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未来を背負う覚悟はあるか 2節 アトレティコvsベティス(A) 2023.8.20


2節はベティス戦。前回対戦。

アトレティコ絶好調の時期。開幕戦はともに勝利し、連勝を狙う試合となる。ベティスはホーム開幕戦。
初戦の相手はビジャレアル。CLを争う直接のライバルといきなりの直接対決となったが、後半ロスタイムのウィリアン・ジョゼのヘディングで2-1勝利。新加入のイスコとマルク・ロカを組み込んだ中盤の構成は可能性を感じた。フェキル、ウィリアム・カルバーリョが怪我で欠場するなど不完全でありながら戦える強度を見せていた。

開幕戦、グラナダに3-1勝利でシーズンをスタートさせたアトレティコはコケが負傷。コレアもこの試合はベンチから外れた。3CBと右WBの組み合わせはまだまだ手探りでその選択が試合の流れを左右しそう。



●スタメン

・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヴィツェル / エルモソ
アスピリクエタ / ジョレンテ / デ・パウル / ルマル / カラスコ
グリーズマン / メンフィス

ヴィツェルがスタメンに。アスピリクエタはWB。コケが離脱した中盤中央にはデ・パウルを置いてバリオスはベンチに。トップはモラタではなくメンフィス。

・ベティス
ルイ・シルバ
サバリ / ペッセッラ / ルイス・フェリペ / ヴィニシウス
ギド・ロドリゲス / マルク・ロカ / ルイバル / イスコ / アヨセ・ペレス
ボルハ・イグレシアス

ルイス・エンヒッキがメンバー外となり、ルイバルがスタメン。あとは開幕戦通りのメンバーに。



●前半

アトレティコのプレスが空転し、ベティスのペースで試合が進んだ前半。

ベティスの後方保持。主にギド・ロドリゲスが真ん中、マルク・ロカは左へ移動しCB-SB間にポジション。左SBのアブネル・ヴィニシウスを高い位置に立たせた。
アトレティコのプレスは設定なのかノリなのか結局わからなかったが、3枚の中盤が基本的に前方を捕まえにいくポジション。先季前半のよくなかった頃に逆戻りした。この一週間で何があった。コケとバリオスが出ていないとそんなバランスも調整できなくなるのか。CHが全員前を捕まえにいっても効果的に顔を出すイスコに外され続け、プレスは無力化させられた。残念な対応です。

こんな感じの図をプレビューで書いた記憶もある

さらに気に入らなかったのがイスコの位置をデ・パウルが気にし始めるとルマルがギド・ロドリゲスへの対応に追われてサバリが出口に。そもそもサバリを出口にするのはベティスのビルドアップの基本形なんですが。なんかプレビューでこういう対応やめろよって書いたな

気に入らなかったポイントはCHの配置不全で晒されたくないエルモソの対人対応を晒された点、もう一つはカラスコは別にサバリに入ったボールにプレッシャーをかける必要は特になかった点。引き込んでプレス回避すればいいって話だったはずなんですが。そう思ってたのはおれだけですか

このルイバルvsエルモソは前半だけで数えきれないほど再現されたが一体何が目的だったのか。サバリ&ルイバルの対応に追われっぱなしの45分。挙げ句の果てにはルイバルがエルモソを連れて列落ちしてその背後をイグレシアスが、みたいな場面まで作られた。そういうのはもう卒業したつもりだったんですが。

左サイド(アトレティコの右サイド)でもヴィニシウスが足下でボールを受け取ってイスコが並行サポートで加勢、アヨセ・ペレスとボルハ・イグレシアスが背後を狙う形を徹底。アスピリクエタになす術はなかった。
ラインを下げられたところにイスコから大外背後のルイバルへアーリークロスまで入れられる始末。無失点で終えられただけ良しとしよう。好き放題前を捕まえにいったジョレンテとデ・パウルがイスコ&アヨセ・ペレスにライン間を好きに使われていたのは結構見たくない光景だった。


