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ネイティブはそんな言い方しない → So what?

日本人の使う英語に対して「ネイティブはそんな言い方をしない」とか、「ネイティブが日常会話で使う“自然な”英語」といった類の発信を、noteも含めて見かけることがある。どちらかというと、英語ネイティブがそれを指摘しているというよりも、無駄に海外生活の長い日本人が、「これだから日本の英語教育はダメなんだ」という趣旨で言っていることが多い印象がある。

しかし、半数以上が UK外からの留学生という UCL界隈での英語コミュニケーションを1年間体感しながら言語研究を行なってきた経験を基に考えると、非英語母語話者が英語を話す際に、コミュニケーションのスタイルまでネイティブの習慣に従わなければならないのか?という点には疑問を抱く。

文法や表現的に正しい英文を適切な発音で口に出したとしても、それだけで英語のコミュニケーションが上手くいくわけではない。次の例を見てみよう:

[香港の警察署にて]
イギリス人の巡査部長(A)の部屋を中国人の巡査(B)がノックして入室し、以下の会話が始まる。
A: Yes?(なんですか)
B: My mother is not very well, sir.(母が具合が悪いんです)
A: Yes?(それで)— 眉間にしわを寄せる。
B: She has to go into hospital, sir.(入院しなければなりません)
A: So?(それで)
B: On Thursday, sir.(木曜日なんです)
A: What is it that you want?(いったい、何を言いたいんですか)— いらだちの表情をあらわにする。
B: Nothing, sir. It's all right.(なんでもありません。けっこうです)— うなだれてつぶやき、退室する。

『世界の英語を歩く』(本名信行, 2003: pp.17-18)

上のやりとりにおいて、果たして中国人巡査Bが "Can I have some leave, sir?"(休暇をもらえますか)と最初に言わなかったことが、英語コミュニケーションとして「悪い」ことであったのだろうか?

確かに、「母の具合が悪く入院が必要」(→「なので休暇がほしい」)のように、Bの発話を出発点に推論を伴った情報処理が必要になるという点で、直接「休暇をもらえますか?」と問われる場合と比較すると、Aにとっては同じ結果を得るための負担が無駄にかかるコミュニケーションである、という指摘は可能だろう。しかし一方、特にアジア圏の文化においては、自分の都合で相手に何かを頼む場合に、その背景となる事情を伝えて了承を得るプロセスから入るというスタイルがあるし、英語で話す以上はそれを英語ネイティブに合わせよ、ということではないだろう。もちろん、かといって一方的に相手に順応を求めるのもおかしな話なので、上の例で Bが最後にコミュニケーションの成立を諦める必要もなかったように思う。

大学でも寮でも、世界中の様々な地域から学生が集まってくる UCLにおける英語コミュニケーションでは、そうそうスムーズに伝わらないことへの耐性が高い人が相対的に多いように感じました。わからなければ聞き直すし、伝える側も手を替え品を替え試してみる、というように、順応でも押しつけでもなく、相互理解のためにすり合わせを地道に行なっていくという姿勢が、国際語として英語を使っていくために必要なことなのでしょう。

こと、日本の英語教育・英語学習の世界では、片や「日本人発音でも堂々と話せばいい!」などという言説を垂れ流し、他方でコミュニケーションスタイルに関しては「ネイティブらしさ」への順応が強調され、それは逆だろうと思うことが多々ある。むしろ、発音・文法・語彙の面では充分に理解可能 (intelligible)な英語が話せることを学習の目標とすべきであり、その結果として口をついて出てくる英語表現に、日本/アジア文化が載ることは問題ない(というか、無意識的にそうなってしまう場合がほとんどである)というスタンスで、異なる文化を持つ者同士の相互理解のために現場で調整を進めていくというのが、国際語として「自分の英語」の使い方なのではないかと考える。

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