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gamba!がM&Aを決めるまで

先日、株式会社gambaは同じくB2B SaaSを手掛けるrakumo株式会社の完全子会社になる、という発表をいたしました。

そこで、多くの起業家のみなさんが知りたいであろう、どうやってM&A先を探し、実際にM&Aが決まるまでのプロセスがどうなっていて、何が起きるのかを書いてみたいと思います。

どうやってM&A先を探したか?

2021年の秋頃から、本格的にM&Aを検討し始めました。

IT業界にはそれなりに人脈があるので、うちの買収に興味を示しそうな会社の社長に直接コンタクトするという選択肢もあったのですが、なにぶんM&Aというものがまったく未知の世界だったのと、自分の人脈以外からも広く話を聞いてみたいという理由で、M&Aの仲介会社を頼りました。

それまでにも大手含む数社のM&A仲介会社から、M&Aに興味ありませんか?的なオファーはいただいていたので、まずはそれぞれの仲介会社さんとの面談から活動を始めていきました。

話を聞いてみて驚いたのは、仲介会社によって仲介手数料に大きなばらつきがある!ということでした。某超大手は最低手数料が2000万円!で、かつ数百万円の着手金が必要とのことでした。数十億レベルのM&Aが確実に見込めるならアリかもしれませんが、正直うちの規模では難しいと感じました。

もう一つ重視したのは、担当者の熱意です。

通り一遍の説明をして決心がついたら連絡お待ちしてます的な対応で終わってしまう担当者と、さらにその上で何度も連絡をくれてM&Aの可能性を熱心に口説いてくる担当者、私がどちらを選ぶかと言えば圧倒的に後者です。

会社として実績がどれだけあるかも当然重要ですが、手塩にかけて育ててきた大切な自分の会社のM&Aの相手探しを安心して託せる担当者かどうかはとても重要な要素だと思います。

M&A候補先を5社に絞り込むまで

2021年12月ごろから仲介会社を1社に絞って媒介契約を締結し、具体的なM&A候補先探しが始まりました。

候補先を探すやり方は単純で、

  • ロングリストと呼ばれる候補企業のリストを作る

  • 企業概要書(ノンネームシート)を候補先に送る

  • 興味を示した候補先により詳細な会社情報(IM, Information Memorandom)を開示する

  • 候補先がM&Aの意向表明書を提出する

という流れです。

ここでいうノンネームシートは、その名の通り、こちらの会社名を伏せた形でざっくりとした会社概要をまとめた資料で、事業内容や財務状況その他譲渡条件を1ページにまとめた資料になります。ノンネームシートの段階では、当社の会社名は一切相手先には開示されません。当社の会社名や具体的な事業内容・財務状況・事業計画をまとめた資料はIMと呼ばれ、買収に関心のある相手先にだけ開示される仕組みになっています。

今回の場合、2021年の年末からノンネームシートを250社ほどに送り始め、そこから当社に興味を持ってくれた25社にIMの開示を行いました。IM開示後、さまざまなQ&Aのやりとりがあり、最終的に買収を前向きに検討していた5社の経営陣と面談を行いました。

この年の年末年始は、正直、25社もの企業から当社の引き合いをいただいて、「これは人生最大のモテ期到来かも!」と浮かれていました。w

5社の経営陣と面談して分かったこと

gambaのM&Aを検討した5社は、私が思っていた以上にさまざま多様な事業を営む会社でした。

今回M&Aを決めたrakumo社のようにB向けSaaS事業を運営する会社だけでなく、メディア事業、法人向けの研修事業、AI関連技術開発事業、人材事業、介護福祉事業など、かなり幅広い業種の会社が当社のM&Aに関心を示してくれました。

