繰り返してなぜか儲けられます。
これがとても不思議なことなのです。一回一回の交換は前回触れたように「「同等」であると人間がみなしたものどうしで起きる物やサービスの行き交い」なのです。同等のものとの交換なのに、あるいは数字で表せる貨幣との交換なら「等価」の交換なのです。等価交換を繰り返しているだけなのに、なぜか「買う交換」、そしてそれを「商品」にして「売る交換」をすると、同等の交換ではなくなっているのです。その最後には価値が上がるのです。これが不思議な「商品」の働きです。「資本」の動きです。
不思議と言われても、商品を売ったら儲かるのは当たり前のことではないか、と現代の人は思われるかもしれません。しかし、真面目に突き詰めて考えるとこれは非常な謎なので、古典的な経済学の人たちはその理由を考えるのに大変頭を悩ましたのです。
ロックやアダム・スミスなどは、「買う交換」の後に人々が労働を加えて価値を増やすので、後の「売る交換」では価値が高くなっている。だから、より多くのお金が返ってくるのだ、と考えました。労働価値説です。例えば、その商品があまり手に入らない地域に運んだ、その移動させる労働価値が加わったのだと考えたり、あるいは原料や部材に工夫を加えて加工してより使いやすいものに変更させた、そのための労働を加えたからだ、と述べます。「労働に価値がある」と最初に指摘したのは、時々言われるカール・マルクスではありません。
マルクスが発見したのは、この当たり前のようなことを疑ったことです。逆に。買った原料や部品、エネルギーに「労働」を加えたら価値が上がる。これは自明のようですが、自明ではないのです。
マルクスの時代には定期的な不況の波が来ることが常態化していました。それ以前の古典派経済学者にとっては不況はそこまで深刻に考察するものではなかったのです。しかし、マルクスの活躍する19世紀中頃になると周期的に不況がくる。ということは、「労働価値」をつけたとしても、不況になったり、その商品が市場で売れなければ、社会的にはなんの価値もなかった、ということになるのです。
労働価値は「売る市場」で商品を販売できない限り、実現しない。しかし、労働をかけておかなければ売る市場で商品を高く販売もできないだろう。つまり、労働をかけて汗と知恵を投入するが、その価値を実現できるかどうかはその後に売れるかどうかにかかってくる。売れた瞬間に、過去に遡って「労働価値」があったかどうかが分かる、ということになるのです。売れなければ同じ「労働」であっても「労働価値」はなかったことになるのです。
これをマルクスは「価値は市場でしか実現できないが、市場では実現しない」、というように得意の言葉遊びで表現しています。
考えてみると商売というのは、つまり資本というのは、時間の流れの中で生きている人間が将来のことは見通せないという必然的な条件から生まれてくるのではないか、と思うのです。資本とは時間の中に生きるという人間の条件から生まれる。
マルクスの「資本論」という長大で難解な本ですが、その1番のエッセンスはここにあると思います。ところが、長大で難解なせいか、この部分を全く理解していないような参考書の類が世の中には溢れているので注意してください。エンゲルスも含めて。
商業資本と産業資本
さて、こういう話は私は大好きなのですが、延々やっていると「SDGs」はどうなったんだ、と言われてしまいますから、次に行きます。
ということで、商品が無事売れた場合の考察です。17世紀から18世紀の欧州では農地改革が進み、より多くの人口を支えられるようになりました。この人口増加の結果、作れば売れるという人口ボーナスが生まれたのです。日本の高度成長の頃と同じように。そのためどんどん増える人間のニーズに応える巨大市場が生まれれば、とにかく作れば売れる、ということになったんだと思います。売れないということを自明のものとしないという古典派経済学が生まれてしまったわけです。
で、生まれたのが「労働価値説」です。(それまでの貴族や王政では価値は労働よりも特権で生まれる説です)。繰り返しましょう、「例えば、その商品をあまり手に入らない地域へ運んだ、その移動させる労働価値が加わったのだと考えたり、あるいは原料や部材に工夫を加えて加工してより使いやすいものに変更させる労働を加えたからだ」。
この前者が「商業資本」であり、大航海時代を支えた論理で、重商主義も生みました。後者が「産業資本」であり、産業革命に支えられてイギリスなどの新たな工業国が生まれていく原因になったのです。とはいえ、時代が変わって商業資本が産業資本に移り変わったのではありません。両者とも共存しているのです。
(続く)
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