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5バックの理由が物語る 24節 アトレティコvsセビージャ(H) 2023.3.4

3月!春!私は寒いのが大の苦手なのでワクワクしております。

ホームでのセビージャ戦。前回対戦。

2-0で勝利。ヴィツェルアンカーだのクーニャ左サイドだの。そして今思えばフェリックスとのお別れの序章となる試合だった。コケのアトレティコ・マドリー史上最多となる554試合目の出場試合でした。ちなみに今日はシメオネのアトレティコ史上最多となる613試合目の指揮試合になる。メモリアル続き。

アトレティコは先週のマドリーダービーでヘイニウドが大怪我。シーズンアウトに。そしてモリーナは累積5枚目のカードをもらってセビージャ戦を欠場する。W杯後固定してきた最終ラインの並びが一気に変わる試合になる。前日にソシエダがカディスと引き分けており、勝てば3位浮上となる重要な一戦。

今季絶不調のセビージャは年明け以降はやや状態が良化。先季のリーグ最小だった30失点をすでに上回り33失点だが、最近はホームでクリーンシート勝ちを3連発。ちなみにアウェーでは10/15の9節マジョルカ戦の勝利(1-0)以降6試合勝ち無し。前節オサスナ戦も2-3負け。前半は後ろに重い3バックだったが後半は4-2-3-1風に変更。結局この形が基本形になっていくのではないか。


●スタメン
・アトレティコ

オブラク
サヴィッチ / ヒメネス / エルモソ
ヴィツェル / コケ / ルマル / ジョレンテ / カラスコ
グリーズマン / メンフィス

久々の3CB。サヴィッチとヒメネスの併用は16節バルサ戦以来。
ヴィツェルスタメンは18節バジャドリード戦以来。メンフィスはようやく初スタメンとなる。

・セビージャ
ブヌ
モンティエル / ニアンズ / グデリ / アクーニャ
ジョルダン / ゲイェ / ラキティッチ
スソ / オカンポス / エン=ネシリ

フェルナンドが前節の退場で4試合のお休み。中央の配置がさらに難しくなった。ジョルダンをスタメンで使う。前線はスソが右、オカンポスが左。



アトレティコはこの日後方5枚で。マドリー戦も実質5枚で変形していたのでピッチ内に戸惑いはなかった。とはいえバルサ戦と比べるとぎごちない部分があったので確認していく。


●何故5バックか。それぞれの都合。
その前に事前に確認していく。何故5バックを選択したのか。セビージャも4-1-2-3から変形する5バックだったからだ。それぞれに都合があり、監督の思惑があった。そこにも指摘しておきたい。

・アトレティコの5バック
アトレティコは3CBに両WB(ジョレンテ&カラスコ)が最終ラインに参加する5枚。5-3-2を基本形とした。カラスコは微妙にランデヴー要素があったがその辺は後ほど。

・セビージャの5バック
セビージャはアンカーポジションにいるジョルダンが非保持でCB間に落ちて5枚に。アトレティコ最終ラインへのプレスをある程度諦めた5-2-3(5-4-1)で構えていた。

アトレティコの理由は、セビージャの大外を自由にさせない点を重視したこととHV(サヴィッチ&エルモソ)のハーフレーン迎撃をメインの守備としていた点が挙げられる。大外はWBが1vs1で相手を上回ること、ハーフスペースはサヴィッチとエルモソが閉鎖することを期待した、守備からペースを保持する狙いを持った。設定箇所は違うが、これはマドリー戦の態度と共通する。

追記すると、アトレティコは他にも複数の選択肢がある中からこの選択をしている。その理由がモリーナの欠場にあるのかヘイニウドの長期離脱にあるのかは興味深い。「左SBいないから4バックやめます」なのか、「ドハーティでは不安だから5バックにします」なのかで、もたらされる結果は随分と違ってくる。個人的にはモリーナ欠場が理由であってほしいが、その他コンペティションが全て終了している今季、"5バックしか選択肢がないのでは困る"となる試合はバルサ戦とソシエダ戦くらい、と考えるともう4バックは諦めたのかもしれない。

一方のセビージャは、前節の前半で3CBのビルドアップが機能しなかったことを理由に人選し、とはいえ4バックでアトレティコの攻撃を耐えられるとは思えなかったというネガティブな点が、4-1-2-3→5-2-3の変形を選択させていると思われる。

