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「くやしさ」の足音


昨日の、通りすがりの話


夕暮れの線路沿いに
涙を必死にこらえるような
文にも、ことばにもならない声が聞こえた

黒いランドセルがまだ大きい男の子とその母が
向いた左の方に、歩いて来ていた

何があったのだろう。

隣を歩くその母さんは
それが悔しいの気持ち、悔しい、そうだよ

なんの話をしているかは分からないが
そんな会話をしていた


しかし、そうじゃないかのように
まだ聞き取れないことばを発している子は
なにかを伝えようと感情そのままが声となっていた


__二人は、わたしの前を通る

「くやしい」

男の子は、くやしいと
はじめての気持ちに直面し
一つの言葉で表せるようになった


線路の柵にぶつかりそうに
心配になるような足取り

タンタン、と不規則な小さな足の音は
くやしさを表すようで
目を離せなかった
ことばの中に収まらないものがあった

声と後姿は小さくなっていった

この一瞬、数秒のうちに
どう表せばいいかわからない感情があった

二人の空間と繋がってしまった共感を
ぷちっと振り切って、反対の方へ
ちと、ちと、……つま先の音を立て、帰った


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