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SCEP Centenary Guest Lecture by Prof. David Crystal

Day 4 (22nd Aug.)には David Crystal先生による記念講演: “Whatever happened to paralinguistics?”が行われました。

Paralinguisticsとは?

para-は ‘alongside, beyond, further than’といった意味を表す接頭辞。すなわち、ことば・コミュニケーションに関わりながらも、従来の言語学の枠組みを超えたところにある現象を扱うのが paralinguisticsということになる。

具体例を挙げれば、声の調子・大きさ・高低、話す速さ、間の取り方といった特徴から、笑い/泣きetc.ながら話すといった状況、さらには表情や身振り手振りのような non-verbal communicationとして現れる特徴も含まれる。Siriや音声案内などを思い浮かべてみるとイメージしやすいが、一本調子で表情も身振り手振りもないような状況でも、話された内容の理解には影響しない。数年前までの札幌駅構内のコインロッカーは、それはそれは笑えるくらいに無感情に「このロッカーでよろしいですか」と言っていた(現在は少しマシになった)のだが、意味そのものは感情豊かに発せられた場合と変わらず受け取ることができる。

しかし実際の人間のコミュニケーションにおいては、上に挙げたような paralinguistic featuresによって、機械には(まだ)ない豊かな心のひだまで発話の中に含めることができる。つまり“同じ”「このロッカーでよろしいですか」という文であっても、それをどのように言うかによって (1)確認・(2)驚き・(3)いらだち…などなど、様々なニュアンスが込められることになる。

まとめると、paralinguisticsが扱う対象というのは「何を言うか:WHAT」よりも「どう言うか:HOW」に関わるものであり、意識的または無意識的にコミュニケーションの中でオプション的に足される要素ということになる。「なくても『意味』は伝わるが、あると『心』が伝わる」と表すことも可能であろう。

講演の中では、これらの paralinguistic featuresを具体的に取り上げながら、それぞれの場合にどのようなニュアンスが込められるか、例を挙げて非常に分かりやすく、そして何より楽しく解説が展開されていき、講堂内は何度も笑いに包まれた。

その中でも特に:

‘Can you tell me the way to *SOHO*?
—where *SOHO* is pronounced over-breathily

→ Then they will send you to a ‘different’ part of Soho...😏

日本で言えば「『歌舞伎町』に行きたいんだけど…」が相当すると言えば、ご理解が得られるでしょうか(笑)

Paralinguistics研究の難しさと今後の展望

従来の言語学研究に比べ、paralinguisticsは比較的新しく、これから研究が更に進められていく領域と言えるだろう。1つとしては「どのように発話されたか?」というのは体系的に記述するのが難しい。社会言語学の中の談話分析研究で試みがなされているが、どうしても詳細を描こうとすると注釈をその都度入れなければならず、相当の時間と労力を要することになる。

また、そもそも発話の場面を記録する技術の発達が研究の足掛かりとなる。限られた録音技術に頼る他なかった時代には、どうしても研究としてできることも少なかった。スマホひとつあれば発話場面を表情・ジェスチャーなども含めて記録できるようになった現代こそ、paralinguistics研究が進んでいく時代となることであろう。

Q-A session

脳科学(ニューロン)との関連の可能性についてなど、闊達な議論が交わされた。例えば David Crystal先生が指摘していたのは声のトーンと眉の上下の関係で、両者は連動するものであり、眉を下げながら声のトーンを上げる(もしくはその逆)のは、意識的にやろうとしてもおそらく無理というレベルで難しいし、まして無意識では生じることではない。このような現象はニューロンのはたらきとも関わっているのであろうと考えられ、関連領域と合わせた今後の研究により、「実に面白い」世界が拓かれていくことであろう。

かくして、paralinguisticsというのは、ガリレオにとっては前提知識もほぼない未知の世界だったが、David Crystal先生のご講演は論理展開が明確で、お話の中で挙げられる例も印象に残るものであるため、ほぼゼロからでもここまで理解しまとめることができた。冒頭の SCEP公式 Facebook Pageの写真からも見て取れるように、PowerPointのスライドもなければメモひとつも持たず、身ひとつでこれだけのお話をされるという、その姿を目の当たりにしたこと自体も、ガリレオにとって大きな刺激を得られる機会であった。

早速、先生の数あるご著書の中から、Sounds Appealing: The Passionate Story of English Pronunciationを購入し、新たな、そして世界最高峰の頭脳によって語られる切り口から、英語発音の世界へ旅することとなった。


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