名前のない物語2
気付くと外が白み始めてきた頃、翼はまだ本に夢中だった。
ついに本を読み終わった翼が伸びをして溶けを見ると10時になるところだった。
4時間以上も本を読み続けてさすがに疲れて、一休みしようと周りを見て、翼は一瞬、自分がどこで何をしているか分からなくなった。
そういえば自分はマックにいたんだと思い出した翼は朝マックが食べたいなと思ったが、誰もいない状況を思い出して朝マックは我慢することにした。
雲ひとつない快晴の元、人々が楽しそうに笑い合いながら通りを行き交っている。
そんな姿を想像したが、目の前には誰もいない光景が広がっていた。
「俺はここにいるぞ!」叫んでみるが、それに返す言葉はどこからも聞こえてこなかった。
「どうなってんだよ。意味わかんねえよ。なんの冗談だよ!」いくら叫んでも暴れても誰も現れない。
叫び疲れて、その場に倒れこむように寝転んだ。目を閉じて、悪い夢なら覚めてくれと願ってみたが、なんの効果もなかった。
このまま目を閉じて、目覚めなければいいのにと思っていると翼の上にふいに影が差した。そこで目を開けてみると、そこには翼を覗き込む宮崎あおいの姿が!
あるわけもなく、一人の男がいた。
男は20代前半の若者で中肉中背の特徴のないどこにでもいるような容姿だった。寝起きなのか髪は寝癖で爆発していてジャージ姿である。
その男がいきなり「死んじゃダメですよ。」と言ってきたのにはさすがの翼もびっくりした。
「何があったか知りませんが、死んじゃダメです!」
「何言ってんだ?」
「辛いことがあっても、それを乗り越えれば必ずいいことがありますから!」
「だからお前は何言ってんだ?」
「僕も苛められていた時は本当に辛くて死にたいと思ったこともありました。でも、必ずいいこともあると信じてここまで来ました。今は冴えない毎日ですが、必ずいいことがあると信じています!」
「一人で何言ってるんだ。頭は大丈夫か?」
「え?」
「え?じゃねえよ!」
「あなたはここで車に轢かれて死のうとしていたんじゃないんですが?」
「そんなわけないだろ!」
「なんだ~、びっくりさせないでくださいよ」
「お前が勝手に勘違いしたんだろ」
「部屋の窓から自殺しようとしているあなたが見えたから慌てて飛び出してきたんですよ~」
「道理でそんな格好なんだな」
「安心したらお腹空いてきちゃいました。お詫びに朝マックでも奢ってください」
「どんなお詫びだよ!それにもう朝マックはやってないだろ!」
「朝マック食べたかったのに~」
いきなり現れた変な男とのやり取りで自分が怒れている状況を忘れていたが、翼は今の状況を思い出した。
「誰もいないんだよ!」
翼の言葉に男はきょとんとしたが、すぐに
「何言ってるんですか?」と返した。
「だから人がいないんだよ!」
「・・・・。」
男は無言で踵を返して家に帰ろうとした。
「待てよ!別に頭がおかしいわけじゃないぞ!ほんとに誰もいないんだよ。周りを見てみろよ」
そこで男は周りを見てみるが、そこには確かに誰も見当たらなかった。
「これはドッキリですか?」
「なんのドッキリだよ!」
「だってありえないじゃないですか!」
「俺だって訳わかんないけど誰もいないんだよ」
そこで二人はしばらく無言で周りを見渡した。
朝、起きてみたら人がいなくなっていた。普通に考えればありえない状況だが、この男に会うまでは人がいなくなっていて、車も電車も動いておらず、どの店もやっていない。
ありえない状況だが、翼は徐々に今の現実を受け入れるようになってきた。
そこで、男が話し始めた。
「あの・・・、こんなこと言うのは失礼かもしれませんが、あなたは誰ですか?」
男の言葉に翼は堪えきれずに笑ってしまった。
翼の突然の笑いに男は困ったが、
「確かに俺たち普通に話してたけど、お互い誰かも知らなかったな」という言葉を聞き、
「そうですよ。まずは自己紹介しましょう。」と言った。
「僕は椿翔太。歳は24歳。生まれも育ちも東京。今はゲーム制作会社で働いてます。彼女は募集中です。」
そこまで紹介する必要があるのかと思いながら翼も自己紹介することにした。
「俺は佐藤翼。歳は24歳。仕事は料理人。同じく彼女募集中。」
翼は照れながら最後の言葉を言った。
すると翔太が
「なんだ、同い年なんだ!敬語使って損したよ~。それに彼女募集はどうでもいいよ~」
と急に馴れ馴れしくなった。
彼女募集はお前が先に言ったんだろと思いながらも翼は突っ込むのも馬鹿らしくなり無視する事にした。
一通り自己紹介も終わったので、二人は今の状況を整理することにした
「翼さんが言うことが本当なら世界から人が消えて、僕たち二人しかいないということですか?」
「そうなるな。」
「漫画の世界じゃないんだからそんなことあるわけないですよ。」
「ならこの状況はどうなんだよ。」と周りを見渡すが、人一人いない。
「確かに誰もいないけど、みんなまだ寝てるだけじゃないんですかね?」
「この時間にもなってみんな寝てる訳無いだろ。それにどこの店にも人がいないし、駅に人がいないのもありえないだろ。」
「そう言われると・・・」
お互い口を閉じて周りを見渡しているが、何も解決しそうにないので、翼は「ここに二人でいてもしょうがないし、他に人がいるかもしれないし、都心の方に行ってみるか。」と言うと、翔太は「そうしよう。でも、まずは着替えて朝ごはん食べてきていいかな?」
「・・・そうしよう。」
翼はしぶしぶ翔太に付いて翔太の家に向かった。
つづく
文:がんちゃん
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