当初、gambaの買収を目論む会社はBtoBやSaaS関連だろうと私は思っていたのですが、単なる思い込みであったことを思い知らされました。

また、実際に経営陣と面談する中で、会社を買う目的は1つじゃないということも新たな発見でした。

たとえば上場企業で社内に現預金が眠っていて、株主に対してROEの向上をアピールするために会社を買収したいと考えている経営陣。彼らにとって、買収先の会社との間に事業シナジーがどれだけあるかよりも、むしろ買収先が安定して売上・利益を稼いでくれて、自分達の数字に足し算できることを重視している感じでした。初対面で買収の本当の思惑や本音は先方もなかなか語ってはくれませんが、さまざまな温度感の違いを感じることが大切だと思いました。

たぶん、買う側の思惑が人それぞれなのと同様、売る側の思惑も人それぞれなのだと思います。今回、それぞれ異なるタイプの会社から買収提案を受け比較検討できた、というのはとてもラッキーなことだったと思います。

デューデリジェンスでは何をする?

今回、さまざまな会社から買収提案をいただいていろいろ悩みましたが、最終的に1社、rakumo社に絞り込み、本格的なデューデリジェンスに入りました。

本当は複数社と交渉したかったのですが、先方から排他的交渉権を要求されたため1社に絞り込んでいます。デューデリにかかる買収側のコスト負担などの問題もあり、なかなか複数社と最終交渉に入るというのは難しいのかもしれません。

エクジットに成功した先輩経営者からは「デューデリは大変だよ!」と散々脅かされていましたが、実際に始まるまではその辛さを想像できませんでした。いまとなっては、もう2度とやられたくない、と心底思うレベルで辛いです。

デューデリの過程で、rakumo社との間でやりとりしたQ&Aは最終的に以下のような分量になりました。

  • 資料提出:105

  • 質問項目:222

提出した資料は、財務諸表はもちろんのこと、直近の開発項目、リード創出から受注までのフロー図、受注拡大に向けて過去実施した施策の一覧、直近の顧客からの問い合わせ対応の一覧、社員のスキルシートなどなど。

質問項目では、個別の費用の用途や個別債権の回収状況、担当者のスキルレベル、その他提出した資料に関して矛盾がないか、抜け漏れがないか、微に入り細に入り徹底的に検証されました。

1個回答を返すと、回答に対してさらに翌朝10個ぐらい質問項目が追加されてくる、みたいなやりとりが延々と1ヶ月ほど続きます。

なんせ、買収する側は社内のスタッフだけでなくM&Aコンサルも使ってチームで徹底的にリスクの洗い出しをかけてきますが、こちら側の対応はほぼ私一人です。M&Aを検討していることは、ごく一部の社員にしか知らせることができません。質問の回答にはその一部の社員に手伝ってもらうこともしましたが、大半のものはほぼ私にしか答えられない質問だったり、社員に頼めない種類のものばかりです。

しかもデューデリでは、過去のいい加減な契約処理や、証跡となる書類が散逸していないか、事業計画に計算ミスがないか、思い出したくない昔の失敗なども徹底的に洗い出してきます。それらについて、一つ一つ、なぜ?どうして?と質問攻めにされるのはマジで辛い。。

モテ期などと浮かれていた自分の心は、この1ヶ月でズタボロにへし折られました。w

買収価格はどうやって決まる?

正直、自分が希望していた売却額とは残念ながら乖離があります。

どういう過程でそうなったのか、私がその金額をどう評価しているかなど、多分この記事の読者の最大の関心事だと思うのですが、申し訳ないですが、今の時点で詳しく書くことは控えたいと思います。どうしても知りたい人は、個別にご連絡ください。

もしこの読者の中で今後M&Aで自分の会社を売却しようと考えている方へ何かアドバイスをするとしたら、次の3つを挙げたいと思います。

  • 起きて欲しくないことは大体起きる前提で腹積りしておく

  • 本当に信頼できる弁護士やアドバイザを持っておく

  • デューデリは社長の人格を査定しにきているという前提で対応する

起きて欲しくないことは、絶対に起きます。いろいろな状況を考えて今が一番の売り時!と思ってM&Aに動き始めたのに、なんで今このタイミングで起きるんだよ💢と思うことがたくさんありました。小さな会社の経営はナマモノどころかジェットコースターなので、順調だと思っていたことが突然暗転する、みたいなことは日常茶飯事です。