保持。アトレティコはデ・パウルを中央に立たせてビルドアップを試みる。
360度ターンが上手くないデ・パウルが微妙にボトルネックになり、スピードアップできない。イスコとマルク・ロカに微妙に狙われている感じもあった。ファールで引っ掛けておいて笛が鳴らなかったらラッキー、みたいなギャンブルをイスコがやっているようにも見えたな。レイオフでデ・パウルの前向きを作れると可能性を感じるが、とにかく一手間多かった。

敵陣ではジョレンテ、ルマル、グリーズマンがダイレクトプレーでミスを連発し中央でボールロスト。グラナダ戦同様、ギド・ロドリゲスの背中を取れているルマルにボールは入るがカラスコとのコンビネーションが合わず、メンフィスも周囲とリンクできず難しい展開だった。メンフィスは身振り手振りでもっとアクションを増やせということを周囲に言っている様子があった。せっかくのスタメン機会で結果が欲しい彼からしたら当然の要求で、こういうところからチームの微妙な亀裂は生まれてくるもの。
ベティスの両SBの対応も良く、なかなか突破口が見つからず、トランジションでイスコを経由されると嫌な予感があったので、チームはさらに積極性を欠いていった。


●前半終了

0-0での折り返し。脈絡がわかりやすく、レビューを書いているおれ自身としても"こういう対応をするだろう"と思っている通りに試合が進んだ開幕戦。一転してこの前半は誰の目で見てもマイナスの要素を増やして試合に入っていた。原因は一体どこにあるのか。これでアンカーを入れ替えなければ本当に不安になってしまうが、シメオネは後半開始からバリオスを投入しているので個人的には一安心。もう二度とこんな最低な守備対応はないだろうと安堵しているのでこれ以上の指摘はやめておく。

攻撃に関してはビタッと合えば、という場面が一切合わずフラストレーションを溜めていった。どこかの対人で上回れるわけでもなくわかりやすく停滞し、あれだけ再現性のあった開幕戦を受けてこんなにもベティスがアトレティコを怖がっていないのは残念。自ら招いた事態ですね。


●後半

全く良さの出なかったジョレンテに替えてバリオス投入。少し可哀想だがサヴィッチが前半でイエローをもらっているのでアスピリクエタはピッチに残したい、とか色々理由はありそう。彼も被害者ではあった。
開始早々バリオスをポイントにしてメンフィスからルマルにクロスが入り、この日も夢も希望もない右足ボレーを放っている。

設定が変わった攻守の配置をおさらい。非保持から

バリオスを基準点にプレス枚数を整理。これはバリオスが入ったから劇的に良くなったというよりはシンプルにハーフタイムの指示で正気を取り戻したという評価でいいと思われる。いくらなんでもまともになりすぎ。
アトレティコのIH(デ・パウル)の付近に移動して数的優位を押し付けるイスコのポジショニングはさすがである。そして加勢してきてくれるグリーズマンもさすが。ただ、この位置での数的不利は許容するのが今のアトレティコの強さであり、それを明確に取り戻した後半戦。デ・パウルは理屈で理解してほしいところ。
押し込みさえすればミドルシュートで得点を匂わせることができるベティスはさすがにグラナダよりも数段上の脅威を与えてきていた。

続いてビルドアップ局面。

3CBの幅をかなり広く取る。特にエルモソはタッチライン付近まで移動した。逆にバリオスのすぐ隣まで近づいても仕事ができるエルモソの役割はグラナダ戦と一転してかなり多かった。
中央のバリオスをいつでも経由できるスペースを確保し、ルマルが真っ直ぐ縦に落ちてくることで左サイドからの前進も促進させた。ルマルは、こういう判断を前半から周囲に指示できる選手になってほしいね。明確に動きやすそうになっていた。そしてデ・パウルはIHに移動すると正気を取り戻すのは何故なんだろう。バリオスが前を向いてボールを進めることでデ・パウル&アスピリクエタのポケット侵入も数回あった。

