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存在文には〇〇がない!?

「存在文 (there構文)の使い方について」の質疑応答記事の質問者から、追加でご質問をいただきました。ご本人には個別に回答済みの内容を今回は無料記事として公開いたします。

質問

discourse―new/old、 hearer―new/old
で分類するととても分かりやすいです!
“There is ….”と聞けば、質問者によって【…の部分に、自分にとって未知の情報としての存在が続く】と意識されると考えれば、確かに、…の部分に飼い猫の Tamaが続くことはあり得ないことが納得できました。
例えば、“There is a cockroach.”なら許されるというわけですね。
あと少々質問させていただきたいのですが、
存在するものが、hearer―newであっても、例えば「げっ!ゴキブリよ😨」みたいな返答であれば、“Ew! It's a cockroach!😨”と言うのは可能でしょうか?
また、ふと思ったのですが、Tamaのような、hearer―oldの情報でも、“There is …(何がいるっていうとね…)”と間を持たせることで質問者に何があるんだろう(自分にとって未知の情報が来る)と思わせておいて、“Tama!(タマよ)”と既知の情報を出し、質問者をからかうようなことであれば、“There is 【hearer―old】”が可能なのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか?そのような実例はあるのでしょうか?
よろしくお願いいたしますm(__)m

ガリレオ流・回答

追加のご質問につきまして、記事では hearer-newに注目して情報をまとめたために入れ込む隙がなかったのですが、存在文は「どこどこに何々がいる」という存在状況を丸ごと承認の対象とし、トピックとしての「主語=それについて何かを述べる対象」を備えていないという特徴にも注目する必要があります。(※参考:『英語とはどんな言語か より深く英語を知るために』(安井稔, 2014))

したがって、

(1) There is a cockroach!
=「ゴキブリが(ある場所に)存在する」という状況を丸ごと提示
(2) It's a cockroach!
= it(それ)として認識可能な対象について、それが『ゴキブリである』と述べる

という、話題のトピックとする対象のある/なしが問題になるので、それぞれが使われる状況が多少異なると考えられます。

(1)は、聞き手の方がゴキブリの存在にまだ気がついていない状況で、「ゴキブリがいる」という存在状況そのものを hearer-newの情報として提示している状況が浮かびます。

他方 (2)は「主語の itについて何かを述べる」という構造になっているため、聞き手も「何らかの虫の存在」は認識している状況のもと、「それがゴキブリである」という情報を伝えている状況となるでしょう。したがって、例えば “Look! It’s a cockroach!!😨"のように、少なくとも一瞬前の “Look!"の時点で、聞き手に itで示す対象の存在を先に認識させる必要がある言い方という違いがあります。

以上を踏まえて、“There is…”で溜めておいて hearer-oldの対象を後続させることができるか?というと、それは難しいのではないかと思います。発想として思い浮かんだのは【怪談もどき】の文脈で、「そこにいたのは…タマでした〜😜」のような流れなのですが、これを言うためには「『そこにいた何か』について語る」という構造にならざるを得ないので、存在文で「何かがどこかにいた」という情報まるごとを新情報として相手に提示するわけにはいかなくなってしまいます。

どうしてもオチを最後まで隠して語るなら、例えば:

(3) What I saw there was… Tama!

のような、疑似分裂文と呼ばれる構造あたりを持ち出すことになるかと考えます。

あとは定名詞句である「はず」のものが there is...に後続する例として頭に浮かんだのは、Winnie-the-Poohの曲の歌詞です:

A donkey named Eeyore is his friend
And Kanga and little Roo
There's Rabbit and Piglet and there's Owl
But most of all Winnie the Pooh

ややこしいのは rabbit, piglet, owlに関しては固有名詞扱いで良いのか?という問題が絡むのですが、冠詞 aがないことからも、それぞれはキャラ名と判断して良いのでしょう。また最後の行は But most of all (there’s) Winnie-the-Pooh の意味で読めます。

ただこれも、原則を破って hearer-oldの対象を入れ込んでいるということではなく、まずは「リスト」の例として考えられそうなものですし、それぞれのキャラクターのことは聞き手は知っているとしても、「森にはこんな仲間たちがいるよね」と、改めて (=hearer-new扱いとして)存在承認を行っている、と解釈されるものだと判断できます。

※ 元の質疑応答記事の最後に紹介した論文でも、hearer-oldな対象であっても、文脈上 hearer-new扱いができれば、存在文の使用が可能と論じられています。要は「何らかの形で」聞き手にとって新たな存在承認となれば良いのでしょう。ただ、ご質問で想定された文脈ですと、「新たな存在承認」という部分での条件が満たされないため、そのような使い方は考えにくいと言えます。

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「ジョークの中で普段あり得ない文法の制約が破られる」という現象については、ちょうど最近、知り合いの研究者との話題で出たものがありました。

(背伸びをしながら)I’m being tall!

be tallは、自分で制御できない状態を表すので、本来は進行形にはできません。しかし、ジョークとしては背伸びや台の上に乗って “I’m being tall!”と言えるのではないか?という問題です。

しかし、これも全く制約なく言えるというわけではなく、ネイティブにどう思うか聞いてみると、相手が背伸びをしている自分を見て “What are you doing?”と尋ねたのをキーに、その応答であれば可能なのではないか、という程度の認識でした。つまりは「何を『している』のか?」と聞かれたから、”I’m being tall.”と答え得る道が開かれる、ということですね。

このように、文脈を整えれば制約を破れる場合もあることはあるのですが、意外と(?)その壁は厚いものなのです。

参考文献

※ Amazonアソシエイトリンクを使用しています。

※トップ画像は「みんなのフォトギャラリー」より noranekopochiさんの写真です。画像サイズの設定上、元画像にあったスタンプ部分がクロップされてしまっています。

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