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may the "4-4-2" be with you. 22節 アトレティコvsアトレティック(H) 2023.2.19

押忍。アトレティック戦。
前回対戦はこちら

バルベルデ就任で開幕から躍動しているグッドチームのアトレティック。先季のベースになった4-4-2の守備組織に魅力的な攻撃パターンを組み込む4-1-2-3で戦っている。そんなアトレティックのサッカーの分析記事はこちら

W杯以降は5試合勝ち無しとペースを落としたがその後4-1、2-1で勝ってここに来た。ラリーガの連続出場記録が残念ながら途切れてしまったイニャキ・ウィリアムズも復帰している。ここからは現実的にはEL出場圏内へのチャレンジとなる。


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
モリーナ / ヒメネス / エルモソ / ヘイニウド
コケ / デ・パウル / ジョレンテ / カラスコ
グリーズマン / コレア

サヴィッチの出場停止でヒメネスが久しぶりに出場。累積リーチのモリーナ&ヘイニウドはスタメン。定まらないでいた左サイドはついにカラスコが1/8のバルサ戦以来のスタメン復帰となる。

・アトレティック
アギレサバラ
デ・マルコス / ビビアン / ジェライ / ユーリ
ダニ・ガルシア / ベスガ / サンセ/ ムニアイン
ニコ・ウィリアムズ / イニャキ・ウィリアムズ

GKは今季はじめてウナイ・シモンではなくアギレサバラ。ちなみにおれはアギレサバラ大好き。シモンは前節ビビアンに頭を蹴られていたがその影響?
左SBはレクエではなくユーリ。ベレンゲルを使わずに中盤にダニ・ガルシアとベスガを併用する。イニャキはスタメン復帰。


アトレティコホームの試合だが、アトレティック・クルブの125周年のお祝いでアトレティコは3rdユニフォームみかん色、アトレティックがホームユニフォーム。リスペクト!



●前半
場内も静まり返り、なんだか穏やかな雰囲気で試合開始。

前半の展開を決めたのはやはり、アトレティックの中盤の配員。普段はベスガがピボーテを務めることが多いがこの日は明確にダニ・ガルシアとの2CHで試合に入った。狙いは知らんが。

アトレティコの保持。この日は前節の後半同様にデ・パウルが左。コケは右。

よく考えると相手のボールの進め方に関わらずエルモソの前のエリアに対人で張り切れるデ・パウルを置くことのメリットは多そう。もっと早くやっても良かったと思うけど。
そしてこの日もデ・パウルのおかげでヘイニウドが出し所に困る機会を減らすことができていた。"ビルド時のヘイニウドの選択肢"なんて気にする余裕がないまま一年近く経過していたと考えると、本当に悩ましい時期を過ごしていた。やっとテコ入れできましたね。
ヘイニウドの選択肢はカラスコに当てるかデ・パウルに任せる。この2つの選択肢を繰り返すことでライン間のグリーズマンにクリーンな縦パスが入ったらいいね、という。概ね期待通りに機能していた。アトレティックの非保持は4-4-2で構えているのか4-2-3-1なのか微妙に定まらず、サンセの役割が不明瞭。4-2-3-1の3の真ん中でコケに張り付いたところであまり意味はなく、4-4-2でエルモソに対面したところでデ・パウルに圧力が掛からなかったので、ここはバルベルデも対応箇所。

この日はカラスコがスタメンに入ったこともあり、序盤から左サイドを擦ったアトレティコ。グリーズマン&デ・パウルがサポートしてくれるという贅沢設計で押し込んだが得点には至らなかった。この日はアトレティックの最終ライン、デ・マルコスとビビアンの対人性能が全面に出てカラスコとはいえ苦労。デ・マルコスは今季、第二の春を迎えている印象。ハイパフォーマンスだった。アトレティコからするとせっかくビビアンを大外まで釣り出せるのならそのスペースをどうたらこうたらする形はもうちょい思案しても良いかもね。37分にコレアも関わってカラスコが裏を取ってこの前半最大の決定機を作っている。

そしてこの日のアトレティコは即時奪回も当社比で割と機能した。この中盤のメンツで機能しなかったらしんどいが。なんとなくこの配置でできることがピッチ内でも整理できたのかなという前半である。スピードのあるアトレティック相手に前向きの再奪回を繰り返すのはけっこうストレスの掛かる戦法だったが良くやった。後ろは怖かったが強気にチャレンジできており、カウンターを食らったのはボールが出たか出てないかで微妙に揉めた41分のシーンのみ。収支プラスの取り組みであった。よくできました。

