再現性を生み出す文脈 26節アトレティコvsセルタ(H) 2022.2.26

CL明けはホームでセルタ戦。やっていきましょう。

前回対戦はこちら

開幕戦で2-1の勝利。いきなりコレアの2発で勝った試合。

今季はここまで8勝8分9敗、29得点26失点で9位。最近は5戦負けなしと好調。
前節は最下位レバンテ戦。今一番わけわからん試合をする同士の戦いとなった。最近はタピアがお休みでアンカーポジションにベルトランが入った(クローズで出てきたが)。スタメン表を見ただけでファイアーフォーメーションとわかるのがセルタの良さ(面白さ)である。ベルトランは何回目のアンカー起用かわからないが、前半は真ん中付近をうろちょろ。後半になって明確にCB間に立つようになってなんとなく安定した。
攻撃は前5人の崩しで。おれのお気に入りのフランコ・セルビがスタメンで使われた。12月頃から固定させている模様。彼のアスパスっぽさが良く出ていた。セルタは両SBも含めて細かいパス交換は相変わらずめちゃくちゃに上手く、機能すれば手がつけられないがパルプンテの風味が強い。そしてハズレが多め。相手もレバンテなもんでエンタメ性は高かった。良い意味でも悪い意味でもラリーガ感。

セルタの攻撃は手詰まりになってアスパスがどうにか解決する!くらいの時の方が得点になる気がする。好き放題パスを回されて癪だから相手チームは圧力をかける。すると困ったセルタはアスパスの一発で抜けて点になっちゃった、みたいな。
アトレティコは慌てず守備ブロックを敷いて守っていきたいところ。心配しなくてもネガトラはラリーガで一番緩いのでどんな形であれ速攻はできる。落ち着いて引き込んで守っていきたい。


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
ヴルサリコ / サヴィッチ / ヒメネス / ヘイニウド / ロディ
コンドグビア / エレーラ / ジョレンテ
コレア / フェリックス

なんとユナイテッド戦と同じスタメン。
予習復習の意味合いが強そう。文脈。


・セルタ
ディトゥーロ
マージョ / アイドゥ / アラウホ / ハビ・ガラン
ベルトラン / デニス・スアレス / セルビ / ブライス・メンデス
アスパス / サンティ・ミナ

こちらも先週のレバンテ戦と同じ11人で。継続。

スタメン


●はじめに
継続して同じシステムで戦った試合だったので、今日はこのシステムの文脈を整理していくとする。
同じスタメンだったユナイテッド戦よりも4-4-2の風味が強かったこの日のアトレティコ。
文脈の話で言えば相手の両WGをどのくらい警戒しなければいけないかでロディの非保持の位置取りが決まるので、そんなに警戒する必要ないよ、という事でしょうかね。

結論から言うと
”ロディの位置取りが攻撃的だからといって保持の時間が長くなるわけではない”
“でも点を取ったのは2つともロディだった”
という非常に極端な試合になった。


●非保持
まずは非保持から、セルタの保持。

非保持

セルタはラリーガの中でもビルドはかなり上手い部類のクラブで、ルートも何も特に決まってなくてもとにかく全員が技術的に上手く、失わずに前進する。なんでもかんでもユナイテッドと比べて恐縮だがどう考えてもアイドゥ&アラウホのコンビの方がユナイテッドのCBより技術で上回る。両SBとベルトラン、デニス・スアレスも中盤でロストする事は期待できない。ちなみにGKディトゥーロの足下技術も高い。

ベルトランは左側へサリーする事が多く、そうなると”結局あなたのポジションはどこなの”と毎回よくわからなくなるデニス・スアレスが真ん中に落ちてくる。ちなみに非保持では4-4-2風のCHだったと思われる。彼はどこにいてもいいが、意外と彼の位置を基準にブライス・メンデスやセルビも配置が決まっているような気がしないでもない。気のせいかもしれない。

主にブライス・メンデスはハーフレーンに立ってデニス・スアレス&アスパスと近い位置にいるか大外を取ってマージョと縦関係になるかのどちらか。セルビはミナがど真ん中に立つのでその外側。上がってくるハビ・ガランとのコンビネーションを使う。という感じ。こうやって見ると整理されている。

