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無名時代、再デビュー…通算活動年数7年を迎えようとするDREAMCATCHERが手にかけつつある失いかけた夢


 近年K-POP市場は拡大の一途を見せ、日本を始めとする東アジアのみならずヨーロッパや北南米などでも人気を獲得しつつある状況だ。3大事務所出身グループ(SM、YG、JYP)やBTSが海外K-POPファンのライト層の受口となったことで、当該グループが歌番組で1位を獲りまくるなど無類の人気を誇り、韓国で乱立したオーディション番組出身&出演者グループへの関心が高まったことで、名の通っていない中小事務所グループはかつてよりも遥かに人気を得ることが難しくなってしまった

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デビュー後たった2週間で1位を獲得したjyp所属のitzy(前の5人/引用:kstyle)

 しかしそんな韓国歌謡界に一石を投じようとするグループが存在する。それが今回の主人公のDREAMCATCHERだ。
 Happy Faceエンターテイメントから2017年にデビューした7人組は悪夢を題材にしたダークな世界観と、当時から現在まで韓国でありふれるEDM調の洋楽的なサウンドではなく、誰もが手を引きつつあったロック調のサウンドをベースにした楽曲で、地道にではあったが国内のコアなファンや海外ファンを取り込んでいった。
 次第に1位候補に呼ばれることも増えていき、MVの動画再生数も1000万をコンスタントにたたき出し、最新のアルバムは一月で86000本を超えるなど着実にファンダムを拡大しつつあるが、このグループには壮絶な苦労を強いられた過去があるのだ。

1.MINX誕生と突き付けられた現実

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2014年にデビューしたMINX
左からダミ、ユヒョン、ジユ、シヨン、スアの5人

2014年、Happy FaceエンターテイメントからMINX(ミンクス※)という5人組ガールズグループが誕生した。彼女らのコンセプトはminxという文字の意と同じおてんば娘、事務所の先輩で韓国歌謡界でまずまずの成績を残していた Dal★Shabetのコンセプトを踏襲したような形となった。

※ハングルだとミンス(밍스)となるが、メンバーが明らかにミンクスと発音していることや、「밍스」の検索結果に出てきたミングスというサッカー選手も、ハングルだとミンス(밍스)となっていたので、ミンクスと呼ばせていただきます。

デビュー前のダンス動画(fifth harmonyのBO$$)
MINXデビュー曲の우리집에 왜 왔니(Why Did You Come To My Home?)

 上記2つの動画で見られるように、ダンス、歌においてスキルあるメンバーを揃えており、事務所の本気度も伺える。事務所的にはDal★Shabetでそれなりに手応えを感じたコンセプト※かつ、実力を兼ね備えたメンバーを揃えたこともあって、業界を引っ掻き回す存在になってくれると考えたのかもしれない。しかし彼女らの曲は聴衆の心を掴むことは出来なかった。
 同じ新人グループには、独創性に富んだf(x)以来のSMのガールズグループ(以下gg)のRed Velvet、第2のApinkと謳われ清純派として期待値の高かったLovelyzが二大巨頭として立ちふさがり、共に2012年デビューのAOAEXIDがセクシーさを武器に一発逆転の大ブレイクを果たすなど、ありふれた可愛げのあるコンセプトでデビューしたMINXは入る余地すらなかった。
 コンセプトの影響か上記動画(MINX Practice)の抜群のダンス能力は鳴りを潜め、ボーカルはシヨンをメインに据えたはいいものの、ユヒョン、ジユ、スアの歌唱力を活かすことも出来なかった印象だ。
 その翌年、MINXはDal★Shabetのアルバム収録曲だった「Love Shake」をカバーしカムバックを果たすが、結局無風で終わってしまった。

※どうやら当時の流行?を取り入れたらしいです。

2.MINX解体と不安だらけの再スタート

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DREAMCATCHERとしての再スタート
左から、ジユ、ハンドン、シヨン、スア、ダミ、ユヒョン、ガヒョン