オブラクからの配球も安定。モリーナはこのボールを足下で受け取る約束事があるようでスローを呼び込んだ。まあこの辺はチャレンジです。やってみたことを評価する箇所。よかったです。あとオブラクは以前からサイドバックくらいまでダイレクトで蹴っ飛ばすのは普通に上手い。トラップすると怪しいが。

非保持は4-4-2でシンプルに。ピボーテをコケが掴みに行く狙いは見られたがベスガとダニ・ガルシアどっちが出し手やねんを捉えきれずに前プレは控え目。

それよりも相手の両SBから効果的に配球させなかったのが大きいかと。カラスコ&ジョレンテに睨まれたらオーバーラップしにくいよね。
トップにイニャキが戻ってきたこともあり、サイドへ流れるイニャキへ良い配球もいくつかあった。

このチームはCBを大外に連れ出すのが上手い。特にアトレティコはエルモソが連れ出された時の周りのサポートはチーム全体で共有すべき対応だが、17分に思いっきりエルモソが連れ出された時にヘイニウドが高速カバーしていて問題なさそうだった。これもよくやれています。

けっこうシュートは打たれていたがエリア外からのものが多く、むしろエリア外の被シュートでオブラクの仕事が増えるくらいがいいんじゃないかとどこかの試合で書いたが、この日も特に危なげはなかった。


●前半終了
穏やかな45分。チャンスもピンチも少なめであったが、やることをきっちりやった結果、試合が落ち着いてしまった感。これでカラスコがぶち抜ければ簡単な試合になったが大外の対人の良さはアトレティック守備の強み。そしてそれはアトレティコも同じことで、両サイドからドリブルで攻略されるような気配すらない守り方ができていた。モリーナ&ヘイニウドはイエローには気をつけつつ。ヘイニウドはウィリアムズ兄弟と対面しながらイエローは絶対もらうな、そして90分やれというタスクを当たり前のようにやってる感覚のバグが凄い。

どちらも一撃のカウンターを持っているチームでもあるのでトランジションは両者共にストレスの掛かる箇所で、ピッチ中央の球際のぶつかり合いでカードも出ていた。同じ展開は後半も続きそう。


●後半
両者交代無しで後半。
まず開始からアトレティコが圧倒的にボールを握った。この展開は結局試合終了まで続くこととなったが、アトレティックは結局54分にニコが背後を取って抜け出した場面以外でほぼチャンスメイクできなかった。ここまで来るとクオリティなのかなと思ってしまうが、あまりにも劣勢すぎてベレンゲルの投入も失点後まで決断できなかった。やや弱気だったかもしれないが、側から見てもあまり勝てる試合という感じはなかったので仕方ないのかもしれない。ただ、むしろ両CBがイエローもらったあたりでもっと分かりやすく割り切っても良かった気さえする。

一方のアトレティコは後半もカラスコ側からの侵入が多め。セカンドボールを拾い続けて後方は2CB+2CHで圧倒的にボールを握り、危なげなくハーフコートで試合を続けた。

あとは得点の手段。カラスコは引き続き単独突破はできず、右サイドはポケットを取りきれない。この日はコレアが中央レーンに立つタスクが優先されたことも影響していた。グリーズマンは周辺にサポートがあまりなく、侵入の手立てを持てない。
前半同様、50分にもカラスコに決定機が来たがアギレサバラが好セーブ。ぜひアトレティコに来ないか。

■交代の手立て
さて60分付近からは普段通り、シメオネの選手交代策。具体的には上記の攻撃手段の中から、グリーズマンの周辺のサポートを用意することを最優先していった。
まずは59分にコレア、デ・パウル→モラタ、バリオスの2枚替え。どちらも同ポジションで交代した。
コレア→モラタは中央タスクの選手を入れ替え。ある種右サイドからの突破をやめる方針。そして、デ・パウル→バリオスは面白かった。

・デ・パウルの起用法
デ・パウルの起用法の整理、というのは前節でも書いたところで、これまでの発想だったら"敵陣に押し込めるならデ・パウル"だったはず。しかしW杯後、デ・パウルの良さが出ているのはネガトラの回収と自陣からのビルドアップで、この後半はどちらも重要性が落ちた。あまりにもボールを握れていたのでどちらも要求されない展開になっていった。もう押し込めていたし、ネガトラよりも打開。
ここで敵陣で打開のアイディアを出すならバリオス。という選択肢が出たのは面白いし、チームを一つ先へ進める手段になりそうだ。バリオスはまずグリーズマンに近づくこと。それと後方からボールを受け取ること、カラスコにボールを届けることをメインのタスクとしてピッチに投入されている。時間を追う毎に保持形が安定していく最近のアトレティコのやり方だとスタートで使うよりも途中からの方が仕事が明確になるのかもしれない。前節は意味がわからんまま45分で交代だったし。

