ポケットモンスター スカーレット・バイオレットレビュー 大いなる挑戦とその課題

ポケットモンスター スカーレット・バイオレットをクリアしたので、レビューを書こうと思う。ちなみに筆者がクリアしたのはバイオレットの方なので、その辺は留意していただきたい。


概要:シリーズ初のオープンワールド

まずはポケットモンスター スカーレット・バイオレット(以下ポケモンSV)についての簡単な説明から。
ポケモンSVとは、任天堂から発売されたポケットモンスターシリーズの2023年現代での最新作であり、世代で言えば「第9世代」にあたる。
今作最大の特徴は、フィールドが非常に広くなったこと。事実上の前作に当たる「アルセウス」もかなり広いフィールドだったが、それでもいくつかのロケーションでマップが区切られている構成だった。
今作は、一つのマップに様々なロケーションがシームレスでつながる構成となっており、名実ともにオープンワールドと言えるゲームとなった。

視認性も良く、フィールドに落ちているお宝やレイドバトル・テラクリスタルポケモンといった特殊なバトルはしっかりと識別できるようになっており、回復ポイントとなるポケモンセンターや中継地点となる物見塔も、遠景でも分かりやすく存在感を出している。町以外では、ポケモンセンターと物見塔もファストトラベルの対象であり、移動でストレスを感じることはほとんどなかった。

また、そのフィールドも、穏やかな草原や湖、乾燥地帯に砂漠、険しい雪山に謎に満ちた大穴とバリエーションに富んでおり、プレイヤーを飽きさせない。なによりも、広大なフィールドを多種多様なポケモンが自由に歩き回っているその光景こそが、ファンが長年夢見てきた光景の一つではないだろうか?物語序盤のイベントを終え、本格的な冒険を開始した時、まだ見ぬ光景とポケモンを探索することにワクワクするのはファンなら誰しも経験したことだと思うが、今作のワクワク度合いは前作よりもさらに一歩進んだものとなった。それだけでも、オープンワールドにした甲斐があったというものだろう。

ストーリー:3つのメインストーリーで語られる、学生の悩み

次にストーリーについて
まず前提とした、今作は学園物であり、主人公が今作の舞台となる「パルデア地方」のアカデミーに入学するところから物語は始まる。ストーリーの中心となる人物はいずれも学生であり、そんな学生の悩みが今作のメインとなる。
今作のメインストーリーは「チャンピオンロード」「レジェンドルート」「スターダストストリート」の3ルート用意されている。攻略の順番は自由で、どのルートから攻略してもいいし、3ルート並行して攻略しても問題ない。各ルートのボスのレベルは固定のため、勝てないと感じたら、他のルートを攻略して、ポケモンを強化してから改めて挑戦した方がいい。
以下、それぞれのストーリーについて解説する。

チャンピオンロードについて


従来のシリーズと同じで、各ジムを巡りポケモンバッジを集めチャンピオンを目指すストーリーとなる。
中心となる人物は今作のライバルにあたる「ネモ」。アカデミーの生徒会長でもある彼女はその優れた才覚により、ゲーム開始時よりチャンピオンランクを称号を得ているという異例のライバルである。だが、その強さゆえに他者にポケモンバトルを持ち掛けても断られ続けるなど、快活な性格とは裏腹に欲求不満な日々を過ごしていた。
そのため、主人公に対しては自分と対等に戦える存在として、大きな期待をかけ積極的に絡んでくる。そのバトルジャンキーぶりが印象に残るが、チャンピンで生徒会長と恵まれた立場ゆえに自身の理解者が存在しないという強い「孤独」を抱えている。
また、本人は天才と呼ばれることを嫌っており、好きなことに懸命に励んでいただけだと語っている。自身の好きなことに励んだ結果、唯一無二の存在となり強い孤独に陥った彼女は、現代でもてはやされる「多様性」の矛盾を感じさせるキャラクターと言えるかもしれない。

レジェンドルートについて


ぬしと呼ばれるポケモンと戦い、秘伝のスパイスを手に入れることが目的のルート。中心人物は主人公の1学年先輩にあたる「ペパー」。ぬしは一般的なポケモンと比較して強力な力を備えているなど、危険な存在である。なぜ彼がそのような危険を冒してまで秘伝のスパイスを求めるかというと、ポケモンセンターでの回復もできないほどの大けがを負った相棒、マフィティフを回復されるために他ならない。優秀な科学者である彼の両親は、その優秀さ故に多忙を極め、幼いペパーと一緒の時間を過ごすことがほとんどなかった。そんな彼の心の隙間を埋めてくれたのがマフィティフであり、彼にとってはかけがえのない存在であった。レジェンドルートは他のストーリーと比較しても評価が高い傾向が見られ、特にシナリオを進めるごとに徐々に回復していくマフィティフとそれに喜ぶペパーの姿は、多くのプレイヤーにとって印象的だったようだ。特に犬や猫を飼っていたプレイヤーにとっては他人事とは思えなかったのではないだろうか?筆者もかつて実家で猫を飼っていたが、病気で徐々に弱っていく猫の前に、何もできない無力な自分を否が応でも思い知らされた経験がある。プレイ中もその時のことを思い出し、ルート後半でマフィティフが回復した時は心から安堵した。
また、後述するがペパーは今作のキーパーソンである伝説ポケモン「コライドン/ミライドン」や「オーリム博士/フトゥー博士」とも関係が深く、終盤のメインストーリーに最も深く関わるキャラクターであり。その辺も、彼が特に印象深い要因の一つかもしれない。
ちなみに秘伝のスパイスを入手すると、コライドン/ミライドンのライド機能が拡張され、探索範囲が広がるため、ゲーム的にも重要なシナリオである。

