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声劇脚本「summer phobia-夏恐怖症-」

登場人物:2人 時間:10分

あらすじ…動機息切れ蕁麻疹がでるほど夏が嫌いな男ユタカと、夏の魅力を伝えたい女ミノリ。夏恐怖症を克服するために、色々挑戦してみるが…

(遠い蝉の声)
女「ユタカ!いい加減にして!」
男「帰ってくれ!」
女「いつまでも引き籠ってられないでしょ!」
男「ステイホームだ!自己防衛だ!」
女「外に出たくないだけでしょうが!」
男「頼むから帰ってくれよぉ」
女「あんたのお母さんに頼まれてるのよ。引き籠りの息子を引っ張り出してくれって」
男「ほっといてくれよ、別に元気に生きてるんだから」
女「流石にずっと家にいると、おかしくなるわよ」
男「だって今年もきてるんだろ、アレが」
女「来るわよそりゃあ」
男「はぁーやだやだ」
女「学校が休みだからって、夏休みのあいだ一歩も家から出ないのはどうなの?」
男「こら!その名前を出すな!」
女「夏休み?」
男「それ!」
女「夏」
男「ひい!」
女「久石譲」
男「いやー!」
女「どうしてそんなに夏が嫌いなのよ」
(遠い蝉の声)

(間)

(日常っぽい穏やかな音楽)
女「私は夏、好きだけどなぁ」
男「全く意味が分からない。一体夏のどこがいいんんだ」
女「楽しいことがいっぱいあるじゃない。プール、花火大会、夏祭り、スイカ割り、流しそうめん」
男「理解しかねるね。特に流しそうめんなんか、一番意味が分からない。そうめんを流す意味ってなんだ?」
女「わかんないけど、楽しいからじゃないの?」
男「クーラーの効いた部屋でゲームしてる方が楽しいに決まってる」
女「友達いないでしょ」
男「いるが?3000人」
女「フォロワーは友達って呼ばないから」
男「一緒にゲームする人もいるよ」
女「直接会ったこともないくせに」
男「はぁ~?じゃあお前はコアラを直接見たことあるか?」
女「は?」
男「あるのか?」
女「ないけど」
男「じゃあお前はコアラはいないっていうのか?直接見たことがないからって」
女「だからモテないのよ馬鹿」
男「質問に答えたまえよ!!」
女「そんな屁理屈に付き合ってられないわよ」
男「君の理解が僕に追いついてないだけさ」
女「ユタカみたいなオタクのことは分かんないよ」
男「ミノリちゃんみたいな陽キャには分からないさ」
女「(ため息)」
男「ということで帰ってくれるかな。ミノリちゃん」
女「うーん、どうやったらユタカの夏恐怖症治るのかなぁ?」
男「話聞いてる?」
女「アレルギーの食べ物をいっぱい食べて治すみたいに、夏っぽいこと沢山するっていうのは?」
男「なんだよその荒治療は」
女「やってみようよ!」
男「無理だ。夏らしいことに触れると、頭痛吐き気動悸息切れ眩暈発疹、成長痛に苛まれる」
女「成長痛は関係ないでしょ」
男「なんか夏の話してたら具合悪くなってきた」
女「いいから。出かけるよ!」

(間)

女「(深いため息)ぜんっぜん、駄目ね」
男「だから言ったじゃないかぁ(ヘトヘト)」
女「プールでは泳げないし、スイカは割れないし、そうめんはつかめないし、蝉の声を聞けば奇声をあげるし、本当に体力ないのね、オタクは!」
男「動悸息切れ成長痛がぁ…」
女「じゃあ他に夏っぽいことといえば…」
男「ミノリちゃん。もういいよ」
女「ユタカ」
男「僕は一生こうやってジメジメ生きていくのさ。どうしてそんなに僕を連れ出そうとするんだよ」
女「だって、夏はとっても素敵な季節だよ。夏は命を感じるじゃない」
男「それが怖いんだ」
女「どういうこと?」
男「刺す太陽の光が強ければ強いほど、その影は濃くなっていく」
女「影…」
男「命の脈動を強く感じるほどに、それと同じくらい感じてしまうんだ。死を」
女「夏に、心霊番組が多く放送されるのはそのせいなのかもしれないわね」
男「馬鹿にすればいいさ。僕は怖がりだ。死ぬのが怖い。動物も虫も人も、競うように息をする夏が怖い」
女「……」
男「だから言いたくなかったんだ…」
女「……ユタカに見せたいものがある。着いてきて」
男「え、どこに、ちょ、手離せよ!」
女「いいから!着いてきて!」
男「わ、分かった!分かったから!」

(間)

(静かで綺麗な音楽)
男「ぜーはー、ぜーはー」
女「体力ないんだから」
男「久しぶりに外に出た」
女「久しぶりの娑婆はどう?」
男「人を犯罪者みたいに言うなよ。」
女「薄暗いから気をつけて。転ばないでね」
男「うわ、川は虫が多くて嫌いだ」
女「でも涼しいでしょう」
男「にしてもなんだ、この辺り人が多いな」
女「あんたって本当に世間のことなんにも知らないのね」
男「テレビみないからね」
女「あのね、知ってた?世の中はね」(徐々に大きくなる音楽)
(花火の音)
女「夏真っ盛りなのよ」
男「花火…」
女「そう。花火大会」
男「久しぶりにみた」
女「綺麗だね」
男「…」
女「光が、夜の闇も恐れも全部消し去ってしまうみたい」
男「…確かに、綺麗だね」
女「いつだったか、お互いの家族に連れられてさ、川まで花火を観に来たじゃない」
男「そうだっけ?」
女「ほら、私たちが6つか7つの頃に。覚えてない?」
男「いや、まったく」
女「みたよ。私は覚えてる。ミノリちゃんミノリちゃんって、私のあと着いて回ってたでしょう」
男「そんなの忘れたよ…」
女「アハハ。あの頃から私、ユタカのこと……、あれ、そういえば!」
男「ん?」
女「吐き気は!?」
男「え?」
女「花火ってめっちゃ夏だよね!?眩暈は?成長痛は?」
男「はっ…そういえば、ない!」
女「治った!!夏恐怖症!」
男「で、でも…ミノリちゃん」
女「なに?」
男「そろそろ…手を離してもいいんじゃないかな…」
女「だめだよ。夏らしいこと、するって言ったでしょ」
男「なんでだろう。動悸だけは収まらないな…」
(遠い花火の音)

【終わり】

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