この辺りの思惑は、しっかりと前半のスコアに反映された。前フリが長くなったがようやく、試合の中身を見ていく。

アトレティコの非保持基本形。
セビージャのSBは大外低めの立ち位置。中盤はラキティッチがビルドタスクでゲイェがライン間へ移動する。どう考えても逆だろうと思っていたがそんなことなかった。ということでセビージャの侵入は左サイドに偏るかと思われたが、余裕で右から進んできた。よくわからん。

アトレティコはジョレンテが完全に最終ラインに参加、カラスコは対面するモンティエルの位置をやや見ながら5バックを作る。中盤は3枚で右からコケ、ヴィツェル、ルマルの順。ちなみに初スタメンのメンフィスはグリーズマン同様にアンカーを消しながらCBの選択肢を限定するのが上手い。ポジティブトランジションも、これもグリーズマン同様に最初の縦パスをもらおうと顔を出すのが上手い。イメージよりも動き回るタイプである。お互いにやりやすそうだった。

ということで、前半の得点は2つ。いずれも中央でボールを引っ掛けての速攻から、そしていずれもメンフィスが仕留めた。スタメン起用に応えると共に、あまりにもこの日の配置とチームの狙いにベストフィットし、グリーズマンが内向きにボールを止めたタイミングで背後を狙ったランニングもしっかりする。ベストに近いパフォーマンスだった。コレアは、大丈夫か。

さて守備で気になった点。
カラスコは最終ラインに入る必要がなければ(モンティエルがビルドアップに参加するようであれば)中盤左に入って4-4ブロックを作る狙いが微妙にあった。ただ、この日の中盤の配置だと、ルマルは前向きに矢印を作ってプレスに飛んでいってしまうと同時に真ん中のヴィツェルの機動力(と、そもそも変形する意識)が低く、4-4ブロックを作るタイミングが訪れなかった。それ起因でズルズルと中盤ラインが下がっていく懸念があり、この守備組織でのヴィツェル中央は微妙に課題が残る。ちなみにコンドグビアでもたいして変わらない。

失点シーンはこの辺のふわつきに原因がある。
上で書いたように、この日はハーフスペースに飛び込んでくる相手にHV(サヴィッチ&エルモソ)が迎撃する形を設定していた。

この形自体に無理はなかったが、この日問題になったのは結局セビージャの左サイド。アトレティコのサヴィッチ側の対応であった。
セビージャのサイドの配置は正直あまり整理されておらず、アクーニャとオカンポスが内外どっちに立つのかがノリになっていた。というかオカンポスが勝手に大外で待っていて内側に切り込んでいく。なのでアクーニャはビルドアップ局面ではあまり高い位置を取れなかった。狙ってやってたらすまん。それはないと思う。

モンティエルが外、スソが内、というよりカラスコがモンティエルを見張っているという環境が確定しているアトレティコ左サイドと違い、このあやふやな配置にアトレティコはけっこう困った。オカンポスのレーン移動も警戒しないといけないので。
それに加えてパプ・ゲイェである。なんでこういうフィジカル特攻型のCHがプレミアで重宝されるのかがよくわかる試合であった。埋まってるレーンに突っ込んでくるとシンプルに対応できない。
39分のセビージャの得点はこの箇所から生まれている。このシーンを細かく紐解いていこう。今週のピックアッププレー。


●ピックアッププレー
IHのハーフスペース特攻をどう止めるか。約束事の整理

失点シーンである。思えば20-21の優勝シーズン、ルマルのハーフスペース特攻がアトレティコの攻撃のメインウェポンとなっていた。それを食らった場面、というか試合というか。

ボール保持者は左CBのグデリ。この配置に至る流れは、ゲイェがハーフスペースでボールを触り、一度アクーニャにボールを戻したところから。ゲイェに対してサヴィッチが迎撃に出たためアトレティコは配置全体が左サイドに動いている。ボールがジョルダンに渡るが、ジョレンテがオカンポスに捕まっているためコケの優先順位はジョルダン<アクーニャとなり、ジョルダンの持ち運びを許容して押し込まれる。ヴィツェルが対応に出れば良かった説と、押し込まれてもいいです説がある。おれは後者派。

アクーニャにボールが入り、オカンポスは内側のレーンへ移動。ここでアクーニャのマークをジョレンテに受け渡したので、オカンポスとゲイェのハーフスペースに突撃される嫌な予感がしたが、ここではタイミングが合わず。ヴィツェルとルマルがボールサイドまで移動してきた中盤の対応は良かった。それと、こういう時にジョルダンの背中まで追いかけてくるからグリーズマンはカウンターの起点になれるんだなという典型的な位置。偉いです。

