Oxford_Ayaneさん

アリスのOxfordを巡り、ガリレオ研究室の生徒とすれ違…って、いたかもしれない話

黄金に光り輝く夏の午後

1862年7月4日、金曜日、the golden afternoonに、テムズ川の支流、アイシス川をボートで漕ぎ上る旅の途中、三姉妹にせがまれて即興で語られたお話は、後に世界中の子供たちと、大人たちの中にある子供心を魅了する物語になりました—『不思議の国のアリス』の元になる『地下の国のアリス』の誕生です。

2週間に渡る SCEP参加の折、間の日曜日に Oxfordまで足を延ばしてみました。とても1日で見尽くせるようなところではないことは重々承知という中で、さて何を選ぶか?となったときに、ガリレオがどうしても見たかったのは、この「アリスの Oxford」でした。観光案内所に立ち寄ると、ちょうど ALICE'S OXFORD On Foot, The Oxford of Alice and Lewis Carrollという2冊のガイドブックが売っており、特に前者は Oxfordのアリスゆかりの地を歩いて回れるマップがついているので、今回はこれに従って川沿いを中心に歩いてみることにしました。

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(Through the Looking-Glass...)

観光案内所の職員さんに、「大学院でお世話になった先生(安井泉先生)が日本ルイス・キャロル協会の会長を務めており、その影響もあって自分もアリスの物語に魅了された一人である。今回、(アリス物語誕生の地である) Oxfordを訪れることができて大変嬉しく思っている。」ということを伝えると、それはそれは熱心に Alice’s Shopのことを教えてくれました。

Alice’s Shop ~物語への入り口?~

Alice’s Shopは、アリス物語のモデルとなった Alice Liddellが幼い頃にキャンディーなどを買っていたお店で、現在はギフトショップ。店の佇まいは、Through the Looking-Glassの第5章 Wool and Waterで Aliceが訪れた ‘little dark shop’の、John Tennielによる挿絵と、ちょうど「鏡像関係」をなしているのです。

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アイシス川の川辺を歩く

クライスト・チャーチの南に広がる牧草地 (Christ Church Meadow)の先の川のほとりまで来ました。

手漕ぎのボートで川を漕ぎ上るなど日本ではとても想像できませんが、ここは英国、川は水音をほとんど立てずにゆったりと緩やかに流れています。川を漕ぎ上ることはさほど「不思議」なことではないのです。
—『ルイス・キャロル ハンドブック アリスの不思議な世界』, 安井泉 編著, 2013, 七つ森書館.

…と読んだことはあったにせよ、実際に「ゆったりと緩やか」な川の流れと行き交うボートを眺めながら、「なるほど、まさにこれこそが、アリスのお話が語られたところなのだ—もっと言えば、ルイス・キャロル、アリス・リデルをはじめとするリデル学寮長の娘たち、さらには一緒にボートの遠出に出かけた友人のダックワースなど、すべての役者がこの舞台に揃ったからこそ、あの the golden afternoonが光り輝いたのだ—」と思いを巡らせながらの川沿いの散歩は、やはり格別な思いを抱くひとときでした。

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7月初旬ではなく8月末、それもおそらく英国が今年いちばんの暑さを記録したであろう数日の中の1日であったことを除けば、よく晴れたこの日の午後も、黄金に光り輝く夏の午後と呼ぶにふさわしいものとして、‘where Childhood’s dreams are twined / In Memory’s mystic band’に、織り込まれることでしょう。

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帰国後、安井先生に SCEP参加報告も兼ねてご連絡した流れから、「不思議の国のアリス展」のことを教えていただきました。アリスの Oxfordを経てのタイミングで、さらなる新しいアリスの世界との出会いが楽しみです。

