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気まぐれショートショート 数学ダージリン

どれくらい経っただろうか?
果てしなく続くと感じていた平原を越え、汽車はぐんぐん坂を駆け上がる。

遠い昔に折りたたんだままの、数学のテスト用紙を片手に旅にでた。
赤点だったのにどうしても捨てきれない。
今でも解き方はわからない。

石でできたループ橋が見えてきた。
巨大なサイクロイドの軌跡のようだ。

スイッチバックを挟んでは折り返す。
恩師の三角関数の授業を微かに呼び起こす。

そのうち車掌がやってきた。

「お昼は召し上がりますか?」
「いただきます」
「食後の飲み物はいかがしましょうか?」
「紅茶を……」
私はふと、言葉をとどめてしまった。
「どうかされましたか?」
「すみません。チャイをお願いします」
「かしこまりました」

普段は甘いものを取らない私が、思わず頼んでしまった。
私の遠く及ばない学友が教えてくれた飲み物だ。
それもいい、数学の旅なのだから。

汽車は線路の故障でかれこれ数時間止まっている。
修理を待つ間、遠いヒマラヤに想いを馳せつつ、眠りに落ちる。
(414文字)


学生時代の私は本当に数学できない人間でして、それこそ赤点常習犯で追試を受けたりもしてました。
それでも「数学」そのものを嫌いにならなかったのは、高校で3年間数学を教えてくれた恩師と、本当に数学を心から愛している尊敬できる学友の姿を傍で見続けられたことに尽きると思います。

本当にかけがえのない時間でした。

そんな、ちょっとだけノンフィクションを織り交ぜて書いてみた次第です。

余談ですが、実際のダージリンにはヒマラヤ山脈方面とを約8時間かけて結ぶ
「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」なるものが走っているそうです。
(そして世界遺産)

企画概要はこちらから。


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