兄が入院したという義姉からの連絡を受け、その週末に見舞いに行った。
想像を遥かに超え衰弱をしており、兄はまだ還暦を迎えていないが、目の前で首元がズレたジャージを着て横たわるその姿は、完全に老人だった。
内臓系、ということらしい。
いつもあそこが悪い、ここが痛いと言っている人間で、メールや電話で知りたくもない情報を一方的に寄越してくるため、兄夫婦の生活については何も知り得ないが、病気の遍歴だけは常にアップデイトさせられていた。
「主治医」なるものがいて、身体の不調を感じるとすぐに駆け込むのだそうで、曰く、これまでも重大な病のいくつかを未然に防いでくれたとのこと。
父は、会話の中で「主治医」などと口にする同級生たちをいつも冷ややかに見ていた。所詮、ベルトコンベアの如く右から左に処理されている存在に過ぎないのに、さも自分やその生活を理解し、健康に対し責任を持って対処してくれる人間がいる、と思い込める御目出度さ。
我が家は父、母、男兄弟3人の5人家族であったが、父、入院した兄、私は血液型が同じで、顔も似ている。単純に考えて体質的にも近いはずだが、医者に信頼を置かず、自身で肉体の管理をし、入院生活とはまったく縁のない父や私とは対象的に、医者という存在を崇め、弱る兄。
アホくさく、温かい言葉をかけるのを忘れ病院を出てきてしまった。




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