スターダストストリートについて


アカデミーの不良集団、「スター団」と戦い、団を解散させるのが目的のルート。中心人物は、団の解散を依頼した謎の人物「カシオペア」。また、アカデミーの校長である「クラベル」も利害の一致から協力することになる。スター団は歴代ポケモンで言う悪の組織に該当するが、少なくとも作中では目ぼしい悪事を働いた様子はない(せいぜい団員の強引な勧誘と、アカデミーの備品の無断持ち出しぐらいか)。団の雰囲気もゆるく、そもそも「お願い」はできても「命令」はできないという掟もあり、かなり和気藹々とした雰囲気を感じる一方で、団結力や仲間意識は極めて強い。また、ルートのボスにあたる団長は「売られた喧嘩は必ず買わなければならない」「挑戦者に負けた場合、ボスの座を引退しなければならない」と幻影旅団のような厳しい掟の存在もあってか、他のルートと比較しても強敵が多い。
ストーリーが進むにつれて明らかになるが、スター団の団長はいずれもアカデミーのいじめの被害者であり、スター団の結成理由もいじめに対する自衛が目的であった。彼らの尽力もあり、アカデミーからいじめはなくなったが、スター団を結成したリーダーである「マジボス」が解散を宣言したのち姿を消したこと、さらに当時の教頭が事実を隠蔽したことも重なり、アカデミーに居場所をなくした団員たちは今でもマジボスの帰還を待ちながらスター団を存続させている。団長たちが強敵ぞろいなのも、なんとしても団を守らなければならないという決意から来ているのかもしれない。
また、このスターダストルートはBGMも良曲ぞろいで、エレキギターとシンセサイザーを主旋律とした激しいメタルロックの「スター団ボス戦」と、曲全体にガバキックを響かせたハードコアテクノの「マジボス戦」は特に印象的だ。ともに不良集団らしい激しさを前面に出しながら、サビではヒロイックな主旋律を響かせ、そしてわずかな寂寥感を感じさせるそのBGMは、スター団の経緯を一曲で明確に表しているといえる。

3ルートクリア後について

全てのルートをクリアすると、いよいよ物語はクライマックスに突入する。3ルートでメインを務めたキャラクターが一堂に会し、今作最大の謎であるコライドン/ミライドンの正体と、パルキアの大穴の謎に挑む終盤は、それまでの伏線がきっちりと消化されることもあって完成度が高い。
また、大穴に挑む道中に仲間同士が会話するのだが、その内容においても各ルートでの成長した姿を見せてくれる。特にコライドン/ミライドンやオーリム博士/フトゥー博士と関わりの深いペパーは、その複雑な感情を一言一言で上手く表現している。

まとめると、総じて完成度の高く印象的なストーリーだった。内容に欠点らしい欠点は特に見られなかったが、あえて言うなら声がないことか。ドット絵の頃と違い、今作は多少デフォルメされているが、キャラクターは3Dで表現されており、その仕草や表情で多種多様な表現を行っている。それだけに声がないことに強い違和感を感じる。いくつかあるムービーシーンや道中歩きながらの会話シーンなどは、声があることで没入感がさらに高まると思われるのだが。とくに歩きながら会話するシーンは、セリフが字幕で表示されるのだが、プレーヤーはマップを確認しながらセリフも追わなくてはならないため、正直煩わしさを感じた。エンカウントするとセリフがカットされるのもいただけない。結局、セリフが終わるまで主人公を動かさない方法で解決したのだが、これはつまり、声がないことで明確にゲームプレイに阻害が出ていることに他ならないのではないだろうか?次回作では改善されることを願う。