非保持2

後方4枚でアトレティコの2トップを外す保持。
4人全員自分でボールを持って前進できるのでアトレティコはどうにも対応が難しくなる。この場面ではデニス・スアレスの配置でズラしてCBのアイドゥが前進。右SBのマージョが高い位置を取ってロディが出られない。ブライス・メンデスはボールと同レーンでパスを引き出す。前向きにもなれるし、彼のキック精度で逆大外のハビ・ガランを使うサイドチェンジも蹴れる。ブライス・メンデスの対応にヘイニウドが前に出てくればアスパスは裏抜け。これはこのチームの得意な形になる。マージョ、ブライス・メンデス、アスパスのトライアングルの連携はかなり熟成されており、危険な存在。


・前プレのスイッチの問題点
逆サイドもそうだが、SBマージョが低い位置でボールを受け取る動きには容赦なくプレス。ロディは基本的にマージョの立ち位置で自分のタスクが決まる守備だった。

前プレ

セルタはセンターサークル付近でボールを引き出すMFがいないので、ここでハメられると厳しい。その意識があったのか、ロディはかなり積極的にここを狙っていた。狙いすぎていた。
前段で書いたが、限定しすぎるとセルタはアスパスの一発を使ってきて逆に危険だったりする。悩ましいところ。


実際にピンチになった場面。

ロディ1

左側に人数がかかっていたセルタがサイドを変える。ロディはマージョまでボールが出てくると思って早めに、強めに近づいたが、その手前のアイドゥにボールが出た。狙ってるのバレてたなという。

ロディ2

ロディが4-4プレスから外れてギャップがガラ空き。大外から内へ動いたメンデスが受ける。アスパスが外へ抜ける。メンデスの横パスを受けようとしたデニス・スアレスがそのまま外側へ長距離ランニング。彼は本当に神出鬼没だ。セルタはサポートの連続で前進していくのが非常に上手い。これで配置が悪くなってネガトラの弱点にもなるが。

ロディ3

メンデスがアスパスからリターンをもらってデニス・スアレスを使って決定機。最後はマイナスで待っていたセルビに合わせた。そもそもCBのヒメネスがこんなに外側まで付き合わされてる時点で失敗の対応である。最後マイナスを狙われる形も準備されていた感があった。


これ、相手SBへのプレスを意識的に利用される、という場面があるとしたら危ういな、という場面。ちょっとロディが前進するスイッチはしっかり整理したいね。

セルタはボールロスト時の配置は何も考えておらず、基本的にぐちゃぐちゃになっているが取られたら皆ですぐ切り替えようね、ができている。割と。前にどこかで書いたが結局セルタの監督の仕事っていうのは”即時奪回のやる気を出させる事”だったりする。コウデはよくやっている。ちゃんとした配置で攻めよう、とかやるとどうせ上手くいかないチームなのでこれでいい。
アトレティコは速攻ではユナイテッド戦同様、奪ったら右はジョレンテ、左はロディは抜け出そう、という設定だがあまり上手くいかない。


●保持
この日もエレーラとコンドグビアが近い位置に立って球出し。正確に、落ち着いてチームを前進させた。


・アトレティコの追加パターン
アトレティコの保持パターンは近戦とほぼ同じなのでやや割愛する。オサスナ戦で、

・右大外のヴルサリコの足下。ジョレンテは裏抜け
・左大外のカラスコ。個で打開。難しければやり直し

この2つ。あとはボールが入らなかったので形としては出てこなかったが
・フェリックスに縦パスを刺す
が多分あるはず。

と書いたが、そんな形を実行した。というかこの日は出来た。

保持

CHコンビが中盤で前を向ける。これに呼応してコレア&フェリックスがCBを引き連れて近寄る。外側の抜け出しを促進できるようにと、この2トップに求められている動きでしょう。よくできていた。


・グリーズマンとスアレス
終盤は選手を入れ替え、グリーズマンとスアレスの2トップに。
この2人に関しては”今のバランスの中でフェリックス、コレアと違う魅力を出せるか”がまずポイントになる。すでに2-0になってしまっていたこの日は特に何もなかった。両ワイド(特にフル出場が多いヴルサリコ)の機動力が落ちた時間帯に、この2トップで相手ゴールに迫るパターンを準備してほしいと思っているが、どうだろう。シメオネもそんな形があったらいいなと思っているはず。さらにCLではカラスコもいないわけで。
このシステムで突然序列の落ちたルマル、デ・パウル含め、能力はあるのに起用されていない選手達。選手本人の奮起に期待したい。