 2016年、いくつかの公演とテレビ出演を除いて活動が完全に不透明になってしまったMINX。さらにMINXの公式SNSが相次いで突然の閉鎖を迎えるなど、当時のファンからしたら最悪の事態がちらつかざるを得ない状況まで追い込まれてしまった。
 ファン、そしてメンバーが行く末を心配する中Happy Faceエンタは大博打に出るのだった。既存の5人+新メンバー2人の追加グループ名の変更、曲のメロディーに流行りから逸れたロックを取り入れ、明るいコンセプトから悪夢をイメージさせるダークコンセプトへの転換を図った。再デビューのために180度以上変わったかのようなグループの大刷新を行ったことで今のDREAMCATCHERは誕生した。
 おそらく当時の既存メンバーは、未知の領域に踏み入れる時の計り知れない不安に苛まれていただろう。また最年少メンバーとなったガヒョンは明るいコンセプトのグループでデビューすると告げられた中でのDREAMCATCHER加入、外国人メンバーのハンドンは異国への対応や元々ミュージカル俳優を志していた過去があり短い準備期間での歌手挑戦と、憶測ではあるがこの様な重圧が新メンバー2人にものしかかっていたのかもしれない。

3.茨の道に見えた光明

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2017年12月12日、DREAMCATCHERデビュー後初のコンサートinブラジル

 2017年1月13日「Chase Me」でのデビューを皮切りに、4月5日に「GOOD NIGHT」、7月27日には「날아올라(Fly high)」と「悪夢シリーズ」と称される計3曲で活動した。いずれも洋楽に感化された近年のK-POPの雰囲気ではなく、ロック調の日本のアニソン風な楽曲でデビューイヤーを駆け抜けた。しかし国内での成績は芳しくなかった。要因としてオーディション番組「produce 101」で結成された「i.o.i」の所属メンバーが各所属事務所に帰還したことや(リーダーだったナヨン、ギョルギョン擁するPRISTIN、ドヨン、ユジョン擁するWeki Meki(ウィキミキ)チョンハのデビューや、ヨンジョンを追加した宇宙少女など)コンセプトに前例がなさ過ぎて大衆の目に入りづらかったりと、この新人ggにとっては厳しい1年であったことに間違いはないだろう。

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YG主催合同オーディション番組「mixnine」に参加した
ジユ、ユヒョン、シヨン、ダミ

 そんなこともあったためか事務所は苦渋の決断の末、練習生からデビューした歌手まで参加権をもつオーディション番組「Mixnine」にメンバーを送りこんだ。もちろんデビューメンバーに入ればグループの活動は当面の間出来なくなる、しかし同期のPRISTINやWeki Mekiらの注目のされ様を目の当たりにしたこともあって、このような決定をしたのかもしれない。
 しかしある日彼女らがオーディションを切り上げ、番組を降板しなくてはならなくなった。それはグループ初のコンサート公演に加え、翌年2月に開催されるコンサートツアーを行うための準備が必要になったからだ。確かに国内からの関心は多くはなかった、しかしMINX期と違って欧米諸国を中心に注目を集めていたのだ(ツアーは全てヨーロッパでの公演)。
 ダークなコンセプトによってダンスのキレや、フォーメーションの美しさが映えるようになり、歌唱・ラップパートにおいてもメンバーそれぞれが持ち味を出せるようになった。何よりこの「悪夢」という難解なコンセプトを完全に自分たちの物にしたように感じさせるMVやパフォーマンスは、確実に聴衆を魅了していたに違いない。不安だらけの路線変更が一転、自分たちの能力・魅力を最大限に引き出してくれたのだ。