試合は51分にファールを取ってもらえなかったイスコが激昂したところで主審のリカルド・デ・ブルゴス・ベンゴエチェアが正気を失ういつもの流れ。アトレティコもサヴィッチを中心に揉め事を起こしていく展開はどちらに味方するでもなく試合を落ち着かせていった。しかしマルク・ロカは試合のペースに関わらず要所で効いていた。いい選手だね。

62分、ベティスの最初の選択肢はボルハ・イグレシアス→ウィリアン・ジョゼの交代。もう少し引っ張れそうだったがスパッと替えた。
アトレティコはモラタ、サウル、リーノを入れる。リーノはアトレティコで公式戦初出場。それぞれ同ポジションの交代で、メンフィス、ルマル、カラスコを下げた。メンフィスはおそらく納得していない内容。

モラタとサウルが入ったことで大外からシンプルに放り込み始めるアトレティコ。セカンドボール回収と再度の配球をデ・パウルとバリオスで担当する形で一気に押し込んでいく。なんとなくクーリングブレイクで勢いを削がれた感があり、このタイミングでベティスはイスコとルイバルを下げてロドリとフアン・クルスのカンテラコンビを入れた。トランジションバトルとカウンター合戦を受け入れる構えだが、それはアトレティコとしても不利なわけではない。最後の交代でグアルダードを入れてバランス調整役&ロングボール配球役を入れるのも開幕戦と同じ。開幕戦の決勝点はそれ以降に生まれている。

アトレティコは押し込むとエルモソが大外を上がって後方に2枚(サヴィッチ&ヴィツェル)しか残さない方針。じゃあ左はエルモソよりハビ・ガランの方がいいのかなという様子。交代枠がそこまで余っていればだが。あとはハビ・ガランのネガトラ貢献をシメオネがどのように評価しているかにもよる。実際の選択肢はデ・パウル→リケルメだった。4-4-2のような配置にしたが、「後方を2枚しか残さなくていいし、アスピリクエタorエルモソがリスクヘッジしてもいいよ」という編成だったのでこれはこれで。個人的には現実的な手順だったように思う。
そもそもコレアがいればグリーズマン→コレアの交代が優先されるわけで。4-4-2にすることの意義よりも終盤のスクランブルで配置を複数回変えることのテストが先立っていたように思う。アスピリクエタって便利だね。が改めて目立った交代策であり、あくまでも現実的。リーノは大外固定できるタイミングの方が能力を発揮しやすそうなのでやや被害を受けた感はあった。

ともに明確な決定機は訪れず、また0-0を拒絶するほどのリスクの負い方をすることなく、スコアが動くことはなかった。



●試合結果

2節を0-0のドローで終えた。アウェーのベティス戦、クリーンシートと考えれば悪くない結果だが開幕戦を見て期待値が上がっていた部分もあり、何より現状"無得点はないだろう"という甘読みをしていた自分がいる。いくつかのポイントを記しておく

・3CBの組み合わせ
ヴィツェルを中央に置いた。意図はわからないが、これだけふんだんに最終ラインの補強をしたシーズンで、考え得る一番軽い3人を並べるのは理解に苦しむ。それでも無失点という結果論は存在するが。アンカーの配球の仕事を軽くするためにヴィツェルが、そのためだけに彼がスタメンに選ばれたというならおれは認めない。そういう使い分けではなかったはず。

・コケの代役は
これに関してはもう信頼されていなかったバリオスが悪いと言っておこう。対人守備の強度だけ見てデ・パウルを置きたい気持ちはわかるが、彼は自分を基準に保持形を作ることができる選手ではない。W杯初戦の酷いサリーを見れば明らか。
それでもヴィツェルよりデ・パウルだった理由はわからない。ヴィツェルがCBの一番手だから?まさかね