一度最終ラインにボールが戻ってやり直し。ここで中央のニアンズにボールが戻った時にスソが良いランニングをする。

ルマルが後方を気にしながら左寄りに行ったプレッシャーが非常に巧く、ここを使わせなかった。見事な対応。陣地を奪回しようとしたアトレティコはカラスコが何故かモンティエルを捕まえにいった。おれが思っている以上にランデヴーの指示だったのかもしれないが、あまり意味のない対応。ニアンズの配球は再度、左。

アクーニャがかなり中途半端な位置でボールを受け、ジョレンテのボールまでの距離が遠く、近寄ったオカンポスには"ハーフスペースはHVが迎撃"の約束通りにサヴィッチが反応し、もう一人のハーフスペース突撃部隊のゲイェをフリーにした。ヒメネスがエン=ネシリのマークを離せなかった原因はカラスコがモンティエルを捕まえに最終ラインにいなかったところの影響があった。中央は2vs2で、ニアに入ってきたエン=ネシリを捕まえきれずに失点。

色々なことが起きた失点シーンだったが、ハーフスペースにピンポイントで特攻されるとこういうシーンが起こるということ。そしてゲイェはそれを意識的に生み出せる選手で、アトレティコは良い教訓を得た。5バックがこの日だけなのか今後も継続なのかでこの失点の評価は変わってくるが、継続するなら陣地奪回の際のカラスコの配置はもっとはっきり決めるべきで、逆にジョレンテとコケはアクーニャへのプレッシャーの強度をどちらが担当するべきだったのかも確認ポイントになるし、そもそもヴィツェルのスライドはあれで良かったのか?というのも検証ポイントとなる。正直右デ・パウル中央コケだったら起こらなかったシーンだろう。色んな確認ポイントがある面白い失点だった。


・ボール保持局面

一方のアトレティコの攻撃は、この日右WBに入っているジョレンテが普段通りの高いポジションをキープ。左のカラスコも当然大外の最前線に位置し、ヴィツェルを中央にコケ、ルマル、グリーズマンの関係性で進んでいく。特にセビージャの中盤が、真ん中のジョルダンがCB間に落ちていく変な可変をしていたので、そのジョルダンと2CH(ラキティッチ&ゲイェ)の隙間でグリーズマンが簡単にボールを引き出していた
あとは真ん中で引き出せない時というのは大概この辺のスペースを自由に使えており

この辺

コケ&ルマルという可動域の広いIHを起用した利点で、相手のマークから逃げる位置まで大きく移動し、簡単に配球していった。序盤だけでルマル→メンフィス、コケ→ジョレンテで背後を取ってチャンスを作っている。また、13分には両WGが低い位置まで下りて5-4-1配置を作ったセビージャに対し、ルマルがライン間でヒメネスから縦パスを引き出してシュートに繋げた。

ライン間

割とやりたい放題やれている。
このメンバーのショートパスで前進できる実感が、高い位置でボールを奪った際のトランジションでチャンスを生んだ。まずは23分の先制点。スソが中央で前向きになれるゲイェを使おうとしたパスがズレて、コケ→メンフィスでカウンター。グリーズマンがメンフィスへスルーパスを通してゲット。ボールも良かったが、セビージャはこのスピード感のカウンターに全くついていけないのはなかなか厳しい。スタジアムではヘイニウドへのチャントが歌われる中での得点。
続いて26分に早速追加点。ジョレンテがアクーニャとジョルダンのパス交換を一人で二度追いして引っ掛ける。グリーズマンを使ってジョレンテが突っ走り、横パスをもらったメンフィスが右足一閃。ルマル含め全員良く走ってシュートコースを開けた。しかしメンフィスのフィニッシュは見事。
セビージャのCBの脆さを徹底的に壊しにいったアトレティコの良い速攻2発であった。39分に上記のエン=ネシリの得点で2-1での折り返しとなったが、ほぼ懸念点はない戦いを選べていた。後半突然ボールを握られてセビージャの左ハーフスペースの破壊がハマりまくると危険なので、やるとしたらここの守備にテコ入れをするくらいで良さそうだった。具体的にはジョレンテがゲイェに付きまとう。

実際は選手交代無しで後半。そして53分にアトレティコが追加点。これもトランジション局面で、オブラクのキャッチから始めたビルドアップで今度はサイドのスペースをエルモソが使ってドリブル前進。ガラ空きのライン間でルマルがどフリー。ロブパスを受けたグリーズマンがコケとのワンツーを使ってシュートレンジでどフリー。外側をジョレンテが良いランニングをしていたがあの位置でボールホルダーがフリーはまずい。綺麗に振り抜いてシメオネとの抱擁。これで試合を圧倒的優位に進める。


