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ルーイシュアンの宝石~10

19 聖獣の戦い

大きく咆哮するように開けた光狼の口から、眩い光の球体が飛び出ると、瞬時にスパークし、意思のあるかの如く、プルモンたちに襲い掛かった。
プルモンたちの口から、悪臭を帯びだ黒ずんだ靄が吐き出され、一つになり、襲い掛かる光の球体に真っ向からぶつかった。
光と霞は激しく衝突すると、眩い閃光を発し消えた。
(ふん、なかなかやりやがる…)
リュウは不敵な笑みを浮かべた。

五人の邪の欠片たちは、巧みな連携をとりリュウに攻撃を加えてきた。
1人がフェイントをかけると一人が酸を帯びた燃える液体を吹きかけてくる。
その間にもう一人が腹から無数の毒々しい触手を伸ばし、それを切り払うリュウの隙を伺いながら、もう一人が、腐敗臭のする泡を噴き出す。
そして、もう一人は、鞭のように伸びる腕でリュウを叩き潰そうとしてくる。
リュウは、体内から発する輝きを強め、液体や泡を消し去った。瞬時に口からオレンジ色に輝く発光体を放つと、鞭のように伸びてきた腕を切り払う。
しかし、すぐに新たな攻撃が繰り出されてくる。
光狼の光のバリアが強く、プルモンたちは容易に近づけはしなかったが、攻撃は切れ目なく続き、リュウに攻撃力のある発光体を吐き出す隙を与えなかった。それでもプルモンたちもダメージは受け始めていたが、さすがの聖獣も、体のあちこちに傷を受けていた。

プルモンたちはフォーメーションをとると、物凄い速さでリュウの周囲を囲み走り始めた。体内からどす黒い霧を湧き出させ、壁の様に広げた。プルモンたちの姿はその壁に遮られ、リュウの視界から見られなくなった。

(これじゃあきりがないぜ…)
リュウは内心苦り切っていた。
霧の壁を消滅させれば、その瞬間一斉攻撃してくるだろう。
リュウは目を閉じ、ゆっくりと開いた。
(光心点を開くか…)
リュウは、少し躊躇していた。
光心点とは、聖獣の核をなす、聖なるエネルギー部分を増加させ、それを加速させ、拡大させ、一時的にでも聖獣の力を最大限まで上げる瞑想的な技だった。
だが、この技はあくまで伝承で、幻の技とも言われ、リュウも光狼族の長から一度口伝で聞いただけで、実際自分で体験したことも見たこともなかった。

(俺は、聖獣だ。本当にこの技があるのなら、俺にもできるだろう。光の翼をもつことから逃げている俺だけど、今、この時、俺のためじゃなく、大切な仲間のために、この世界のために、俺は光心点を開き、真の聖獣という運命を受け入れる。)

リュウは覚悟を決めた。
そして長に聞いた遠い口伝の方法の記憶を蘇らせた。
全身の力を込め、リュウは黒い霧の壁を大きなジャンプで飛び越えた。
全速力で駆け抜けるとくるりと反転し、低い体制をとった。
不意を突かれたプルモンたちが、慌てて追いかけてくる。
リュウは呼吸を整え目を閉じた。
リュウは体内からの聖なる輝きをさらに強めた。それと同時に体内の奥深く、身体の中心に意識を集中した。
しばらくすると、体内に小さな瑠璃色に輝く光の輪が見えた。リュウは力を抜き、瑠璃色に集中した。
瑠璃色の光の輪は生き物のように動き、回転し、やがて球体になり、その輝きを増していった。
リュウは意識を使って、それを顕在意識まで引き上げようとした。
しかし力みすぎたのか、瑠璃色の光は消えてしまった。
(ちっ…)
リュウは内心舌打ちをした。
不気味な笑みを浮かべながら、プルモンたちが迫りくる。
「お遊びはこれまでだ。毛皮が痛まないうちに、とどめを刺してやる」
プルモンたちは狂気じみた方向を上げ、リュウに突撃してきた。

不思議とリュウに焦りはなかった。
まるで時間がスローモーションに入ったように感じていた。
もう一度呼吸を整えると、心の奥に集中した。
今度はすぐに瑠璃色の光点が現れた。やがてそれは回転し、球体になった。
リュウは静かにその輝きを味わい、共振した。光は鮮やかに輝きを増し、やがて光の花が咲いた。
リュウはその花を自分に広げた。花はリュウの中から咲き広がり、リュウは瑠璃色の花弁の中で色に染まり、輝きと共振した。そしてその共振と共に光と同調し、一気に光狼の額まで輝きを引き上げた。リュウの体内から凄まじい光のエネルギーが、額を感覚的に押し広げ、瑠璃委の花を咲かせた。

