新すばらしきこのせかい 渋谷を舞台に繰り広げられる、少年たちの成長物語

 ゲームに限らず、続編を成功させるのは難しい。特に、前作の人気が高ければ高いほど、続編に求められるハードルは上がる。また、前作から時系列が離れていない続編だと、前作キャラをどう扱うかという問題も発生する。前作が大団円で終わった作品なら、なおさら蛇足と捉えられる可能性が高くなる。
 今回取り扱う「新すばらしきこのせかい」は、単体のゲームとしても良作だが、前作「すばらしきこのせかい」の続編として見た場合にさらに評価が上がるという、続編としては理想的なタイトルと感じた。なぜそう感じたのかを中心として記事を書こうと思う。

概要

  まずは前作に当たる「すばらしきこのせかい」について紹介したい。「すばらしきこのせかい」はスクウェア・エニックスより2007年7月27日ニンテンドーDSより発売されたアクションRPGである。2画面同時操作とういうニンテンドーDSならではの操作体系を活かした画期的なゲームシステムと、少年漫画の王道を行くナリオにより、新規タイトルながら国内外で高い評価を得た名作である。
 ストーリーは、内向的な少年「桜庭音操(ネク)」が渋谷を舞台に繰り広げられる、自らの存続を懸けた「死神のゲーム」に巻き込まれ、パートナーとともにゲームが行われる1週間を生き残るために戦う、というもの。導入こそやや突飛だが、ゲームを進めるうちに内向的であったネクが徐々に他者に心を開いていくという、少年の王道成長物語である。
 戦闘システムは、DSのタッチペンと十字キーを同時に操作し、2画面それぞれで別々に戦うネクとパートナーを同時に操るというほかに類を見ない独特なもの。そんなことが可能なのか?と思うかもしれないが、プレイしてみると意外と何とかなる。ぶっちゃけ、パートナーを操る十字キーでの操作は割と適当でも問題なかったりする。
 とまあ、プレイヤーからはおおむね好評で、当然続編を望む声も多かったが、移植やリメイク・さらにキングダムハーツシリーズにキャラがゲスト出演するなどちょくちょく顔出しするものの、肝心の続編はなかなか発表されなかった。そして、「すばらしきこのせかい」の発売から14年後、およそ小学校を2回卒業するほど期間を経て待望の続編がようやく発売される。それが今回取り扱う「新すばらしきこのせかい」である。

物語

 ごく普通の高校生、奏竜胆(リンドウ)は友人の觸澤桃斎(フレット)と渋谷で遊んでいたところ、突如として謎のサイキックバトルに巻き込まれ、
渋谷のUG(アンダーグラウンド)で行われる「死神ゲーム」に否応なく巻き込まれる。最初は遊び半分でゲームを進める二人だが、日が進むににつれ徐々に違和感を感じることとなる。やがて二人に明かされる「死神ゲーム」の隠されたルール、それはゲームの敗者はその存在が抹消されるという事実だった。リンドウとフレット、そしてUGで出会った彼らの仲間たちは、自らの存在をかけて「死神ゲーム」に挑むこととなる、というもの。

 今作のストーリーを簡単に言い表すと、いわゆる「バトルロワイヤル+デスゲーム」の死神ゲームを舞台とした少年たちの成長物語である。ストーリー全体を通して細かな伏線やミスリードが張り巡らされており、序盤こそやや退屈な面も見られるが、ゲーム中盤にあるキャラクターが加入したあたりから徐々にエンジンがかかり始め、終盤では状況が二転三転し、先の読めないスリリングな展開が続く。特に最終盤に敵の黒幕の計略にはめられ、全く逆転の布石が見えないまま立ち向かわざるを得ない状況に追い込まれた際の絶望感はすさまじい。そこからそれまでの伏線が一気に消化され、最終決戦に向かう際にカタルシスもまたすさまじく、ストーリーの演出で言うなら最近プレイしたゲームのなかでも一二を争うほど熱い展開を見せてくれた。

