Subtle Foreshadowing Memeをいくつか分解してみた

「Subtle Foreshadowing」と呼ばれているミーム動画を見たことはあるだろうか? 今年の後半ごろになって見かけるようになってきた種類のミームで、直訳すれば「微妙な伏線」とか「繊細な暗示」「かすかな予兆」みたいな意味になる。とりあえずいくつかの例を見ていただければ、その愉快さをご理解いただけるだろう。

 さて、一通りSubtle Foreshadowing Memeをご覧になれば、ちっともそのカテゴリ名が正しくないことが判るはずだ。ギタメタに継ぎ接ぎされたカットは豪快すぎて繊細とは程遠く、動画のオチをばっちりネタバレするのは伏線という物語手法が持つ情緒や技巧を完全に無視していて、全体的に馬鹿げている。
 そう、このナンセンスさと勢いで押し切るパワフルさ、そして言葉に依らず誰でも笑えるのがSubtle Foreshadowing Memeの魅力なのだ。以下、この手法を「伏線編集」と呼んだりする(そう呼ばなかったりもする)。

 私はこのジャンルのMemeが好きだ。面白いと思う。そして同時に、メディアアート的な興味深さを感じた。
 面白失敗動画とかネタ動画というものは本来、「過程が示されて結果が判る」のが通例で、それは私たちが生きる世界がリニアに流れて見える(と考えられている)常識と一致する。したがって、現在の過程をすっ飛ばして未来の結果だけが判るような現実はありえない。しかしフィクションの世界ではしばしばそれがありうる。
 映画『イージー・ライダー』や『俺たちに明日はない』では、主人公たちが迎える結末を、観客は物語が終わる前に知っている。まあ『俺たちに明日はない』はボニーとクライドの昔話を知っていればだが、『イージー・ライダー』では「フラッシュ・フォワード」と呼ばれる技法で、主人公らの未来が物語の途中でカットインされる。

 そして、この「フラッシュ・フォワード」をはちゃめちゃに乱用したのがSubtle Foreshadowing Memeであり、これには情緒もクソもない。なんてったって同じカット内で少し先の数フレームを執拗にカットインするだけの、ナンセンス全開の馬鹿動画である。
 しかしこれらの動画でげらげら笑っているうちに、先述の物語手法とのリンクに気付いたり、逆に全く笑えないものと出会ったり、これらSubtle Foreshadowing Memeがなぜ面白いのか、どこが笑えるのか、どうして笑えないのか、一つ一つ分解してみたくなった。
 ということで、先に挙げたコンピレーション動画のいくつかをピックアップして解説してみます。この手のミーム動画は、真面目に解説するとネタの勢いが削がれ、やれやれつまんねーことしてるよみたいに面白くなくなってしまうものだとは思いますが、広いネットの海でカスみたいな島に漂着した者同士、ここはお付き合いください。


つるっとアジアン

こけた後に「うぇ~ん」みたいな声が入っててちょっと可哀想

 たしか、このクリップが自分が初めて見たSubtle Foreshadowing Memeだったように思う。木々が鬱蒼と生い茂るどこかの森にて、木や竹でできた階段を、ホテルの給仕風の男が右手にグラスを携え、慎重に降りてくる。画面左手に映る竹の手すりを見るに、雨か湿気で階段は濡れているらしい。途中に何度もつるっとこけるカットインがあり、最後に何のネタ明かしにもならないオチが来る。
 これはクリップの最初から執拗に滑った瞬間のフレームが何度も挿入されるが、最初の数回はスピードアップされていて、「ウェエ!」みたいな声がコミカルにピッチアップしていて、次第にスピードが等倍になる。そして挿入の頻度が減ったと思ったら、リズミカルに数回カットインされ、最後はシームレスにオチへ繋がる。オチが来てからのカットインは無く、後味はすっきりしている(当然ながら事の顛末を考えるとすっきりしないが)。
 この「つるっとアジアン」は芸術点が高く、コンピレーション動画の初めを飾るに相応しいだろう。階段を慎重に降りる男が滑って転げ落ちるという明快さに加え、カットインのしつこさもSubtle Foreshadowing Memeの王道を捉えつつしつこすぎないため、初心者にもお薦めしたい逸品だ。

