血煙と爆音の静の復讐譚「マッドマックス:フュリオサ」
初日にドルビーアトモス字幕版で鑑賞。エンジン音がとにかく素晴らしいので、劇場を選べる人は音響重視で選ぶと良いです。
さて、本作は日本でも大変話題になった「マッドマックス:怒りのデス・ロード」の前日譚にあたり、怒りの〜で妊婦たちを連れてイモータン・ジョーの砦から脱出した大隊長フュリオサの生い立ちを描いた作品になります。
主人公を演じるのはアニャ・テイラー=ジョイ。ラストナイト・イン・ソーホーや、スプリットでのヒロイン役や、日本では配信スルーだったマーベル映画ニュー・ミュータントの演技が記憶に残っており、やはり所謂美人系の役が多い印象でしたので、シャーリーズ・セロンが演じたフュリオサの若い頃を演じると聞いて不安視した人も多かったのではないでしょうか。しかし実際画面に写った彼女は、もともと印象的だった目力を生命力に変え、過酷な環境でたった一つの希望を抱き続けて生きるフュリオサを見事に演じきっていたと思いました。
また、本作の悪役であるディメンタスを演じるのはクリス・ヘムズワース。ソーやタイラー・レイクなど、力強いヒーロー的な役柄が印象的ですが、Netflix映画のスパイダーヘッドでは悪役も演じており、本作ではフュリオサにとっては母の仇である憎たらしい役ながら、時にコミカルでカリスマ性も感じさせる、武装バイク軍団のリーダーを好演していました。
ストーリーは3日ほどを描いた怒りの〜とは違い、緑の地から連れ去られた幼いフュリオサが、成長し、母の仇をうつまでの15年を描いていました。そのため、序盤のフュリオサは別の子役が演じていたのですが、ウォーボーイズ(イモータン・ジョーの若き親衛隊みたいな存在)にまぎれて常に顔を隠していたこともあり、いつの間にかアニャ・テイラー=ジョイに入れ替わっていて、この辺りの自然さにびっくりしました。ものすごく目元が似ている子役を選んだなあ、と感心します。
そういえば本作では、冒頭に劇中の荒廃した世界になった背景をさらっと描写していたのですが、そこで本編に入る前、地球儀がオーストラリア大陸にズームインする描写があり、もともとオーストラリア映画であったことは理解していましたが、マッドマックス2以降は結構無国籍感も強い作品世界であったため、オーストラリアでの話ですよ、と示したことは逆に新鮮でした。オーストラリアだとあの広大な砂漠もすごくしっくりきたりも。
マッドマックスシリーズと言えば、80年代に大ヒットした北斗の拳の世界観に大いに影響を与えた作品。そういうこともあり、日本の観客にとっては非常に馴染み深いヒャッハー世界なのですが、怒りの〜以降はウォーボーイズや、V8(エンジン)信仰といった新たな魅力的要素を追加し続けてくれるシリーズでもあります。
前日譚である本作は、そういう新規要素は少ないながら、フュリオサが中盤入手する銃がマックスの愛銃としてこちらも80年代の厨二病男子たちを虜にしたソードオフ・ショットガンであったこと、過去作でも大活躍したモンスターのような改造車を製作するシーンを丁寧に描写したことなど、旧作ファンがニヤリとしたり、もっと見たかったシーンを描いてくれたりとサービス満点な部分が大満足でした。
そのうえで今回は主人公が女性(怒り〜もフュリオサ主人公と言えるのですが)で、理不尽な暴力をふるう男性をぶっ飛ばすフェミニズム映画にもなっており、その面白さも相まって、アクションの面白さのみならず、考察する楽しみも与えてくれる奥深い作品になっていたと思いました。
ちょっと気になったのは、アクションシーケンスで一番盛り上がる部分が、巨大なウォー・タンク攻防戦が15分にわたって繰り広げられる中盤で、それ以降もアクションはあるもののそこまで派手ではなく、またディメンタスとの決着も、それ自体は結構あっさりしていたため、エンドロール後の高揚感は怒りの〜に比べると少なかったかな、と。
ただまあそれは些細な不満で。スクリーンいっぱいに広がる広大な砂漠、そこを激しいエンジン音を響かせて疾走する個性的なマシン、滅びゆく世界でそれでも逞しく生きる女性たちの生命力など、見どころだらけの作品であることは間違いなかったです。
パンフレットは1,100円。かなり読み応えがあった怒りの〜と同じ横長の冊子で、ページ数も全く同じ65ページで、構成もよく似ていました。個人的には幻のアニメ版を制作予定だった前田真宏さんのインタビューがとても興味深かったので、鑑賞後のお供に購入することをおすすめします。
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