「ウォォォォ…」

リュウは、湧き上がるままの力のまま、魂の遠吠えを上げた。
同時にリュウの額から、目も眩むほどの瑠璃色の輝きが辺り一面、スパークした。
三人のプルモンが、避ける間もなく光の中で蒸発した。
神秘的な瑠璃色に輝く光狼は、残りのプルモンに飛びかかる。
触れる前にいっぴにのプルモンが消滅。
残った一匹を、そのたくましい光狼の前足で、押さえつけた。
プルモンは、リュウの輝きが苦しいのか、苦悶の表情を浮かべていた。
「おい、黒豹と子供はどこだ?」
「くっ…」
プルモンは顔を背ける。
さらにリュウの輝きが強まり、プルモンの口からうめき声が上がる。
「く、苦しい…そ、そいつらは地下深くの祭壇の間にいる。しかし、今頃モルバブジ様によって血祭りにあげられてるだろうが…」
プルモンは嘲るように苦し気に言った。
リュウから激しい輝きが発し、スパークすると、プルモンは一瞬で消滅した。

リュウはすぐさま走り出した。
「くそっ、間に合ってくれ!」
瑠璃色に輝く光狼は、地下へと続く階段を飛ぶように駆け下りた。
その背の輝きは、翼の様に広がっていた。


20 絶体絶命

「ふふふ…変化できんだろう?」
モルバブジは、薄気味悪い笑いを浮かべて言った。
モルバブジの変化封印魔法で、変化できないまま、ジーは、人間の姿のまま、剣を構えていた。
「そんなおもちゃは通用せんぞ。」
床から湧き出た、邪の欠片の集団が、ジーを取り囲む。
ジーは無言で、モルバブジを睨みつける。
「さあ、素直に鍵を寄越せ。そんな剣呑な顔をするな。美人が台無しだぞ。」
モルバブジは笑みを浮かべたまま近づいてきた。

「あんたなんかに鍵は渡さない。」
ジーは淡々と言った。
モルバブジの黄色い瞳が一瞬不気味な光を放つと、額の瞳から鈍い輝きを放つ黄色い光の帯が、ジーを目掛けて伸びてきた。
ジーの剣は、一瞬煌めくと、黄色い光の帯を弾き飛ばした。
「ふん、小生意気な…」
モルバブジは口から炎を吐き出す。
ジーは素早い身のこなしで炎を避けると、光を放つ剣を振りかざし、モルバブジに切りかかった。
モルバブジは身に着けていた剣を素早く引き抜くと、ジーの剣を受け止め、打ち払う。即座にジーは剣を振り、剣から発せられる光を、モルバブジに向け投げかけた。
モルバブジは体制を変えそれを避けたが、その隙に繰り出されたジーの剣に、その頬を切り裂かれた。頬からは青緑色の血が噴き出した。
「おのれ…」
モルバブジの瞳が怒りに燃えている。
「お遊びはお終いだ!」
モルバブジは叫ぶと、右手を高く振り上げた。
祭壇に寝かされていたイシュの身体が、すっと浮き上がる。
「女、小僧がどうなってもいいのか?」
モルバブジは、勝ち誇るかのように含み笑いをした。

「卑怯だぞ!」
ジーは叫んだ。
「鍵を大人しく渡せば、小僧を開放してやる。」
「……」
ジーは唇を噛みしめた。

「うーん…」
イシュが突如苦し気な呻き声をあげた。
イシュの身体が、見えない力で捩られ始めた。あり得ない動きで、身体が捻じれていく。

「分かったわ!」
ジーはたまらず叫んだ。
「分った。鍵はお前にくれてやる。先にイシュを放せ。」
「駄目だ。鍵を渡すのが先だ。」
モルバブジはニヤニヤ笑った。
ジーは胸元に手を当てた。
(聖なる鍵よ…)
ジーはそっと足元にペンダントを置いた。

「約束だ、イシュを放せ!」
ジーはモルバブジを見つめた。
モルバブジは、無言でにやけた笑いを浮かべたままだった。
「モルバブジ、あんた…」
ジーの目を怒らせた。

モルバブジが左手を振りかざした。
突如床が波打ち、ジーの足元を飲み込む。体制を立て直す間もなく、取り囲んだ邪の欠片の集団が襲い掛かる。
ジーの手の中の剣が熱を帯び、ジーの動きに合わせジーを守るように光で包み込んだ。光に当たった集団は苦しげな声を上げ、退いた。
その騒ぎの中、床から触手が伸びてくると、素早くペンダントを奪い去った。ジーはすぐさま剣で払ったが、弾みで触手ごとモルバブジの足元に転がり込んだ。
満面の笑みを浮かべるモルバブジ。
「おお、なんと長いこと待ちわびたことか…」
モルバブジは喜びの声をあげながら、ペンダントを拾い上げた。
「この鍵に、この生贄の小僧の心臓の血をかければ、封印を破壊できる。さすれば、邪様をこの世界にお迎えすることができる。邪様とこの世界に新たな我らの世界を作るという、我の願いが成就する。」
「何をする気だ!」
ジーが叫ぶ。
「最後のプレゼントだ。お前の大事な小僧の血が流れ出ていき、邪様に捧げられるのを見届けるがよい。そのあとは、お前の毛皮もささげてやるがな。」
モルバブジはそういうと、剣を持ったまま祭壇に近づいた。