 また、前作ファンへのサービスが随所に行き届いていることも今作の評価を高めている一因だろう。今作は前作から3年後の物語だが、前作のメインキャラたちは3年の月日を経て成長した姿をプレイヤーに見せてくれる。特に印象に残ったのは前作の仲間の一人である尾藤大輔之丞(ビイト)。直情型の熱血漢で、前作では短慮な面が目立ちプレイヤーとネクをやきもきさせる場面も目立ったが、3年の月日を経て直情型な性格はそのままに短慮さは鳴りを潜め、悩みがちな今作のリンドウたちを力強く引っ張ってくれる姿は、非常に感慨深いものがあった。また、前作の敵の一人であり、その独特のキャラクターからカルト的人気を誇る南師猩(ミナミモト)も印象深い。ゲーム序盤、まだ事態を把握していないリンドウたちの前に姿を現し、なかば強引に仲間になるという驚きの展開を見せてくれる。前作の敵というだけでなく、前作のキャラクターの中でもダントツに協調性のない彼が果たして仲間としてやっていけるのか?という疑問も出てくるが、相変わらず独特の語録をまくしたて、案の定まともにコミュニケーションが取れていない。それでも実力は本物のため、リンドウたちからは頼りにされてそれなりに良好な関係を築けているあたり、別の意味で感慨深い。

 と、総合的な完成度は非常に高い今作の物語だが、欠点も存在する。それは、シナリオの盛り上がり所が前作キャラに依存している部分が多く、前作をプレイしていないと、いまいちストーリーに入り込めないところである。今作だけでも充分良作レベルのシナリオではあるが、今作を120%楽しむためには、何らかの形で前作に触れておいた方がいいだろう。

戦闘

 画面を2分割してのパートナーバトルだった前作と違い、今作は最大6人の仲間が一つの戦闘フィールドで戦うという一般的なRPGに近いシステムとなっている。プレイヤーは操作キャラを動かし、移動や回避を駆使して敵との距離を測り、各ボタンに配置されたバッジで敵に攻撃を仕掛けることで戦闘を進める。バッジは近距離攻撃・遠距離攻撃・広範囲攻撃・回復などの基本的なものや、連続でビームを出し続ける・時限爆弾を設置する・高速で移動しつつ攻撃するといったトリッキーなものなど、幅広い効果を備える。戦闘で使えるバッジの数は仲間の数と連動しており、一回の戦闘で最大で6種類しか使えない。そのため自分なりの使いやすい組み合わせを考え、対応してく必要がある。とはいえ、そこまでシビアなものではなく、難易度調整がいつでもできることもあり、敷居はそこまで高くない。
 また、バッジごとに条件を満たすとゲージが出現し、ゲージ出現中に攻撃を命中させると、シンクロ率が上がっていく。このシンクロ率が一定の数値まで上がると、マッシュアップという特殊な攻撃を放つことが出来る。マッシュアップの威力は高く、特にゲーム後半になるとシンクロ率が300%まで上がるようになるが、その際に放つ必殺技は一定時間中は敵を一方的に攻撃でき、さらにチームのHPを回復されるという強力な効果がある。
 他にも、一部のバッジは成長することで別のバッジに進化するという成長要素や、難易度を上げると敵が強力なバッジをドロップする可能性があるという収集要素などもあり、プレイヤーを飽きさせない。特筆すべき点として、(前作もそうだが)今作はレベルをいつでも下げることが出来る。レベルを下げることと、連戦を重ねることで敵からのドロップ率を上げることが出来るが、当然全滅のリスクも高くなる。多少無理をしてでも強力なドロップアイテムを狙ってみるか、それとも見切りをつけて先に進むかはすべてプレイヤー次第である。