4.目に見える進化・成長

Show Championでの「Deja Vu」のパフォーマンス
途中で音響の故障で口パクなしで歌っていることが発覚し
コメ欄は称賛の嵐に

 2018年2月中旬に7国7主要都市をめぐるコンサートを完走し、2018年5月10日公開の「YOU AND I」、同年9月20日公開の「WHAT」、そして2019年2月13日公開の「PIRI」で「Chase Me」から続いた悪夢のストーリーを完結させたDREAMCATCHERは、次第にファンダムを伸ばしていった。その過程として、デビューアルバム「악몽(惡夢)」が月間1500本しか売れなかったのに対して、シリーズ最終作の「PIRI」を収録したアルバム「The End Of Nightmare」は月間27900本を達成するなど、確実な進歩をしていた。そして活動曲(上記3曲)全てで1位候補に上がるなどMINX時代には考えられない境地に辿り着くことができた。
 それだけではとどまらず、2019年9月18日に発表された「Deja Vu」、2020年7月16日発表の「R.o.S.E. BLUE」はいずれもスマホゲームとのタイアップ曲としてリリースされるなど、彼女らの創造する世界観を公に認められたかのようなオファーが舞い込んで来るようにもなった。

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2020年2月18日に公開された「Scream」は
新シリーズ「Dystopia」の幕開けと、グループの新たな境地を開いた 

 2020年2月18日にはSNSの誹謗中傷を題材にした「Dystopia」シリーズの1作目となる「Scream」を、同年8月17日には2作目の「Boca」を公開。
 音楽面では「PIRI」期から続くロック+EDMを交えた曲調に、更にEDM調の雰囲気を強くした楽曲で、ロックサウンドが薄れたことでダークな世界観はどうなるかと心配された。しかし褪せるどころか一段と洗礼されたものに仕上がっている。
 商業面でも「Dystopia: The Tree of Language (Scream収録のアルバム)」は直前の「Raid of Dream」の月間26000本をはるかに上回る月間44000本を達成、更に次作の「Dystopia: Lose Myself」に至っては前作のほぼ倍にあたる月間86000本に到達、発売初日に24000本に達し、出荷が追い付かなくなるなど、彼女らの勢いは全く止まらない(1位常連のヨチンのアルバム「Walpurgis Night」の初日25000本に肉薄するほど)。

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ハントチャートによるアルバム初週売上
(引用/ https://twitter.com/girlgroupsales/status/1326183975577133056?s=2 )
歌番組1位常連勢に次ぐ成績を残す

 そんなDREAMCATCHERが未だ手にしていないものが1つある。それは歌番組1位の座だ。余談ではあるが、実は2017年デビューのggは未だに1位を獲得したグループがいないという(ソロも含めればチョンハのみ)。
 MカではLOONA、EVERGLOWらを下して1位候補に挙がったが、gg最強の一角IZ*ONEが待ったをかける形になってしまった。比較的1位になりやすいThe Showでは何と7度の1位獲得のチャンスが与えられているが、採点の操作(の疑い)によって1位を手に入れそびれたり(リンク: https://kpopnikki.com/2019/09/24/dejavu_1/ )、1位獲得の一番のチャンスだった時期の放送がコロナの影響で潰れたりと、ここまでくると悪夢というかもはや2017年デビューggに課せられた呪いと言った方がいいのかもしれない(はよその呪い無いことを証明してほしい)。
 しかし機は熟した。その実力と世界観で数えるほどしかいなかったファンが世界中に現れ、合成で張り付けられた歓声が本物の大歓声となった。全く売れなかった音源、音盤は今では飛ぶようになくなっていった。MINX時代には無情な現実を突き付けられ、アイドルとして追いかけた夢を失いかけた。失敗したグループとも言われた。しかしここまで来ただけでも前評判的には番狂わせと言えるのは間違いない。そんなDREAMCATCHERが巨大化する大型事務所勢力や、ネームバリューのみで戦いに参加することを許された数多のグループが跋扈する、混沌とした韓国音楽業界を突き進み、真の勝者として夢をその手に掴む日はそう遠くないだろう。

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※追記 
ガオンチャートによる2020年gg総売上ランキングにて、DREAMCATCHERは10位にランクインした。(引用: @kchartsmaster )
各局の年末の歌謡祭出場、音楽番組1位獲得数ゼロの中でこの数字は異例であるし、大健闘と言える。