この時間帯からセビージャにかなりボールを握られるが、64分に保持の回復を目的にバリオス投入。同時にメンフィスがお役御免となり、縦のスピードを優先しモラタ投入となった。抜け目ない。

そして69分に試合を決める4点目。前がかりにボールを奪いたいセビージャをひっくり返したのはここでもグリーズマン。サヴィッチから縦パスを引き出してガチャガチャしながらジョレンテが広大な背後を取った。折り返しにバリオスが触って逆サイドに飛び込んだカラスコが決めた。バリオスの折り返しは狙っていたのか、たまたまか。気になるところ。おれは狙ってると思う。彼は天才なので。

5点目はモラタ。アトレティコが最終ラインでぐだぐだしたがトランジションでひっくり返したのはこれもグリーズマンだった。なんなんだ。アディショナルタイムにもモラタがぶち込んで6点目。シメオネをお祝いする豪華な花火大会となり、試合終了。

●試合結果
6-1の勝利。アトレティコのレビューを書き始めてから最多得点。5得点すらなかったんじゃないか。スコアは置いておくにしても、期待通りの攻撃で押し切れた試合であった。

メンフィスのスタメン起用は大きく当たった。多彩な選手であるが、本来はもっと足下でボールを受け取り、そこから味方を使うプレーで特徴が出る選手と認識している。しかしこの日はグリーズマンの配球に呼応してCFとして味方が求めるタスクを黙々とこなしていった。非保持の対応も全く問題ない。仮に無得点だったとしても十分継続起用に値する活躍だった。その中で、トランジションで2得点。9番の仕事を果たした。

優位に試合を進めながら、ボールの取り所を見失った後半、それでもまたトランジションでグリーズマンが決め切って実質勝負あった。シメオネの元へ一目散に駆け寄ったセレブレーションはアトレティコの歴史であり、現在である。

スペースが生まれ始めてから、スピードでピッチを圧倒した展開はセビージャとしては抗いようがなかった。仕方ない。しかしそこから3点追加した確実性は今季のアトレティコには珍しいものであった。特に65分から出てきたモラタはここがボーナスステージとばかりに勢いを持ってゴールに迫った。
ちなみに、おれはモラタの途中出場であろうが欠場明けであろうがいつも通りのパフォーマンスが出せる点を非常に高く評価している。プロフェッショナル。実はそれが安心して"今週はベンチに置いといてもいいかな"と思わせる理由になっている気が実はしている。割とまじで。

ドハーティをようやくホームのファンの前でデビューさせられたことや、久しぶりにカルロス・マルティンをプリメーラの試合で起用できたことなど、終盤はお祝いムード。クラブ史上最多、シメオネの613試合目の指揮となる記念すべき一戦を大勝で飾り、スタンドからもシメオネへのチャントが何度も響いた。これで定位置の3位浮上となった。


セビージャは、クラブ的にも監督的にも文句を言いたいことは山ほどあるだろうがとにかく来季もチームにいる選手達で戦ってほしいなと思っていたが、案外それどころではないかもしれない。個人的にはニアンズが可哀想な役回りなのかそもそも本人の能力が足りないのか計りかねている。しかしベテランの多いスタメンでこの戦いぶりはなかなかしんどい。スペイン人もあんまりいないし。大逆転のプランはなさそうなので地道に改善していってほしい。サンパオリの評価はわからん


3/4
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 6-1 セビージャ
得点者
【アトレティコ】’23 ’26 メンフィス ’53 グリーズマン ’69 カラスコ ’76 ’90+2 モラタ
【セビージャ】’39 エン=ネシリ


●ピックアップ選手
メンフィス
初スタメン。ホームのファンの前で前半に2ゴール。圧倒的なパフォーマンスでチームを勝利に導いた。

グリーズマン
先制点のアシストと自ら決めた3点目。4点目と5点目も起点になった。この日もボール保持の中心となり決定機をいくつも用意した。彼を中心にチームが回り、シメオネと抱き合ったゴールセレブレーションは今季のチームのハイライトとなった。

ドハーティ
ようやく初出場。攻撃に出る局面でもボールを保持する局面でもなかったが問題なく試合に入った。まずは一歩。思ってるよりだいぶ身体がでかい。

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