相手に心配をかけるぐらいならいいのですが、内容によっては査定価格にインパクトすることにもなりかねません。契約書に調印するまで、頼むからこのまま早く過ぎ去ってくれ!と神頼みする毎日でした。

デューデリの過程では、法務・財務面でさまざまな問題が露見します。だいたい、小さなスタートアップで法務や財務が完璧に処理されているなんてことは、まずありません。むしろ一番後回しになる部分です。そして、そういった問題が片っ端からほじくり返されます。そういうある意味、後ろめたい問題も含めて率直に話せるよう、弁護士先生とは日頃から信頼関係を築いておくのがおすすめです。

デューデリで出される大量のQ&Aのやりとりでは、質問されている事実やその回答そのものではなく、その質問に対してこちらがどのような反応するかを見られているんだな、と思う局面が多々ありました。例えば、どういう金の使い方をする人物なのか、社員とはどのような関係性を築いているのか、みたいなことを言葉の端々で探ってきます。

先方は大量の質問で徹底的にリスクを丸裸にしようとしてきているので、いいことも悪いことも、いずれにせよ隠し通すことはできないだろうと、早々に観念しました。むしろ、先方からくる質問には、多少間違いがあっても徹底的にクイックレスポンスすることを心がけました。多少間違はあっても回答にウソはない、という信頼を得ることができれば、査定にもプラスに働くと考えていましたし、実際大きな武器になったと思っています。

いよいよM&A先と社員が対面!

デューデリが終わり契約書に調印する最後の最後まで、本当に気が抜けない日々でした。上場企業を経営するのは、情報統制など、本当に大変なことなんだろうと思います。

今回の買収の件を社員に説明するための会を開くのも一苦労でした。

普段当社はほどんどの業務をオンラインで済ましていますが、さすがにこの件をZOOM MTGで済ませるのは無茶すぎます。かといって、なんと言う名目で社員に会社に集まってもらうべきか。ちょうどコロナの緊急事態宣言が明けて落ち着いたのを言い訳にして、半期の全社会を開いて久しぶりにご飯食べに行きましょう、的な名目で集まってもらいました。

いま思い返しても、めちゃくちゃ不自然な集め方だったと思います。

本当に久しぶりの全社員が一堂に会しての場で、いきなり買収を告げられた社員のみなさんは本当にびっくりだったと思います。その後、rakumo社の経営陣にもMTGに加わってもらい、自己紹介&会社紹介をしていただきました。

突然びっくりな内容を冷静に受け止めてくれた社員のみなさんや、膨大なデューデリの質問リストでgambaの経営課題を炙り出してくれたrakumo社のM&Aチームのみなさんには感謝しかありません。


以上、私がgamba!をM&Aする!と決めて、契約を結ぶまでのしんどい日々を本音で書いてみました。何かの参考になれば幸いです。

ちなみに、この発表の前後でrakumo社の株価は3/30日終値1,170円から3/31日終値1,237円へと5.7%上昇、時価総額にして3.8億円の増加となりました。もちろんこれは日頃のrakumoのIR関係者のみなさんの努力の賜物だと思いますが、少なくとも当社の買収が市場関係者のみなさんに好意的に受け止められたのだとしたら、とてもよいことだったと思います。

目下、PMIが始まったところで、さまざまな形でrakumo社との連携がまさに進みつつあります。rakumoの投資家のみなさまにとっても、今回の買収がプラスであったと実感してもらえるよう、着実に業績で貢献していくことがPMIのゴールだと思っています。

今後ある程度PMIが進展したタイミングで、今度は子会社化後のリアルを記事にまとめたいと思っています。ご期待ください。


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