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キラキラの世界を目指す、全然キラキラしていない(だがそれがいい)物語「トラペジウム」

アイドルをテーマにした作品はそこまで好きなわけではないので、個人的注目作が多かった5月映画からスルーしようかと思っていましたが、次女が好きな星街すいせいさんが楽曲を提供しており、見に行きたいとのことで、彼女の試験が終わるタイミングで鑑賞することに。
先週公開だったのでSNSでも色んな意見が飛び交うある意味話題作になっていて、とても鑑賞を楽しみにしていました。

実際に鑑賞して感じたのはその生々しさ。原作の高山一実さんについて私は元乃木坂の人という以外全く知りませんでしたが、主人公である東ゆうのアイドルになることへの執念は、彼女の中にあるものと実際に芸能界で経験した同僚、ライバルの生い立ちや性格を参考にしたであろう、フィクションだけどどこかリアルさを感じるものでした。アイドルデビューから逆算して、西南北の高校から目立つ可愛い子を、きちんとリサーチして友達として集め、様々な活動を通してテレビに映り、芸能界、ひいてはアイドルデビューを目指す。イレギュラー要素も修正しつつゴールに辿り着く様子は、あなた、人生何周目?と聞きたくなる周到ぶりでしたが、でも実際これくらいやれそうな人がいるのが芸能界なのかな、と妙に納得させられたり。
このデビューを逆算している描写は、彼女のノートからも伺えるのですが、映像自身もデビュー前の深呼吸から始まり、デビューシングル披露の瞬間に一旦収束する演出ともリンクしていたのが、本作のにくいところだと思いました。

アイドルに憧れ、アイドルを知り尽くした彼女が集めたメンバーは皆個性的。お嬢様系にロリ系に男子に幅広く受けそう系と、本当にバランスよく見つけてくるものだと、東ゆうが一番すぐれているのは審美眼で、次がプロデュース力だなあ、と感心しました。逆にセルフプロデュースについては、感情が挟まるためか、少なくとも高校時代はあまり得意じゃなかった様子なのも微笑ましかったです。

まあでも、本作の良さは東ゆうがここまであの手この手で集めたアイドルグループ東西南北(仮)が崩壊してく描写でしょう。それもそのはずで、そもそも東ゆう以外の3人は、彼女に「アイドルやりましょう」と言われて集まったわけではなく、それぞれやりたいことや個人的事情がありながらも、なんとなく活動していたらアイドルになっていたのですから。
ゆうと同じ方向に進むことを拒絶した時に東ゆうが見せる舌打ちの表情がいいですよね。アイドル、特にアニメで描かれるアイドルの幻想を打ち砕く感じがとても気持ちよかったです。
また、彼女たちの関係を頻繁に描かれる電車での立ち位置、座り位置で表現しているのも良かったです。主人公のモノローグ以外説明の少なめな印象ですが、電車や公園の展望台など、背景や光でその時の感情を表現しているシーンが印象的でした。

四人の関係が修復不可能になり、おそらくデビューシングル一曲で解散し、どん底まで落ち込み、そこから改めて自分と西南北の関係を見直す東ゆうの姿も素敵でした。やはり劇中で落ちるところまで落ちる主人公は輝きますね。

本作で策士っぷりと策に溺れる主人公像、ずっと既視感を抱いていたのですが、SNSの感想を見ていてわかりました。東ゆう、コードギアスのルルーシュ・ランペルージの女性版なんですね。なるほど魅力的なわけだわ、と妙に納得してしまいした。

そんな栄光と挫折を90分ほどで味わえる本作。最近の映画では上映時間は短めな部類に入りますが、メンバー集めから成功、挫折とそこからの再起まで過不足なく描ききっていました。特に10年後を描いたエピローグで、東ゆうが(TVの取材が来たらすぐに辞めた)ボランティアの話をするシーンをピンポイントで描き、本質が変わっていないところと成長している部分を描くシーンなど、無駄なく必要な要素を伝えきる本作の魅力が詰め込まれていました。
しかも全編通してしっかりグッと来るシーンも多く、なんならちょっと泣けるまでありました。この辺りはSNSの感想から感じられなかった嬉しい誤算です。

SNSの感想も序盤は興味本位の極端なものが多かったですが、すぐに絶賛と賛の意見が大勢を占めた本作。多少の好みはあるでしょうが、映画館で見て良かったと思える作品なのは間違いないと思いました。

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