そしてその週末、ガリレオ研究室の生徒の1人も Oxfordに。

前置き(!)が長くなりましたが、今回の Oxford訪問でもうひとつ感慨深く思えたこととして、高校生の頃からガリレオのレッスンを継続的に受講し、現在は上智大学文学部で学ばれている生徒が、SCEPと1週間ずれた日程でOxford短期研修Shakespeare Streamに参加され、ちょうどこの週末に Oxfordに到着していたということでした。

お互いの研修のスケジュールの都合もあることなので当地でお会いしたわけではないのですが、メールで「ロンドンまで行ける時間があれば、グローブ座 (Shakespeare’s Globe)はぜひ訪れると良い」とオススメすると、「研修のプログラムに組み込まれており、グローブ座で A Midsummer Night's Dreamを観劇することができました!」と報告を頂き、英国を訪れたからこその学びを深めることができたというのは、ガリレオにとっても嬉しい話でした。

この度、研修に参加されてのご感想をいただいたので紹介します。

研修中の授業ではシェイクスピアを読み、解釈するだけでなく実際に声に出して演じてみる機会が多く、声に出してこそわかる言葉のつながりや音の美しさや、リズムの心地よさに改めて魅了されました。普段の大学の授業では、英語を話す際も先生はすぐにニュアンスで理解して助けてくれたり、日本人同士では日本語の単語を交えたりして、なんとなく英語を話して分かり合うことができてしまっていました。今回文化や慣習などといった背景知識を共有できず、日本語を一切知らない方たちと話す機会が多い中で、英語のみで意思疎通することの難しさを強く感じました。適切な表現と適切な単語をその場に合わせて使えるようになるまでには、まだまだ道は長いと感じられたことは大きな収穫でした。不自由さを感じると同時に、英語を通して知らない世界を知り、視野を広げることの楽しさもたくさん味わいました。将来、海外と何らかの形でかかわっていたいという気持ちも芽生えてきたので、その気持ちを大事に、もっと真剣に向き合っていきたいです。

研修を通して出会った人たち、特に、アシスタントとしてプログラム全体をサポートしてくださった現地の大学生・大学院生たちは教養があって自信にあふれていて、それでいて温かくユーモアたっぷりの素敵な人たちでした。また、参加している学生も年齢・国籍・バックグラウンドも同じ日本の大学生でありながら様々で、個性豊かで意識が高く、学ぶことに対する姿勢に刺激を受けました。

残りの学生生活に生かしていけるヒントをたくさんもらうことができた研修となりました。

シェイクスピアと英語音声学の交差点

そして実は、ガリレオの参加した SCEPと、シェイクスピア研究との間には、SCEP Centenary Guest Lectureで講演をしてくださった David Crystal先生によって結ばれる接点があるのです。

まず、David Crystal先生といえば、Shakespeare’s Globeで「シェイクスピア時代の英語発音を再現した Romeo and Juliet」を上演するという初めての試みを主導された音声学者として有名。その時の話が Pronouncing Shakespeare: The Globe Experimentという本にまとめられています。

また、ご感想で頂いた「声に出してこそわかる言葉のつながりや音の美しさや、リズムの心地よさ」ということに関しては、ぜひ下のURLの “Audio files”タブから、B5.3 Elizabethan Englishを聞いてみてください。
https://routledgetextbooks.com/textbooks/9781138591509/resources.php
これは SCEPの practical groupで大変お世話になった Inger Mees先生が共著者の1人である Practical English Phonetics and Phonologyのサイトなのですが、上記リンクの音声ファイルでは、Shakespeare時代の発音を再現した Julius Caesar Act III, Scene iiの一節を聞くことができます。

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(Inger先生と。やはり写真を撮るときは /iː/が良いでしょう。)

わかる人にはわかる、こぼれ話

(1) SCEPの期間中に滞在していた UCLの accommodationの名称は John Dodgson Houseだったのですが、Dodgsonの発音が「ドッドソン」ではなく「ドッジソン」だったのが、アリスファンとしては少し残念といえば残念…(^^;

(2) この記事の文字数は、noteのカウントによれば 3,642文字です。

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