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ニャンドル シュンの憂鬱

  「ニャンドルさん、ひと言お願いします」
概ねそういう事を口々にした記者に囲まれてしまった。心当りが無いと言えば嘘になるけど、触れて欲しくない。そもそもコイツらは、わたしの仕事であるニャンドルというものを理解していない。妻の事で面白おかしく騒ぎ立てているだけに過ぎない。

 ニャンドル シュン、本名武田俊二はその業界を切り開いた男だ。動物、とりわけ猫に関してのプロデュースというか、テレビ番組、雑誌、映画にと動物が必要とされている現場は多々あったものの、動物ゆえに難しい事柄、それは躾だったり、そのルックスだったり、立ち振舞い、そういった煩い事を一手に引き受け、現場へと提供するといった仕事を確率した第一人者で、とあるバラエティ番組での猫のアイドル化に成功したことから武田俊二氏はニャンドルの父と評され、その辺りからニャンドル シュンと呼ばれるようになった。ただ表だった活動はあくまでもタレントである猫をはじめとする動物達であって、ニャンドル シュンが矢面に立つ事は皆無だったのだけど、女優の末廣葉子との結婚を機にその名前が度々マスコミへと露出する事となった。
 末廣葉子とのきっかけは、とあるテレビ番組での事、猫好きで知られる葉子へのインタビューで番組側が用意した猫だった。その猫をを連れてきたのがニャンドル氏だったのだ。番組終わりに別れ惜しそうにしていた葉子へニャンドル氏は声を掛けた。そこから二人は意気投合し、そののちに結婚へと至った。

 人気女優と良く分からない職業の男の結婚はワイドショーやスポーツ新聞や雑誌へ取り上げられ、暫くは話題に上がっていたものの少しずつその盛り上がりもフェイドアウトしていった。

 再びニャンドル シュン氏がクローズアップされたのは順中満帆だと思われていた夫婦生活に陰りが見えはじめた時だった。話題の猫カフェを展開していた羽鳥修治と女優末廣葉子とのスキャンダルが出たのだ。
 密会していたホテルの出口で記者に捕まった。末廣葉子、羽鳥修治二人とも男女の関係は否定したものの苦しい言い訳にしか聞こえなかった。

 周りを記者に囲まれたニャンドル シュン氏は言葉少なに振り切り帰宅した。妻である末廣葉子のスキャンダルは早くもマスコミに流れていて、騒がれはじめていた。自宅の電話が鳴り、携帯電話も着信やメールの通知が鳴り止まない。葉子も帰って来ないし、連絡もつかない。
 いったい俺が何をしたっていうのだ?ニャンドル シュンはリビングのソファで項垂れた。そうしているうちにもインターネット上には色々な書き込みが増えていく。恐ろしい事に何の非もない自分への誹謗中傷も多々あった。
ーなに?ニャンドルってウケるぅ。なにやってる人?どうせ奥さんに食べさせて貰ってるんでしょ?訳わかんない。ちゃんと働いてー
そんな具合だった。
「俺はちゃんと働いているし、稼ぎもある。何も知らないくせによくそんな事が言えるな」
ニャンドル氏の心がクサクサに渇いていた。ニャンドル氏は気を紛らわす為にnoteへとアクセスした。適当に記事を読むなかでたまたま[ゴ]という変な名前のクリエイターのページへたどり着いた。そして彼の〖フィッシン〗という小説を読んだ。
フィッシン
↓↓↓↓↓
https://note.com/gangan1969gonzoh/n/nc87ca0d60ce8

読み終わったニャンドル氏は思った。
「そうか、そうだよな。彼は魚になってしまったのか?それならいっそ俺は猫になろう。なってまお。いつ?今でしょ!ニャー」
そう言うとニャンドル シュンは末廣葉子と暮らすマンションを飛び出した。エントランスから裸足で駆け出し、環八をひた走った。

現在行方が知れないニャンドル シュン氏(本名武田俊二45)は 二、三日前に世田谷の外れ砧付近で半ば野生化した姿を見かけたという書き込みがあったが真相はわからない。

     終

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