余裕ぶっこき大花火

見た目も音声も派手で、全体的にアメリカン

 次に紹介するのは、花火が地上で暴発するクリップ。だだっ広い草原にて陽も落ちた頃、「うへへ、デケエ花火うちあげちゃうぜ」みたいなノリで撮られた失敗動画をメタメタにカットしたもの。クリップの最初から最後まで執拗に大爆発の数フレームが爆音と共に挿入され、ああ、このあと派手にいくのね、というのが容易に想像できる。
「つるっとアジアン」と違うのは、切り取られるフレームや挿入されるフレーム数、速度が少しずつ微妙に異なっており、ちょうど音がうるさい場面を切り取って使いまわしているため、点火から大爆発のオチを前にして「来るぞ来るぞ……、来たァー!」みたいな疑似アハ体験ができることだ。
 なお、点火後の火花が下部から出ていたり、発射前から「ワッチャウワッチャウ!」といってカメラマンが退避したり、爆発の瞬間に「ゲダウ!」と警告するなど、あらかじめ地上で暴発することを予期しているようにも見える(文脈が不明な)ため、予期せぬハプニングの旨味をしゃぶり尽くしてやろうという野心とは別の意図を感じる。とはいえ、点火→地上で暴発の流れが明快で、画面も音声もド派手なので、勢いで押し切れるクリップだ。

見捨てられる弟

さわやかブラザーズ

 画質からも分かるようにこのクリップが引用するネタ動画は非常に古く、おそらく10年以上前からインターネットでネタにされてきた記憶がある。テーブルクロスをビュンッって引っ張るあの芸に挑戦した兄弟だが、うっかり弾みで背後の棚に衝突し、そのせいで棚が倒れテーブルを破壊し弟は下敷きになるという、まあまあなやらかし動画を編集している。
 この動画の残念な点は、カメラに向かって兄弟が話す様子とそこへバチバチと挿入されるカタストロフィな様子の視覚的差異が大きいために、何が起こったか=これから何が起きるかをすぐに想像できない点にあるかもしれない。特に、テーブルクロスを引く→反動で棚にぶつかる→棚が倒れてくる→棚がテーブルを破壊し大惨事に、という注目すべき出来事が複数あるため、どこの場面を切り取ってバカスカ挿入したらよいかが難しいと思われる。
 技巧的には逆再生される数フレームの挿入という、前2つには無いものが含まれるが、乱雑なカットインが最後まで入るため、動画のオチを既に知っている(過去にこのネタ動画を見たことがある)人でないと、場面があちこちに飛ぶ大惨事の時間軸を組み立てられないかもしれない。

打ち上げソファ

打ち上げを前にしたこのふてぶてしさ、見習いたい

 お次はソファにどっかりと座った男が、ソファに仕掛けられた火薬の発破と同時に打ちあがるクリップ。発破カウントダウンのドキドキ感、そして僅か2~3フレームの短い一瞬で挿入される、宙に浮かび上がった男の「うおーん!」みたいなポーズのシュールさが笑える。加えて、「スリー、トゥー、ワーン……、ワーン……!、ワ発破!!!!」と、カウントを焦らすナンセンスな編集も憎めない。
 いざ打ち上げられると、SYNCOPY映画の劇伴で使われてそうなノスタルジックかつオールドファッション味あふれるBGMが感動的な雰囲気を出し、宙を舞うソファと男のスローモーションが流れるが、それもつかの間BGMはそのままに映像だけギタメタに編集される。発破の瞬間を何度も繰り返したり、早送り/逆再生でパタパタと男が地面に落ちる様子を何度もしつこく見せつけたり、とにかく愛のある悪意を感じる。
 このクリップは、ソファの打ち上げという明快さ(何がしたいのかサッパだけど)、静と動のギャップなどが評価できる。特に筆者はカウントダウンのナンセンス編集がお気に入りだ。

