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英語の否定文について

ガリレオ研究室の YouTubeチャンネルにて公開している「英語の頻度副詞の位置について~デマを正す~」の授業動画に質問コメントをいただきました。

動画のコメント欄で返信するには長文になるので、こちらの noteにて記事にして回答いたします。

質問

一般動詞を否定する場合は doを伴って動詞の前に notが置かれるのですが、be動詞の場合は後ろに notが置かれています。
notは一般動詞を修飾しているのですか?

be動詞の場合、be動詞後の notは補語の形容詞や名詞などを部分否定しているのか、be動詞自体を notが後ろから修飾して全体否定しているのかわかりません。
notの場合、直後の語句を否定するのが原則でしょうか?

頻度の副詞や、副詞としての意味合いも強い同格のallなどが、be動詞の場合、notと同じ位置にあるので不思議に思いました。

ガリレオ流・回答

まず、be動詞(および法助動詞)の場合は notを後ろに置き、一般動詞の場合は doを伴って否定文を作るというのは、英語の歴史の中で文法がそのように発展した結果*であり、文の述語動詞に notをつけて否定する際に意味解釈が be動詞と一般動詞で異なると考える必要はなく、どちらも文全体の内容の否定 (Sentence-negation)と判断して良いでしょう。

(1) It was not raining. →  NOT [it was raining]
「雨が降っていた」ことを否定
(2) I cannot swim. → NOT [I can swim]
「私は泳げる」ということを否定
(3) My son does not like vegetables. → NOT [my son likes vegetables]
「息子は野菜が好き」ということを否定

>「be動詞後の notは補語の形容詞や名詞などを部分否定しているのか」

部分否定というのは、「全て」という意味を含む語を伴う場合に、その語を否定して「全てが〜とは限らない」という内容を表すことであり、単に be動詞に notが付いただけで部分否定になるわけではありません。

(4) Life is not always fair.
NOT [ALWAYS [life is fair]]
「常に『人生は公平だ』」というわけではない

>「notの場合、直後の語句を否定するのが原則でしょうか?」

notの否定が及ぶ範囲(専門的には「作用域:scope」と言います)は、表面的な語順だけでは判断できない場合があります。例えば以下の (5)は2通りにあいまいな解釈を持ちます:

(5) The doctor didn't leave because he was angry.

a. The doctor [didn't leave] / [because he was angry].
その医者は(腹を立てたので)立ち去らなかった。
= notは leaveのみを否定

b. The doctor [didn't [leave [because he was angry]]].
その医者が立ち去ったのは、腹を立てたからではない。
= notは "leave because he was angry"を否定

cf. Introduction to Semantics: An Essential Guide to the Composition of Meaning (Zimmermann & Sternefeld, 2013)

考え方の第一歩としては、notは右側(後続の要素)を否定するとしても良いかとは思いますが(ちなみに notに関して「修飾」という言い方はあまり一般的ではない印象です)、本質的には否定表現の解釈には作用域を考慮に入れ、否定がどの要素にまで及んでいるのかを判断する必要があります。

*補足

『文法化する英語』(保坂道雄, 2014)によれば、英語の否定文は古英語以降、次のように変遷を遂げてきたそうです:

古英語 (OE)
Ic ne secge.
(I not say)

中英語 (ME)
I ne seye not. > I say not.

初期近代英語 (EModE) → 現代英語 (PDE)
He saw not me. > He did not see me.

※太字強調はガリレオによる。


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