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マムシを食べてみる

しばしば滋養強壮に効くと言われるマムシ。
一体全体どんな味なのか!?と気になってしまったため,食べてみました。

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ニホンマムシ Gloydius blomhoffii

ひょんなことから,生きているマムシをいただく機会がありました。(なんと2尾も!)
それではコイツを捌いていくッ!と言いたいところですが,食べる前にマムシを食べる危険性について考えてみました

◎危険①マムシの毒

マムシが毒を持っていることは,多くの人が知っていると思います。
ただ,そんなマムシの毒にどのような危険があるのかは知らないのではないでしょうか。正直なところ,私はよく知らなかったので調べてみました。

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マムシの頭

冷凍庫で仮死状態にさせたマムシの頭を観察してみました。上記写真の上顎に2本付いているのが毒牙のようです。これに噛まれると,2か所の傷口が開き毒が注入されるらしいです。(稀に1か所のこともあるらしい)

毒による症状としては,直後から数分後に焼けるような激しい痛みが走るそうです。咬まれた部分が腫れて紫色になり,皮下出血、水泡形成、リンパ節の腫れが起きるようです。
重症例では、筋壊死を起こし、吐気、頭痛、発熱、めまい、意識混濁、視力低下、痺れ、血圧低下、急性腎不全による乏尿、血尿が認められるとのこと。
毒の出血作用は,ハブ毒(サキシマハブ毒,ヒメハブ毒も含)と比較してもかなり高いみたいです。かなり恐ろしい・・・

噛まれてしまったら,毒の回りを遅らせるためにも安静にし,早急に病院へ。。。

小菅(1968)の毒性に関する研究によると,マムシ毒の出血作用,致死作用は70℃×5分もしくは100℃×1分の加熱で失活するそうです。

今回は,毒対策として最初に頭部を切り落とすことにしました。切り落とした頭部は熱湯に5分間漬けこみ,毒の失活後に廃棄することにしました。

◎危険②マムシの寄生虫

マムシに寄生虫?と思うかもしれません。しかし,野生マムシの中には人体へ感染する寄生虫がいることが知られています。

顎口虫といいます。顎口虫は主に野生の淡水魚(ライギョやドジョウなど)を中間宿主としており,それらを生食した際に人体に感染すると知られています。マムシにも寄生している場合があり,生食による顎口虫症が発生した事例があります(磯ノ上ら(1990))。

顎口虫症の症状としては虫が皮膚内を移動し激しく痛みます(皮膚爬行症あるいは皮膚顎口虫症などと呼ばれる)。体内を自由に動きまわるので、幼虫の侵入部位目の中に入り込んでしまい失明したり,喉の中に入り込み喉が腫れてしまい呼吸困難に陥ったり、頭の中に入り込み脳障害を引き起こしたりなどが報告されているようです。想像するだけでも鳥肌ものです。。。

また,顎口虫の他にも何らかの寄生虫がいる可能性は大いにあります。この手の寄生虫は酢締めなどでは死なないことが多いので,十分な加熱で死滅させましょう。

今回は,寄生虫対策として皮と内臓を摘出後に家庭用冷凍庫(-18℃前後)で1晩凍結後,加熱調理することにしました。(今回,顎口虫がどの程度凍結に耐性があるのかを調べきることができなかったため,凍結1晩に効果があったかは不明です)

この手の野生生物をいただく時には,何らかの寄生虫がいるかもしれないと肝に銘じておき,生で食べないことですね。

◎調理編(閲覧注意です)

上記2つの危険を十分に考慮した上で,マムシを食べてみることにしました。十分な加熱を行うため,揚げ物(南蛮漬け)にしました。
今回は全長50㎝前後のマムシ2尾を調理に供します。

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頭部を切り落としました。
この時に,頭を下にして脱血を行います(写真を撮り忘れました)。
その血を度数の高いお酒で割って飲むと精力が付く,なんていいますが,寄生虫のリスクを考えるととてもじゃないけど怖くてできません。

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内臓を出して,皮を剥ぎます。かなり綺麗に剥くことができます!

2尾中,1尾は頭部を落として綺麗に脱血できたのですが,もう1尾が上手くできなかったので,分けて調理し,食べ比べてみることにしました。

さらに・・・ッ!?

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1尾太っている個体だと思ったら,中には子マムシが入っていました。母親だったようです。(マムシが卵胎生であるなんて知りませんでした)

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 合計4尾の子マムシ。マムシの子供は母親を食い破って出てくるという話を聞きますがあれは嘘で,普通に総排出腔から出てくるみたいです。せっかくいただいた命なので,この子らも同様に捌いて食べることにしました。

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捌いてわかったのは,子マムシらの尾は色素が薄いみたいです。
これから色が着くのかな?

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脱血上手くいった個体

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脱血失敗した個体

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剥いた子マムシ

捌いたマムシを家庭用冷凍庫で1晩放置,解凍,ぶつ切りにして高温の油で揚げました。粉は付けず,素揚げです。

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ただ,ぶつ切り時にかなり骨が硬かったので,
揚げ(1度目)→冷凍による脱水→揚げ(2度目)作戦
にして骨までサクサクにしました。

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揚げ(1度目)終了時

紙コップにいれた状態で,1晩冷凍乾燥させます。ラップ等蓋はしません。

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揚げ(2度目)を経て,南蛮漬けのタレへ!

マムシ特有な味は感じられませんでした(南蛮漬ける前にもつまみ食いしましたが・・・)。筋肉より骨の割合が高いからか,印象としては硬めのウナギの骨せんべいって感じです。美味しいです。

正直,脱血の有無は味の違いには反映されませんでした。小マムシは比較的骨も柔らかくポリポリ食べられたので満足です。

加熱までのすべての作業は基本的にゴム手袋と使用し直接触れないようにしました。また,使用した器具については,毒や寄生虫が付着している可能性があったため熱湯による消毒と塩素による消毒を併用しました。(かなり気を遣いました)

美味しかったですが,またこの苦労をして食べたいかと問われると悩みますね。

これを読んだ上で,食べてみたいという方は自己責任でお願いします。

◎参考文献
宇部市医師会外科医会HP 「マムシに咬まれたら」
http://www.yamaguchi.med.or.jp/g-med/ube/consultation/014.html

小管隆夫 (1968)「マムシ蛇 (Agkistrodon halys Blomhoffii) 毒の毒性に関する研究」北関東医学18巻4号

愛知県衛生研究所HP 「日本顎口虫(がっこうちゅう)症」
https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/5f/gnathostomiasis.html

磯ノ上 正明, 硲野 哲, 東 禹彦(1990)「マムシの生食により発症した顎口虫症の1例」皮膚32巻4号






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