見出し画像

夜桜回線【毎週SS】

「君がもう一度会いたいと思ってくれるなら、これを預かっておいて」

そう言って先輩から渡された1枚の紙きれ。
桜色が映える便箋の切れ端にメモ書きを折りたたんだもの、
それが彼女の形見になってしまった。

メモはたったの2行だけ。
何かのidと数字の羅列。
告白めいた言葉も、さよならも何もなかった。
むしろそれがずっと気がかりだった。

日が落ちて、完全に人気がなくなった神社。
最近は観光客誘致にと、ご神木の下でライトアップが行われている。
彼女とはいつもここで待ち合わせていた。

「この町でこの場所が一番好き」
記憶に残る僅かな彼女の言葉から、半信半疑でここを訪れた。

ノートパソコンを片手に、
ご神木の元へ、少しずつ歩いていく。

地面が桜の花びらが波模様のように敷き詰められるほど近づいた時だった。
PCの通信環境欄にWi-Fiに新しいアクセスポイントが出現した。

ここまで来たならはどうか当たっていてくれと願う。
彼女の手書きのコードを恐る恐る打ち込んでいく。

接続は成功した。
「やっぱり、パスワードだったんだ」

1個の音声ファイルが送られてきた。
ファイル名は、僕のイニシャルだった。
迷わず再生ボタンを押した。

「……やぁ、また会えたね」

桜の花のように儚げでどこかやさしい彼女の声を聴いた途端、
頬を涙が伝った。
(536文字)


気が付けば、noteを始めてからもう1年が経とうとしています(やだ怖い)
去年と比べて何か変わったのかと言われれば、パッと思いつかないのですが、気が付かないレベルで成長していればいいのだろうかとも思ったり。

とは言え、1年続けられたという成果は達成できたので、
今後もコツコツと投稿してまいりますので、
どうぞよろしく、という話でしたとさ。

企画概要はこちらから。


この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?