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第96回アカデミー賞で感じたアジア系の現在地について

アカデミー賞に関するノートは、以前「コーダあいのうた」でトロイ・コッツァーが助演男優賞を取った際に話題になった当事者性についてnoteを書いたことがあります。あの時も的はずれな批判が結構ありましたが、日本でもろう者を多数起用したドラマが放送されたり、作り手の意識は確実に変わってきたと感じます。

そういう意味で、世界中から注目されている米国アカデミー賞受賞式は、良くも悪くも変えるべき世界の今をあぶり出してくれる文化的イベントになっているのではないでしょうか。

そんなアカデミー賞で今回悪い意味で話題になったのが、助演男優賞におけるロバート・ダウニーJr(以下RDJ)の振る舞いだったと思います。
キー・ホイ・クァンが読み上げ、RDJに渡したトロフィーですが、RDJは彼を一瞥もせず奪い取るようにトロフィーを手にし、他の白人系のプレゼンターとグータッチをしただけで、スピーチに入っていました。
私もその様子を中継で見ていましたが、その時はあれ?っと思う程度でしたが、終盤にSNSを覗いていたら、「炎上」しているとの文章を見て、あ、あれか、と感じる程度には印象が悪かったのだと思います。

ただ、SNSには、同じ映像を繰り返し見て、同じような怒りを感じている人の書き込みばかり見てしまい余計に怒りを募らせる、エコーチェンバーに陥りやすい側面があります。そのため、今回のnoteでも過剰に非難をするのではなく、可能な限り現象と今後自分はどう考えていくか、を中心に書いていくつもりです。

今回の件で印象的だったのは、欧米で似たような扱いを受けた日本人の体験談が多数SNSに挙げられたこと。日本人やアジア人は「透明な」扱いを受けることが多いとは聞いていましたが、様々な具体例を読むと、直接的な暴力を受ける訳ではない分、対応が難しく、根が深い問題だな、と感じました。
恐らく件のRDJも、「そんなつもりはない」のでしょう。ただ無意識に、人間=白人、という構図ができているだけだと思います。その次に黒人は長い差別の歴史があるからちゃんと扱わなければ、とか学習しているだけで、根っこの部分はなかなか変えられないのでしょう。

話を一般の経験からハリウッドに戻すと、アジア人や日本人の扱いについては、松崎悠希さんの実体験が今回の件を受けて解像度が上がりました。

ステレオタイプな日本人像を強制されるわ、メインキャストになってもポスタービジュアルから除外されるわ……。

それで思い出したのは、昨年公開された伊坂幸太郎の小説をベースにした映画、「ブレット・トレイン」。こちらも日本が舞台で、主人公のブラッド・ピットを除くとメインはアンドリュー小路や真田広之であるにもかかわらず、本国の宣伝では彼らはメインビジュアルから外されていました。これなどは日本が舞台で日本の小説が原作であるにもかかわらず、広報担当者の感覚だと「ストーリー上の役割にかかわらず、彼らをメインから外しても問題ない」となるのです。これは本当に、無意識に共有されている差別意識なんだろうなあ、とびっくりします。真田広之だと、SF映画「ライフ」でも、最後まで活躍したメインキャストにもかかわらず、序盤で退場したライアン・レイノルズにメインビジュアルを奪われていましたね……。本当に腹立たしい限りです。
また、ブレット・トレインもそうでしたが、日本を舞台にした作品におけるトンデモと言えば可愛らしいですが、適当な日本描写も、日本国内で見れば笑って楽しめるものですし、私も今までそうでしたが、アメリカ本国で公開されたら、それが映画を見た多くの人達にとっての”リアルな”日本描写になりかねないんですよね……。在米の日本人が忸怩たる思いに駆られるのも理解できます。

正直、昨年のエブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスが作品賞はじめ様々な賞を総ナメした現象について、私はあまりピンときていませんでした。作品としてもそこまで響かなかったこともあり、アジア人初は素晴らしいなあ、くらいの感想でした。
しかし今回の授賞式でのRDJの振る舞いから、いかに前回の出来事が衝撃的だったのか痛感しました。それこそ主催者側が、「前回アジア系受賞者が多く、彼らがプレゼンターになると盛り上がらないから5人にしよう」って考えたんじゃないかと勘ぐってしまうくらい。
アジア系が勝つとルールを変えるやり方は、F1やスキー、水泳で沢山見てきましたからねえ。
また、2019年に話題になった映画「ブックスマート」で、映画評論家の猿渡由紀さんが、主人公の一人をアジア人にしてほしかった、とコメントされていたことが、当時はなぜこういうコメントをわざわざ残したのか分かりませんでしたが、これも今回の件で、アジア系の人たちが透明になっている現実と結びつけることができました。

そういう文脈でも、このタイミングで真田広之主演の「SHOGUN~将軍~」が配信開始されたのはとても良かったと思います。

プロデューサーも兼ねた真田広之が、日本人スタッフを集め、考証にもこだわった本作は、西洋人視点の日本とは一線を画する描写がつづき、またハリウッドならではの潤沢な予算によって描かれる関ヶ原前の日本(登場人物はフィクション)は、圧巻の一言。いわゆる時代劇言葉遣いなど、日本人以外だれも喜ばないでしょうが、そこにまでこだわることができた素晴らしさは、上記のような状況を知ってから見るとただただ感動するばかりです。

初動はとても多くの人たちに鑑賞していただき、評価もかなり高い様子。このままエミー賞などドラマ部門の権威ある賞を取っていただき、今よりも欧米でのアジア系の人たちが対等(欧米のアジア人以外の意識の中で)になれるきっかけになってくれるといいな、と思わずにはいられません。

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