己の目しか信じない

まずは飲もうとするコーラ意識の高さ

 このクリップでは、おばちゃんが「メントスコーラの動画をいくつかみたけど、本当かどうか怪しい。自分で確かめてみるわ」と言って実践し、ものの見事にシュワーってなって焦る様子を映している。これは元動画のリアクション芸が面白いだけに、どう編集するかで料理の出来が変わってしまう難易度の高いSubtle Foreshadowing Memeかもしれない。
 おばちゃんが話している最中にはコーラ噴出のカットインを控えめに+喋っている最中には挿入しない徹底がなされている。おばちゃんが話し終わると、待ってましたと言わんばかりに噴出カットをたたき込み、「ア゛ア゛ア゛」の声もすかさず挟み込む。かと思えば急に動画開始直後のしーんとした瞬間を繋げ、しばらくカットインは鳴りを潜める。そして無事におばちゃんがメントスコーラを噴出させると、視聴者は「そうそう、これ今さっき見たやつ! この場面!」と膝を打つのだ。
 この丁寧な編集には明らかにカット繋ぎのユーモアとモンタージュの意識が感じられ、芸術点が高い。またメントスコーラという、もはや誰でも知ってるレベルの因果応報が見えるので、伏線編集によってなおさら「あらかじめ知らされた未来のある地点が今に来る緊張感と高揚感」が味わえる逸品である。

壁倒壊スタジオ

倒れる直前に気付いたように見えるが、原稿を読もうとしただけかもしれない

 こちらのクリップは、編集というか素材が不味かった例として挙げさせてもらう。報道番組のスタジオの壁の一部が不意に倒れ掛かってくる動画の編集だ。編集で再挿入されたものも含めて全部で3回壁が倒れてきて、その全てで「ブー」と汚いおならの効果音が加えられている。最初の2回(伏線)では映像も音声もスピードアップされたものが、最後の1回で等倍と思われる再生になる。
 これはそもそも倒壊を予期していなかったカメラアングルであるため、出演者の一人にぶつかる直前まで壁がフレームアウトしている。そのせいで平常な様子→壁が倒れきった様子の2パターンが繰り替えされ、倒れ掛かってきて「ああ、やばいぞ!」というハラハラの場面が抜け落ちてしまい、結果として場面がいきなり転換して何が起きたのか理解し辛い編集になったのかもしれない。

机の天板も2枚まで

転倒時の音声がブタさんの鳴き声みたい

 こちらは素材が凡庸なため、未来を予兆されてもあまりユーモアを感じられない例。行儀の悪い若者が机の上をジャンプしていたら、3つ目の机でつるっと転倒する動画の伏線編集だ。
 自分みたいに海外のネタ動画を朝から晩まで浴びているようなのは、こうした若者が馬鹿をやって痛い目に合う動画はたくさん見てきた。これほど先の展開を予想しやすいも無い。したがって、よっぽどうまく編集しないと、「まあ、そうなるよな」という予測の範疇を抜けられず、「そうきたか!?」という意外性やユーモアに繋がりにくいといえる。
 このクリップの編集は、とにかくでたらめにカットインされたようで、特に最初の着地の瞬間に伏線カットインが入るため、笑えないネタバレになってしまっている。オチをカットインするにしても、滑る瞬間を取るか、机に倒れ込んだ瞬間を取るかで変わってくるかもしれない。

悪いパパ

1枚で笑える写真は強い

 このクリップはお気に入りだ。小さな子供が見守る中、その親と思しき撮影者が電動ドリルに無理矢理スプーンを取り付け、牛乳ミロ的な何かを作ろうとする動画の伏線編集だ。
 伏線編集において、カメラ位置やアングルが変動し被写体が移り変わると、視聴者は現在の画面と伏線の画面の間で何が起きたか、その整合を図るのに難儀しがちになる。そのため、なるべくアングルや被写体が一定不変の動画が編集しやすいが、このクリップは被写体の移り変わりという課題を長尺で巧くドキドキ感に転換している。また、電動ドリルとミロ的な粉、子供と迫力回転ヤクルト的な容器のギャップも高得点だ。 

虫こわブラザーズ

ノーコメント

 これは少し残念なクリップ。Subtle Foreshadowingというミームが流行り出して、「なるほど、オチをあらかじめカットインしたら面白いんだな」と知ったはいいが、最初からそれを狙って動画撮影したと思われる例だ。
 虫を捉えた金魚鉢を落としたり、虫を怖がるあまりなぜか上半身裸になるなどのオチが挿入されるが、「虫を封じ込めようとする→失敗する」の過程と結果までの時間的・文脈的距離が近すぎる上に、転倒・暴発・破壊、といったハチャメチャ感に欠け、「うん、虫こわいよね」くらいのパンチ力が限界かもしれない。
 また、この動画からはメントスコーラおばちゃんのような技巧を感じられない。単純に数秒先のクリップを分割しランダムに前方へ挿入しただけで、繰り返しのユーモア、静と動、挿入すべきタイミングなどの理解が甘い。

