見出し画像

2021年3月に読んだ本

 三島由紀夫×2、カズオ・イシグロ、村上春樹と今月読んだ本は純文学4冊に染まった。純文学が何かという問いはひとまず横に置いとくとする(その質問の一つの答えについて『響〜HIBIKI〜』の中で言及があるので、関心がある人は一読してみてほしい)。

 読書メーター内での感想でも書いているが、カズオ・イシグロは私が留学期間中に授業で読んだ(原文で読まされた)作家の一人だった。2016年当時はまだ氏がノーベル賞を取る前で、ノルウェーでも知られてる日系の作家がいるんだなあとぼんやり印象に残っただけだった。2018年にノーベル文学賞を取って以来初となる長編小説で、手に取った時は「お久しぶりです」という言葉が思わず口から出た(嘘)。とはいえ留学当時は物語の概要は追えても、詳細な表現はやはりというか、全く記憶に残っていない。そこまで深く向き合うだけのReadingスキルと根気が自分にはなかった。そういう意味では「はじめまして」の方が適切かもしれない。翻訳家の方のお力を借りて改めて相対してようやく、作者の文章表現の美しさに気づくことができた。本作はAIが出てくる近未来が舞台で、登場する子どもたちはほとんど皆、”向上手術”なるものを受けている。受けていないものはマイノリティとして他の子ども、あるいは親たちから奇異の目で見られている。”差別はいつの世にも残るのだ”と世知辛いメッセージを受け取ることができる。つらみ。

 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は比較的最近の村上春樹作品(といっても2013年発売)なのにまだ読んでいなかった。父親から「読んだか?」と訊かれて「読んでない」と伝えたら、渡された(押し付けられた)。多分感想について語りたかったのだろう。自分も映画やら漫画やらで友人によくやるのでその心理はめっちゃ分かる。
 作品自体は村上らしさもありつつもテーマが一貫していて、大変読みやすく感じた。サンショウウオが口から出てきたり、高速道路の非常口から梯子で降りたり、井戸が出てきたりしない。村上春樹に手を出したことがない人への入り口として勧められそうだ、と感じた。

--

3月の読書メーター
読んだ本の数:4
読んだページ数:1416
ナイス数:135

獣の戯れ (新潮文庫)の感想

 三角関係に事件の被害者-加害者という関係性のスパイスを入れることで奇妙な味わい深さが出ている作品。一見スッと物語に入りにくい序章に配置された犯罪と死の匂いが物語後半になって花開き、読了後にもう一度序章を読むとその発言の一つ一つが全く異なる意味合いを持つことに気付かされる。優子も喜美もどこか影がありつつも魅力的で、三島由紀夫の女性の(あるいは性自体の)描きっぷりたるや。 潮騒でもそうだったが港町の描写、そして海の男の表現もまた三島由紀夫の持ち味である。
 それにしても三島由紀夫はマジでちんちんの比喩表現語彙が豊か過ぎる。
読了日:03月02日 著者:三島 由紀夫

金閣寺 (新潮文庫)の感想

 己を美から最も遠い存在であると認識している主人公・溝口はその対極に金閣を置く。美しさの極みである金閣は単なる建造物という概念を越え、事あるごとに彼の眼前に現れ恍惚感を与える。一方で彼は善の象徴たる鶴川と悪の象徴たる柏木という学友を得、大きな影響を与えられながらその人格を形成していく。
 実際に昭和25年にあった事件を元に書かれたこの物語は、その犯人を主役に据え、人間の内に潜む「狂気」を善悪混ぜ合わせて描いている。彼の持つ障碍や環境、大切な人の死や裏切りが彼の「行為」への信奉を加速させていく。
読了日:03月14日 著者:三島 由紀夫

クララとお日さまの感想

 著者カズオ・イシグロの作品は私が留学していた時に授業で読んだNever Let Me GoとThe Remains of the Day以来となる。2017年にノーベル文学賞を取って以降初の長編小説である。 内容は病弱な少女・ジョジーの元にAF(AIロボット)がやってきて色々とお世話をするお話。ただしAF・クララがジョジー家に来たのには裏の理由がある。。。
 ちょっと近未来なSFな世界観でありながらダークな側面も感じさせる点は星新一っぽさがあるけれど、子どもとの触れ合いなどはトイ・ストーリーを彷彿とさせ、心を暖かくしてくれる。
読了日:03月21日 著者:カズオ・イシグロ

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)の感想

 すごく読みやすい村上春樹小説という感想を持った。友情と死と性愛が折り重なり合い作り上げられるシンプルで重厚なストーリー。そしてその細部にはつい心に留めておきたくなるような、どこかで引用したくなるような名言の数々。
 ──歴史は消すことも、作りかえることもできないの。それはあなたという存在を殺すのと同じだから。──
 ──僕は怖いんだ。自分が何か間違ったことをして、あるいは何か間違ったことを口にして、その結果すべてが損なわれ、そっくり中に消えてしまうかもしれないことが。──
 印象に残った言葉は自分の心の写し鏡でもある。
読了日:03月28日 著者:村上 春樹

--

 読書習慣を続けてみて3ヶ月、だんだんと自分の読めるスピードというかキャパみたいなものが分かってきた気がする。現状、一日平均50ページ、週に一冊、月に4,5冊。スマートフォンとかを無為に触っている時間を読書等に割いて、少しでもそのキャパを大きなものにしていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?