記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

藤田和日郎先生にも見てほしい「哀れなるものたち」

ヨルゴス・ランティモス監督作品は本作が初めてでしたが、とても楽しめました。聖なる鹿殺しとかも有名なので、見ないといけないなあ、と思ったところです。

そんな予備知識0で挑んだ本作ですが、冒頭のポストのように、しっかり楽しめる映画でした。

19世紀風のレトロフューチャーなヨーロッパを舞台に、フランケンシュタインの怪物ばりにツギハギだらけの医者が生み出した、自殺した女性に、彼女が宿していた胎児の脳を移植された存在、ベラ。
まっさらな状態で生まれた彼女が成長する中で、世界での女性の枷、貧困問題等に気づき、その先へ進もうとする物語。

まずは作られた世界観が凄かった。一周するのに30分はかかると言われる広大なセットで作られた、現代と地続きのようで見たことのない世界。また、ベラを生み出したバクスターの家を動き回る、鳥頭犬胴のクリーチャー(つなぎ合わせた?)の奇妙かつ愛らしいことといったら。前半のモノクロな画面も合わさり、とても不思議なおとぎ話の世界に迷い込んだ感覚に陥ります。

また、サウンドトラックもとても印象的で。特に序盤の不協和音多めのテーマ曲が、次第に転調し、オーケストラも重なって壮大になっていく様は、ベラの成長とリンクしているようで、こちらも聴き応えがありました。

そしてなんといっても、俳優陣の演技の素晴らしさです。文字通り体当たりの演技で圧倒するエマ・ストーンを始め、不気味さと慈悲を共存させたウィレム・デフォーの表情、男性の負の側面を余すところなく演じきったマーク・ラファロなど、説得力のあるアンサンブルを堪能できました。

さて、ここからは未見で興味本位で聞きたくなる部分。「R18指定というが、エロいのエロくないの?」です。
私も下世話な部分で「エマ・ストーンが脱ぐのか?」が気にならないかと言われたら気になりましたし、この部分は本当に真剣に女性の「性」について主張も含めて堂々と描いていたと思いました。
なので乳房はもちろん、下半身も見えますし、男性器が見えるシーンも多くありました。
流石に直接性器を挿入するシーンは写っていなかったと思いましたが。
なのでエロいかエロくないかで言えば「エロい」です。間違いなく。
この辺はパンフレットでも言及されていましたが、裸やセックスに関する価値観が、ヨーロッパとアメリカでも結構差があるようですね。アメリカは暴力描写に寛容で、性描写に厳しい傾向があるが、ヨーロッパはその逆だとか。確かに配信ドラマ等の描写でもそれは感じますね。

本作では「女性が主体的にセックスを楽しむべきだ」という主張であるため、男性が自分がしたいときだけするセックスや、女性を所有物のように扱う描写には明確にノーを突きつけていますが、一方で自分の意志で娼館で働くことを決めたベラの判断については肯定的で、この辺りは性の価値観がアメリカより保守的に思える日本のフェミニストの方々がどう感じるかは興味深いところです。

最後に、本作の結末について。
終盤、生まれ変わる前のベラの夫が現れ、彼の家で暴力的な父権に抗い、彼が向けた銃を逆に奪い、足を撃ってバクスター家に戻ったベラが、彼に取った行動は、「羊の脳を移植する」でした。
これと同じ時期に、養父のゴッドウィン・バクスターが亡くなるため、てっきり彼の脳を移植して、復讐と延命を遂げると思っていたのですが……。
これについては、別人であるというベラの主張を一切信じず、またクリトリスを切除して、「産む機械」としてのみ存在意義を認める夫の価値観を裏返した、と理解しています。

まだまだ色々考察したい部分もありますが、本作はぜひ漫画家の藤田和日郎先生に鑑賞していただいて感想を伺いたいところです。
先生の最新作「黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ」は、メアリー・シェリーを主人公に、彼女が作ったフランケンシュタインの怪物を思わせる、町娘の頭部を移植したと言われる人造人間と、男性社会の中で自由意志を示していく物語で、奇しくも本作と同じテーマを同じモチーフで描いており、私も2023年に読んだ漫画の中でも傑作だと思える作品でした。
先生の感想はともかく、こちらも必読ですので、もし「哀れなるものたち」を楽しめたのでしたら、おすすめします。



この記事が参加している募集

#映画感想文

66,723件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?