当て逃げドッグス

通過時の「ギャホ!」みたいな音が好き

 この動画自体、1~2年ほど前にネタ動画として回っており、自分はこれが好きすぎて保存したりするくらいなので、当然このオチがこすられまくったら笑うに決まってる。親と手をつなぎながら波打ち際を見に来た幼児が、画面外から来た犬たちに突進され体勢を崩す(というか腕を捻って宙返りする)理不尽な動画だ。
 この動画の伏線編集はかなりシンプルに完結していて、断続的にオチが挿入される以外は何も手が加えられていない。そのため、何度犬に突進され何度腕が捻じれても涙一つ流さず、けなげに波打ち際を歩き続ける幼児のホームビデオが完成した。元動画よりもさらに理不尽な様子になっている。

当て逃げスキーヤー

首が埋まっているようで、実際は一回転している

 このクリップはかなり特殊で、Subtle Foreshadowingのジャンルからは逸脱しているようにも思える。というのも、伏線編集は基本的に過程の最中に結果を何度も挿入する手法であるが、この動画はカットイン無しで動画の再生速度を高速から等倍速へスローダウンさせていくものだからだ。
 動画はどこかのスキーコースで、奥から滑り落ちてきたスキーヤーに足をすくわれ、撮影者の仲間と思しきスキーヤーが転倒するというもの。前にも見た気がするが、「ゲダウ!」という声がオリジナルなのか、Metal Pipe FallingのSEと一緒に追加されたものなのかは不明。
 一応、「オチがすぐに判る」「あるカットが何度も繰り返される」という伏線編集の一部要件を満たしているので、Subtle Foreshadowing Memeの一種といえなくもない。

ブチギレ妻

ちゃんと飲み込んでから喋る夫の行儀の良さ

 これは元動画のネタと伏線編集によるネタがうまくユーモアの相乗効果を生んだ例。妻の手料理を食べた夫が感想を訊かれ、「学食よりはマシ」と答えたことでブチギレた妻が鍋を投げて寄越すというもの。夫に鍋が飛んでくるオチが何度も繰り返されるが、これらはあまり会話部分には被らず、飲み込むのを待ってという夫のサイン中はカットインされないというユーモアもある。
 まず、手料理に学食よかマシと言ったらマジギレされるオチが面白いのだが、その過程をすっ飛ばしてマジギレされた結果だけを何度も目の当たりにするので、「コイツ何を言ったんだ!?」という期待と、割とデカめの鍋が何度も飛んでくる理不尽さが高まっていき、最後にネタばらしが来て、そらキレるわというツッコミが可能という、満足感のある三段構えだ。
 シチュエーションとネタの明快さ、不躾な言葉に対してデカい鍋で返答するナンセンスさ、シンプルな伏線編集でも十分な効果があることなどで、筆者の中での総合点は高い。

当て逃げドッグVS腹バリアボーイ

Squishy Danceってなんだ

 犬が突進した結果、別の小さな動物をふっとばすPerfectCut系ミーム動画はいくつかある。さっき上げた当て逃げドッグスもその一つだが、子供ではなく子豚を突き飛ばすものもある。そしてこれはやっぱり子供が突き飛ばされる。
 それだけでも面白い(当事者の親子は面白くないかもしれない)のだが、これは一度だけ逆再生のカットインがあるため、子供のほうが犬を画面外にはじき返す瞬間が存在するのが評価点だ。

猛烈掃除機ONOFF

非常に辛そう

 このクリップでは、激辛のチキンを食べた男性が苦悶の叫び声を上げる。爆音で叫ぶ瞬間の数フレームが断続的に挿入され、さながら音がすさまじい掃除機の電源が一瞬だけ点いたように聞こえる。もぐもぐ黙って食べる静けさとのギャップが良い。
 この動画も二段構えのネタになっていて、何度も繰り返されるこの絶叫は辛さのあまり口が焼けるような痛みに悶えている場面だろう、という予想から、実はソースのついた手で目をこすって催涙状態になった、という形だ。オチのギリギリ直前の過程が重要になる、テクニカルな伏線編集だ。

まとめ

 色んな要素が複雑に絡み合って面白い/面白くないを形成している、Subtle Foreshadowing Memeは奥が深いようで、いやそんなことねーだろって気もしました。次回は色んなパターンで類型化したりグラフで表したりしてみたいかな。ではまた。

いいなと思ったら応援しよう!