・交代策あれこれ
この日もアスピリクエタの便利さが目立った。配置とゲームバランスを問わない万能性はこの先さらに強調されるだろう。守備能力はまあそうでしょうねという感じだが攻撃中の貢献がえげつない。モリーナの直線的な役割も恋しくなるね。

サウルはこの日も普段通りの役割。押し込む時間を作りたい時にサウルの能力を活かす術をシメオネは熟知しており、問題なく機能した。
リーノはまあややこしい仕事は周りが助けてくれると思いながら真っ直ぐゴールに向かえばいい。ワンツーを狙った突進でPA内にカオスが生まれた時に周囲が冷静でいれば。グリーズマンもメンフィスも冷静にマークを外してフリーになろうとしているだろう。リーノは真っ直ぐでいい。真っ直ぐゴールに向かうという資質から逃げなくていい。君はカラスコじゃない。
メンフィスはせっかくの先発起用を不意にした自身に満足していない。その気持ちがマイナスに作用しないようにするにはチームが勝つことだ。メンフィスを空回りさせてはいけない。モラタはクリアな頭でタスクを全うした。ラージョ戦のスタメンに相応しいのはモラタである。
リケルメは"WBじゃないよ"という甘やかしの中でどれだけ仕事ができたか。25番をつけてピッチに立つ以上もう特別扱いはない。ポジションを奪いたいならリケルメじゃないといけない理由をシメオネに教えてくれ。おれも知りたい。

・後半の改善を生んだパブロ・バリオス
後半は正気を取り戻した、と書いたが本当にそういう印象。よくなかった45分は"これは駄目だね"と記憶しておけば良い。もう見たくない。
バリオスはビルドアップではもちろん狭いエリアで前を向けるところとグリーズマンと縦にリンクできるところがずば抜けて良い。コケよりも良い。目の前にスペースがあったら一つドリブルで持ち運ぶ選択も確実で効果的だった。これは逆にサウルっぽい。
守備の対人対応に拘っているように見えたがそこに課題があるようにも見えず、本当にコケの後継者になるのかもしれない。IHの時よりプレー選択に余裕がある。複数の選択肢を頭に描けている印象があり、自分より前のエリアにいる人数が多い方がやりやすそう。そういう意味でもアンカー向きなのかもしれない。そもそも自分がボールを失うことなどこれっぽっちも想像していないタイプであり、選択肢が多ければ多いだけ良いのだろう。魅力的であり本当に不思議な選手だ。どこかのタイミングで矯正されそうなことが矯正されないままこのカテゴリまで来ているアンバランスな魅力。首を振るのではなくグリーズマンの位置だけ確認してボールにコンタクトする。失わない。正しい選択肢を選べる。

シメオネはアンカーにヴィツェルを第一に考え、この日はデ・パウルを起用した。シメオネにとってバリオスは"まだ早い"のかもしれないし、"アンカーではない"のかもしれない。ただおれはバリオスをアンカーだと思っている。IHで使うことはいつでもできるわけで。今このタイミングではコケの代わりをやらせてもいいのではないか。変な言い方だがバリオスに負荷がかかって負傷離脱したところでチームの致命傷になるわけでもない。使ってみたらいいじゃない。もしかしてこのチームの未来は、もう手の中にいるのかもしれないよ。

アトレティコの未来を背負う覚悟はあるか。おれはそれをシメオネに問うている。


8/20
ベニート・ビジャマリン
ベティス 0-0 アトレティコ


●ピックアップ選手

ルマル
良くも悪くも彼の特徴は出た。周囲の選手との距離感とタスクの分担で光る選手なので後半に自分のタスクがはっきりしてから明らかに良くなった。

バリオス
後半頭から。配置バランスの調整と球際の強調。ドリブルとパスで前進を促した。グリーズマンとの距離感を意識する立ち位置は相変わらず良い感じ。

リーノ
公式戦初登場。相変わらず攻撃中は右も左も関係なく駆け回る。シュートに至る選択肢が豊富で野心が見えた。

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