戦闘:いつもの+新要素

次に戦闘について
と言っても、戦闘については従来とあまりルールは変わっていない。相変わらずの相性ジャンケンである。
新要素の目玉として「テラスタル」というものがある。これは、1戦闘中に1回しか使えないが、戦闘中にポケモンの相性を変えて、相手の意表を突くシステムである。例えば、でんきタイプのポケモンはじめんタイプの攻撃が弱点だが、テラスタルでひこうタイプに相性を変化させると、じめんタイプの攻撃を無効化しつつ、でんきタイプの攻撃で弱点を狙える、といった具合だ。このため、バトルの際は今までの相性に加え、どのポケモンがテラスタルを使ってくるのかを考えながら戦略を組まなければならない。要は、プレイヤーの戦略の幅を増やし、対戦をより面白くするためのシステムである。ジムリーダーや四天王もテラスタルを使用してくるが、使用するタイミングやポケモンは同一のため、対策はそれほど難しくない。本編のバトルは、あくまで対戦プレイのためのチュートリアルというわけである。
もっとも、筆者はシングルプレイが基本で、協力や対戦プレイをすることはないため、あまり恩恵を感じなかったというのが正直な所だ。

その他:歴代でも特に優れた成長システム

次に成長システムについて
ファンにはおなじみだが、ポケモンの成長要素は多岐にわたる。種族値・個体値・努力値・性格・特性・所持アイテム・加えて本作ではテラスタルタイプもある。今作では、完全固定の種族値を除くほぼすべての成長要素にフォローが効くようになった。ゲーム内の通貨さえかければ、努力値・性格・特性を変えることは容易だし、個体値とテラスタルタイプも若干手間はかかるが、フォローは可能だ。そのため、クリアしてから対戦のための育成を始めても十分間に合うため、ゲーム本編中はあまり意識しなくて済む。この辺のプレイヤーに対する気遣いはさすがの一言だ。

ピクニックについて
前作のキャンプにあたるシステムで、フィールドでピクニックを行いポケモンと触れ合うことができる。
特に注目すべきはサンドイッチの作成であり、入手経験値の補正や特定の種族に出会いやすくなるなど、様々なバフを得ることができる。ポケモン図鑑の完成や育成など、お世話になることも多い。
ちなみにこのサンドイッチ作成、どうも物理演算に問題があるらしく、筆者は遭遇したことないが、具材が爆発四散したり、具材を重ねると宇宙にまで飛び出したりするらしい。興味がある人は動画サイトなどで調べてみてほしい。

気になったこと:挑戦的ゆえに多くの課題も

最後に気になった点を
はっきり言って、今作は気になった点がかなり多い。
まずはグラフィック。現代のゲームとしては、お世辞にも優れているとは言えない。ポケモンの世界観を損なうほどではないが、全体的に雑さが目立つ。また、カクツキや処理落ちも多く、ポケモン大量発生時はその点がかなり顕著に表れる。より問題なのは、一部のポケモンが小さく、視認性が悪いこと。そのため、予期せぬエンカウントに遭遇することもあるし、そのポケモンがすでに捕獲したものかどうかわかりづらいという問題もある。
さらに、戦闘終了後すぐに主人公の当たり判定が復活するらしく、連続で戦闘に入ることもしばしば見られた。

また、ロックオンシステムも問題だ。といってもエンカウント前にポケモンの名前とレベル、現在捕獲したかどうかを判別するなど、ロックオン機能自体は優秀だ。問題はロックオンそのものが極めてやりづらいこと。方法はポケモンの近くでZLボタンを押し続けるというシンプルなものだが、これがまるで反応しない。どうも向きや高さが違うと反応しないようだが、その判定もあいまいで、至近距離まで近づいているのに反応しないこともザラだ。筆者はあまりの使いづらさに後半では全く使わなくなった。

また、ボックス表示の遅さも気になる。今作ではボックスを選んでもポケモンが表示されるまで1~2秒ほどのタイムラグが存在する。たった1~2秒と思うかもしれないが、ボックスはゲーム中頻繁に確認するため、どうしても気になってしまうのだ。

総じて、全体的なパフォーマンスの不足が気になる結果となった。本作が初の本格的なオープンワールドということもあり、開発スタッフがまだこなれていない印象を受ける。この点は次回作に期待したいところだ。

総評:気になる点も多いが、総合的にはシリーズの新たな可能性を示した名作

新たな挑戦の際には苦難がつきものである。ポケモンはすでに十分なコンテンツ力を備え、従来の方向性道理に新作を作っても一定の評価を得たことは間違いない。その上で果敢な挑戦をしたことをまずは称えたい。
肝心の内容も、学生という立場を活かした思春期ならではの様々な悩みを描いたストーリーや、新たなシステム「テラスタル」によってより戦略性が深まったバトル、なにより広大にフィールドを自由に動き回るポケモンたちという、ファンが夢に見てた光景を現実に表現したのが素晴らしい。内容的には文句なく名作と言えるレベルである。
一方、全体的なパフォーマンス不足や、声が無いことによる演出面の物足りなさなど、気になったところがあるのも事実。 
言い方を変えれば、まだまだ可能性があるということ。次回作にもぜひ期待したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?