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なりたい自分


私はずっと賢い人になりたかった。



恵まれた境遇を踏み台にして、のし上がっていくんだ。


そう思って生きてきた。



血がにじむほど努力して勉強した10代後半を経てからの20歳。


私は人から「頭いい」と言われるようになっていた。


受験をして世間が認める大学に入っていた。


私には、そういう立派な門構えが必要だった。



誰からも見下されて、どこに行ってもやっていけなくて、いじめられて…


そんな自分を脱皮するために、私は自分に投資してきた。



失った物もたくさんあった。



成長を阻害しそうなネガティブな感情が沸き起こりそうな時は、ひたすら行動に移し、努力した。



余計な事を考えないように食事も迷わないよう統一し、誰とも話さなかった。


感情が乱れ、集中力を失う事を徹底的に排除してストイックになった。


それでもだめだった。


でもすぐ気を取り直す。


その繰り返し。




絶対に弱さを見せない。




「すごいね」


驚きや、尊敬のまなざし…


それらを向けられても、当然の事のように強がり続けた。


周りの人に強がる事で強くなっていこうとしていた。



でも、それは最初っから強い人のフリをしているみたいだった。


まるで、演技をしてるみたい。




他人の目があるときはいつも張りつめ、気を抜かなかった。





心は震えていた。


今にも崩れてしまいそうだった。



そんな本音を隠して

「あ、それだけの事なのか。大丈夫だよ。」

と平然と言い放ち、いつも完璧にこなした。



さも当然のように難関を次々と突破した。



自分の実力を超えていた。


でも、全部自分が超えたハードルには間違いなかった。




私はなりきっていた。


周囲をも巻き込み、信じ込ませていた。


なりきる事で本当に実力もついたのも事実。




周りの期待と尊敬、自分への厳しさが、信じられないほど自分を引き上げてしまったのがわかった。


気持ちの持ち方ってとんでもない力がある。


このまま期待効果に乗ってどこまでも進んでいきたい半面、永遠に終われない気もしていた。




本当に賢い人になったかのように思っていた。




しかし、それはもろくも崩れさった。


しかも大勢の前で。




私は、ボロボロに崩れたのだった。





言われている事をメモに取り、理解する。


そのわずかなタイミングがないだけで。


話しかけられたその時にペンと紙を持っていないだけで。


私は何もかも失ってしまう。



今なんて言ったの?



どこに行くの?



これから何するの?



メモが膨大な量たまりすぎて、手帳のどこに書いたのかわからなくなって。



時系列がバラバラになって、気が付いたら約束の時間になったらしくて。




一丁前にスーツを着て、ヒールを履き、時計をした私。



みんなと一緒。


みんなと一緒に会社の一部になっている気でいたのに。


私だけがちがう。




それが露呈した。



みんなの前で。




手帳も持たず、さっき説明された話について、複数の同期と会話しながら目的地へ歩いていくみんな。



どこに行くの?



これから何するの?



今から何するって言ったの?



忘れていた雰囲気。


蘇る記憶。



言葉にできない不安。




完全に捨てきったとお持っていた過去の自分に引き戻されていた。





新卒で入社した大企業を2か月で辞めた。



そこにはあのみじめな、子供の頃の怒られっぱなしの私がいた。




何年かけても小さな成功体験を自分の中で重ね、作りあげてきた「強い自分」。




それは、あっという間に「普通の人達の群れ」によって壊されたのだった。




「言ってる事がわからない」

「バカなの」



蘇る声。



やっぱり本質的な部分は変われないんだとわかった。




絶望。




自己洗脳が解けて私の本当の気持ちや症状が顔を出し始めた。



まるで、ジキルがハイドを押し隠すように必死でこらえてきた感情。



抑えても抑えても、漏れ始めていく。



そして、ついに。



溢れ始めた。






私は病気なんかじゃない。



障害があってもそんな事言い訳にする奴だなんて思われたくない。



ダムが決壊した。



考えないように閉じ込めてきた思いが猛烈に雪崩れを起こす。





私は自分の正体を調べまくった。


沢山本も、医師の論文も読んだ。


脳のMRIも脳派も取った。





私の海馬には奇形が見つかり、偏桃体にも異常が見つかった。

私は、動体視力がなく、動いている状況がわからない事も判明した。


胎児の頃の海馬の回転不足により、言葉が短期記憶に残らない聴覚処理障害の症状がある事も判明した。



動的な事が記憶に残らないので、普通なら学習障害になる所を、言語で記録する事で把握し、解決してきた事も判明した。




そして、私は、重い自閉症である事が分かった。



それ本当の話?





その当時は私が解明した事実を、当時は誰も信じなかった。





賢くなりたい。


誰にもバカにされたくない。



それがかつて私が夢見ていた事だった。




「普通の人達」の中で、迫害されないように、人より早く行動してリードし、なんでも器用にこなしたい。



「すごい!」と周りのみんなから思ってもらえる人に私はなりたかった。







今、私はこんな人になりたい。

ずっと隠さないと、社会から迫害されてしまうこの秘密を、広くみんなに伝えて、社会を変える人に。



そんな人に、今はなりたい。



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#エッセイ部門


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