 また、今作の成長要素として欠かせないのが、ファッションと食事である。ファッションは一般的なRPGの装備品にあたり、装備をすることでパラメータがアップしたり、装備品に備わったアビリティを使うことが出来る。食事は永久的なパラメータアップの効果があるがカロリーが備わっており、カロリーが一定の値を超えるとしばらく食事をすることが出来ない。再び食事をするためには、戦闘でカロリーを減らす必要がある(食後の運動)。ちなみに今作ではレベルアップではHPのみ上がり、攻撃力・防御力・センス(装備品のアビリティを引き出すためのパラメータ)は食事をとることでしか上げることはできない。ちなみに装備品にはどうみても男物と女物があるが、キャラクターは一切の制限なく装備できる。ワンピースを着てハイヒールを履いた男など変態としか思えないが、今作ではその姿に誰もツッコミを入れない。あえてスルーしているというわけでもなく、その姿に一切の違和感を感じている様子がない。さすが自由の街、渋谷といったところか。

 ちなみに、今作の戦闘の欠点として、敵にダメージがやや通りにくい傾向がある。序盤はそれほど気にならないが、中盤以降は敵のHPの上がり方と比較して味方の攻撃力の上がり方が少なく、戦闘が長期化しやすい。こまめに食事をとりパラメータを強化することである程度解決できる問題だが、レベルが上がるだけでは攻撃力はあがらないという点は気づきにくいかもしれない。

自由の街、渋谷

 今作を語る上で外せないのは、制作スタッフの渋谷に対する深い愛着だろう。渋谷の象徴であるスクランブル交差点をはじめ、道玄坂・スペイン坂・キャットストリート・竹下通りと言った渋谷の名所が再現されており、雑多な渋谷という街を体感することが出来る。渋谷を舞台とした名作にチュンソフトのサウンドノベル「街」「428」があるが、これらが実写だったのに対し、今作ではコミック調のグラフィックで再現されている。コミック調とは言え、その再現度の高さはプレイヤーからも評価されており、自由に街中を移動できることもあり、実際の渋谷を散策してる気分になる。
 また、今作は多数のメインキャラクター、サブキャラクターが存在するが、彼の関係性をまとめたキャラクターボードを見ることが出来る。リンドウを中心に渋谷に住む人々の関係性をまとめたキャラクターボードは、ゲームを進めるごとに徐々に情報が解禁されていき、意外なキャラクターの繋がりを確認できるなど、見ているだけでも面白い。さらに、メインストーリーやサブクエストを攻略することで手に入るCPというポイントを消費することで、アイテムが手に入ったりシステムが拡張されたりもする。いわば、渋谷に住む多くの人々が渋谷の危機に際してリンドウたちに力を貸していると見ることもでき、終盤の展開を合わせて考えると非常に熱いものがある。

 ちなみにツッコミ所として、今作は前作から3年後を舞台としているが、リアルタイムとしては14年ぶりの続編であること、そしてお互いに当時の渋谷を再現しているため、文明の発達ぶりがすさまじいことになっていることが挙げられる。特に自分が記憶している限り、前作では所持しているキャラクターが全くいなかったスマートフォンは、今作はほぼすべてのキャラクターが所持しているばかりでなく、ゲームアプリやLINE(のようなもの)を扱っているなど、わずか3年しか経過していないのに、あり得ないほど文明が進化している。この急激な文明の進化になんの違和感もなく適応している今作のキャラクターたちの姿は、見方によっては渋谷という街の自由さを象徴しているように思えなくもないかもしれない。

総評

好評を博した前作ファンの期待を背負って販売された今作は、前作ファンの期待にしっかりと応え、様々な部分で前作からの進化を感じさせる速編としては理想的な名作と言える出来となった。
反面、続編としての完成度が高すぎるあまり、今作からプレイする新規プレーヤーを置いてきぼりにするような面もいくらか目立つ。特に評価の高いストーリーは、前作をプレイしたからこそ刺さる部分も多く、今作だけプレイしても十二分に楽しめる出来とはいいがたい。もし今作を気になった方がいれば、何らかの形で前作に触れておいた方が良い。
逆に言えば、前作プレイヤーには文句なくお勧めできる作品である。渋谷を舞台に繰り広げられる新たな死神ゲーム、それに巻き込まれたリンドウとその仲間たちの物語の顛末は、ぜひプレイヤー自身で体験してほしい。

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