・ロディの2発の意味
今季まだ無得点だったロディの2発で勝った。良い時期を過ごしている。1対1の局面でロングボールを受けた時に何ができるかが課題。と頻りに言ってきたが、突然2得点で応えた。あとはシュートをチラつかせながらフェリックスを使う、などのパターンを準備できれば一つ階段を登れる。この2ゴールは同じシステムを継続した最大の収穫だ。


●試合結果
2-0の勝利。36.9%の保持で危なげなく勝ち切った。ラリーガでは2戦連続クリーンシート、と思って確認したらなんと今季初だった。アトレティ、何回クリーンシートしてるかとか普段数えないからね。

オサスナ戦、ユナイテッド戦から続く文脈で戦ったこの試合。この日は

・左大外のロディのゴールが生まれた
・CHが前向きの守備で引っかけられなくても無失点で終えた

というプラス要素を生んだ。一方で

・両ワイドの前プレのスタートタイミング
・交代選手がどんなメリットを生めるのか

という課題も。ここはシメオネの匙加減が重要になる。
同じシステムで戦いながら目に見えるプラス要素を重ねて、また出てきた課題を潰していく。そんな日々を過ごせている事がシンプルに嬉しい。何故なら、年末の記事でこんな事を書いたからだ。

・再現性のありそうな得点が多いのに二度と再現されない
これは感覚の話で恐縮だが、今季のアトレティコの得点は再現性のありそうな得点が多い。ように感じる。良いゴールだね、と思う得点が多い。
が、同じ形からのゴールが生まれるのをほぼ見ない。これは課題というか不思議なところだ。日替わりのシステムになっている事の弊害だと思われる。ジョレンテシステム以外にも、困った時に頼れる形は作っていきたいところ。それこそ先季はスアレスが何とかしてくれていた箇所だ。頼れる形を探したい

アトレティコ・マドリー冬の通信簿2021より
やっと狙った形を全員で共有してプレーしている実感を感じる。その中心がなんと、ずっと不遇だったエクトル・エレーラだった。彼がいなければ実現しない形が、チームに再現性をもたらしている。サッカーって、こんなにも面白いんだなあ。そんな試合をレビューできて幸せだ。

勝利という結果が出てるという意味で、この”エクトル・エレーラシステム”の練度を高めている事の価値はある。少なくともCL圏内に向けて来週のベティスとの6ポインター、さらにCL2ndレグまで、という短いスパンで見れば最善の選択ができているのではないか。そこまで勝ち切れれば、その後の事はその後考えたらいい。この積み重ねに、グリーズマンとスアレスが絡んでくる事。アトレティコは進んでいく。


2/26
ワンダ・メトロポリターノ
アトレティコ 2-0 セルタ
得点者
【アトレティコ】’36 60 ロディ


●ピックアッププレー
ロディの先制ゴールを。

画像8

ユナイテッド戦でやっていた事と全く同じ。

保持3

※ユナイテッド戦の図

この日の場面でも、フェリックスが間で引き出そうとする動きで大外のアイソレーションを使う。これぞ再現性、と言いたくなるほどにリピートしている形。ニアの狭いコースを狙って見事に得点。
実は開始1分にもほぼ同じ形があった。

画像10

ポジトラで相手のマークを振り切ってフリーになったエレーラから精度の高いボールが出る。間で顔を出したのはジョレンテ。フェリックスはファーに構えてSBのマージョを捕まえている。ゴールシーンに比べるとやや相手の最終ラインが低く振り切れなかったが、PA内で2対2の場面を迎えた。

画像11

この形はもう少し突き詰めたい。

ロディはブラジル人選手らしいというか、背後から飛んでくるロングボールのコントロールがとんでもなく上手い。その後の選択が良くなくノッキングする事が多いが、この試合では2得点。2点目も同じくコンドグビアからの配球で似た形だったが、少しセルタの対応が悪すぎた。シュートは上手かったね


●ピックアップ選手
ロディ
2ゴールで文句なしのMOM。彼が攻撃で生きる、生きると相手が思っているだけでこのシステムは進化する。その意味だけを取ってもこの試合の意義は大きい。

エレーラ
この日も攻撃は彼を中心に。ユナイテッド戦ほど前プレがハマらず、後方からの構築が増えた。安定したパフォーマンスは変わらなかった。

ヒメネス
5バックで構えるより4バック時の方が頭がクリアに見える。保持では今よりさらにサヴィッチとヘイニウドに縦パスを出すタスクに集中させてあげられるような存在感に期待したい。

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