「ちくしょう…」
ジーは歯軋りをした。
足を抑えられ、身動きの取れない状態では、どうすることもできなかった。
このままイシュの死を見てるだけなのか?
(せめて変化できれば…)
ジーは悔しさのあまり、全身が震えていた。)
(モルバブジの魔術に負けるわけにはいかない。豹族の誇りにかけて、なんとしてもこの変化封印魔法を打ち破らねば…)
ジーはそっと目を閉じた。
(聖なる鍵よ…私を選んでくれた聖なる鍵よ…
邪悪なるものに立ち向かうため、邪の魔法を打ち破るため、その聖なる力を私にお貸しください。私は全身全霊で、あなたのために仕えます。聖なる鍵よ…)
ジーは、静かにそして魂からペンダントに語り掛けた。ある瞬間からジーは、モルバブジの手の中にあるペンダントと共振していることを感じた。

モルバブジは祭壇の前に立つと、ペンダントを置きイシュの心臓の位置に当たるよう、イシュをうつぶせに回転させ、その上に寝かせなおした。そして剣をイシュの上高く振り上げた。

(聖なる鍵よ…)

その瞬間、イシュの下から眩い七色の光が広がった。
「ぬうっ…」
光を避けそこなったモルバブジは、顔に苦悶の色が広がる。
七色の光は蛇体の様に動き、ジーに向かい、その身体を包み込んだ。
ジーは身体を魂を抑えていた。邪悪な力が吹き飛び消え去るのを感じた。
ジーの身体の奥底から、生き生きとした燃える力が沸き上がるのを感じた。

「くっ、我が願いを邪魔させんぞ!」
モルバブジは叫ぶと、剣を高く上げ、イシュ目掛けて振り下ろした。
瞬時に黒豹の姿をとったジーは、躊躇することなく祭壇に向かい大きくジャンプすると、剣が落ちる寸前イシュを咥えた。
モルバブジの剣がジーの身体を貫いた。
真っ赤な血が、めり込んだ剣の周りから流れ出た。
黒豹は苦痛に顔を歪めたが、そのまま一息に飛び越え、離れたところに柔らかく着地した。

「う、うーん…」
イシュは目を開けた。
ペンダントの光で、イシュにかけられていた魔法も解けたようだった。
イシュはすぐ横に夢にまで求めていた黒豹の姿を見た。
「ジー!会いたかったよ…」
イシュは黒豹に抱き着いた。
そしてすぐにその手に生暖かいものを感じ、ぎょっとした。
イシュは、ジーの身体を貫いた剣を見た。

「おのれ、おのれ!小癪な雌豹め!」
モルバブジは怒りのあまり、吼えまくった。
黒豹は、気力でイシュの前に立った。
「誇り高き豹族は、身体はあんたに滅ぼされたかもしれないが、魂は汚されず生きている。私の一族の力、全て今私と共にある…」
黒豹の金色の瞳が、輝いている。
「お前は、あの時取り逃がしたガキか…」
モルバブジは驚いたように呟いた。
憎し気に睨みつけると、目を光らせた。
モルバブジの口元から、意思を持ったような、濁った液体が、ジーを目掛けて噴き出してきた。
ジーはイシュを護るように身構えた。
黒豹の全身から青い燐光が溢れだし、向かい来る液体を輝きでとらえると、瞬時に霧散させた。
その瞬間、ジーはよろめきゆっくりと倒れた。

「ジー!大丈夫?!」
イシュは黒豹に駆け寄り、手をかざした。
柔らかな光が、ジーの貫かれた剣の根元の傷口を包み込む。
だが、流血は止まらなかった。
「ごめん、僕の力じゃ…」
イシュの菫色の瞳から涙がこぼれる。
「イシュ、鍵と一緒に逃げな…」
ジーは、薄っすら目を開けると、そっと言った。
「ここにリュウも来ている。まもなく、リュウはここに来るはず。イシュの匂いを辿って、必ず来る。」
「ジーと一緒じゃなきゃ嫌だよ!」
「私は最後まであいつと戦う…」
ジーはそういうと、よろめきながら立ち上がった。

「しぶとい雌豹め…」
モルバブジは舌打ちをした。
「とどめだ!」
モルバブジは両手を高く上げた。

「ジー!無事か!?」
力強い声が響いた。
黒豹の耳がそれに反応し微かに動くと、緊張の糸が解けたかのようにその身体は崩れ落ちた…

自分の力を試したいと 試行錯誤しています もし 少しでも良いなと思って頂けたのなら 本当に嬉しいです 励みになります🍀 サポートして頂いたご縁に感謝 幸運のお裾分けが届くように…