オンライン時代の研究室で生じている格差

 我が研究室もちょっとずつ日常が戻りつつある。講義、ミーティング、ゼミなどは未だオンライン開催だが、実験などの目的のためには研究室に出てこられるようになったのでバリバリと実験が始まっているという印象だ。しかし、その実験が始まっているのを見ていて気づいた。実験をバリバリとする学生さんと、全くしない学生さんが例年にないほど両極端になっているのだ。例年であれば、アグレッシブな学生と怠惰な学生はもっと緩く分布していたはずだ。しかし、今年はちょっと事情が違う。

 今は大学に来るのに許可や申請はいらないが、「実験をする」「研究相談」「実習」などの必要な時間以外は(密を減らすために)自宅に戻れ、ということになっているので、いわゆる学生さんにとっての「コアタイム」というものが存在しない。研究室でダラダラ過ごすことが出来ないのだ。なのでダラダラしているのを捕まえて進捗状況を聞いたり出来ない。実験後はさくさくと帰ってしまうので、そのままディスカッションを持ちかけるみたいなことも殆どない。

 そもそも自粛期間中は基本的には出てこないように、となっていた。ゼミ資料の作成や、論文読みなどを進めるようにとメールを送ったり、オンラインで面談していたが、進捗状況の管理は任せていた。そもそも大学に来るようにと教員から呼びかけることも出来なかったので、学生さん側からの希望があがってこない限りは大学に来る申請をすることもなかった。

 これが完全に命運を分けたようだ。自粛期間中に何もしていなかった学生は、今も何もしていないのだ。何もしようとしない。コアタイムもないので仕方なく大学に出てくることもない。卒論とかが遅れていても「コロナのせい」の呪文があるから、遅れをどうしようとも思わないし、ダラダラすることに慣れきって何も始めようとしない。一方で自粛期間中も積極的に教員にアクセスしてきた学生は、今はものすごい勢いで実験をこなしている。自粛期間中に出来るデスクワークはどんどん進めていたし、実験も練りに練ったのでバリバリと手を動かしている状態だ。アグレッシブな学生と怠惰な学生が例年よりも二極化している。これはまずいなぁと思うが、どこから手をつけるべきか難しい。自主性にまかせると、このようなド田舎底辺大学のド底辺研究室ではこうも格差が生じるかと唖然としている。

 ここで話は逸れるのだが、今日にツイッタランドで「クソ教授、メールの返事よこせよ、ふざけんな」と書いている方をみた。あーーーーと思うのだ。これに関する返答は一つだ。クソみたいな学生のクソみたいな内容(〆切をすぎて○○が提出出来ていないことの言い訳とか)に関するメールに返事をするのは後回しになる、ということだ。それよりも優先して答えるべき事、やるべき事があって時間は有限なのだ(大体いつも思うのだが、どうして自分のアカウントが身バレしないと思うのだろう。調べようと思えば見つかるのに)。クソみたいな内容は読むのも返事をするのも後回しになって、それをツイッタランドで投稿して呪っても、そんなことをツイッタランドで平気で叫ぶクソみたいな学生のクソみたいなメールにはクソみたいな返事を書かねばならないので、よっぽど暇じゃないと書く気も起きないものだ。

 ということをツイッターを見ながら思ったのだが、コロナは色んな事象—それも全て初めての事象ばかり—の対応を迫られて、どうしても研究室の所属学生へのケアが薄くなっていたのではないかと反省をしている。つまりクソみたいな内容じゃないのに、どうしても「後回し」にすることが増えてしまって、その結果が今の状況を導いているんじゃないかなと思うのだ。それにこういう状況だと積極的な学生は積極的にコンタクトをとってくる。やる気のない学生は当然ながら家で怠惰に過ごし、ネットで世界を呪い、世界と戦うヒーローを演じることに一生懸命で卒論のことなど二の次だ。教員へのアクセスを自主性に任せると積極的な学生と何もしない学生に平時以上の格差が誕生するというのを目の当たりにしてしまった。

 平時ならばコアタイムもあるし、ミーティングがあるし、研究室でダラダラしている時間もあるしで、話しかけるタイミングが色んな所にあるが、なにせ今年は全ての「余裕」が奪い去られていた。ありとあらゆる想定される事象の対策とマニュアル化に追われ、オンライン講義の作成に追われ、オンライン会議に追われ、、、と教員に時間的に余裕がない中で「用が無いので大学にいかない」が当たり前となってしまった怠惰な学生がどんどん怠惰になっていくのに歯止めをかけることが出来なかった。どうしたもんか、と頭を抱えている。危機感を共有するところから始めないと、何も動かないように感じる。

 同じことは就活生にも起こっている。現在の就活生ではなくて、来年の就活生だ。危機感をもっている学生は積極的に動いている。先輩に今年のオンライン面接の状況について話を聞きに行ったりしている。いわゆる「意識高い系」の行動をしている(それが良いとか悪いではなくて)。一方で何もしていない学生に「就活の情報を集めてる?」と聞くと、見事なまでに何もしていない。コロナで○○のインターンがなくなってーと数ヶ月前の情報を平気で披露してくる。学生同士が研究室であって就活の情報を交換し合うこともないので「回りをみて焦る」こともないのだろう。うーん、これは良くないなぁと思いつつも就活に関しては本人次第だからなぁとも思う。

 明らかな差が生じている。情報格差なのか、意識の格差なのか、適応力の差なのか。非常時から平時へと動くタイミングで、こういう差が、ぐっと見えるのだと良く分かった。思考停止してしまった学生は、いつまで思考停止し続けるのかを個人的には見ていたい(眺めていたい)気もするが・・・「ウっザい」と思われない程度に何らかの刺激を送り続けなくてはいけないだろう。その刺激をどう送るかを考えねばならない。


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