73分にメンフィスを投入。交代はカラスコで、モラタと2トップで並び、グリーズマンを左サイドに動かした。最近のシメオネの発想のトレンドなのかもしれないが、セルタ戦でハビ・ガランを突破することを諦めたことと同様、この試合ではカラスコがデ・マルコスを突破することを諦めた形になる。その選択の良し悪しはまだ様子を見たいが、アトレティコの得点はこの"諦め"から生まれている。

この選手交代でアトレティコは左ハーフスペース付近の狭いエリアにバリオス、グリーズマン、メンフィスが入り込み、後方からヘイニウド、エルモソが縦パスを差し込み真横でコケがサポートする密集を作る。ジョレンテは明らかに不満顔である。ちなみに彼はこの日も効果的な侵入ルートを見つけられずにいる。たぶん彼自身、今が成長してる時なんじゃないかね。

73分、左ハーフスペースの密集で、メンフィスがビビアンを引き連れて近寄ってきたタイミングでグリーズマンが速い縦パスをメンフィスに当て、そのまま一気に入れ替わって背後を取った。フィニッシュは冷静そのもの。最近シュートがあまり枠に飛んでいなかったが、そんなこと関係ない精度のシュートを打ち込んだ。先制。

アトレティックは前線にグルセタとラウル・ガルシアを並べ、ベレンゲルを投入してどうにかPA内で勝負する形を作りたかったが、この日のアトレティコは堅かった。一切の隙を見せずに守り切り、2戦連続の1-0勝利を収めた。


●試合結果
16節バルサ戦の敗戦以降は4勝2分。無得点はなく、勝った4試合は全てクリーンシート。ここが頂点ということはもちろんないが、一度は手放したチームのバランスの再構築が進んでいる実感のある勝利となった。特にこの日は終始危なげなく、負けることはまずないだろうという展開の中で敵陣突破方法を模索する選手交代が行えた。これだけ有機的にピッチを支配すればそりゃ勝てる。

この日の守備で良かった点は2つ。エルモソ周辺の認識と、ネガティブトランジション。
まずはエルモソ周辺。この日も実際イニャキのランニングなどでポケット付近までボールを進められる機会はあり、後半のニコのシュートチャンスも多少怪しい振り切られ方をしている。ただ、最近は絶対に使われちゃ駄目なエリアを周囲の味方と共有できている雰囲気があり、突破されるにしても"そっち方向になら突破されてもいいよ"という雰囲気で守れている。だから周囲も慌てないし、どっちに抜かれるかだけ事前にわかっていればヘイニウドとヒメネスが大抵はなんとかする。マドリー戦でなんとかなるかはわからんが、大抵はなんとかなっている。エルモソはこの日も配球が非常に良く、特に相手の中盤の頭を越すロブパスをグリーズマンに何度も届けていた。ゴールシーンのメンフィスに通したボールもそう。どう見ても狙って蹴っているがどういう視野をしているんだろうか。最初適当に蹴ってると思ってた。

もう一つはネガティブトランジション。おそらくだがデ・パウルが左に移動したことで全体の配置バランスが格段に良くなり、セカンドボールの反応がとんでもなく良くなった。前節はセルタにあれだけ拾われていたのに。これもセルタ戦の積み重ねの先にあることならば誇らしい部分で、マドリー戦も継続したい。バルベルデvsデ・パウルのセカンドボール飛び付きバトル。無傷で終われる予感はないが、上回れば面白い。

前半は0-0で通過して後半選手交代で試合を決めにいく。別にこの形が美しいとは思わないが、今のアトレティコが上手く循環している理由はまず"失点はしません"という環境を作った後に"あとはどうやって点を取るか"という選手交代ができていることにあるだろう。だからジョレンテとモリーナは得点に絡まなくてもなるべくピッチに残ってもらい、左サイドをいじってラッシュするという発想になっていると思われる。その左サイドはいじるとしてもエルモソの配球をピッチに残したいからヘイニウドは下げられないなど。あとはバリオスを投入するなら気が利くコケはピッチに残っていてほしいとか、この条件をクリアしていれば好きに入れ替えて攻撃シフトするぞという約束事が見られる。

シンプルに良い積み重ねができている。そして面白いところでマドリーとぶつかる。きっとまた課題が見つかり、また足りないところを晒される試合になる。それでいい。改善を積み重ねる先にしか望む結果はない。過去3シーズンでは見られなかったレベルでわかりやすく改善が見られる時期である。見てても書いてても面白い。正直今さらマドリーに負けたところでアトレティコはたいして失うものもない。思いっきりぶつかるのみ。

アトレティックの話。この試合だけを見れば"プランBは?"で終わってしまう話だが、戦力補強の難しいチーム事情を考えればまずは心中できるプランAを確立することである。このチームはもうそれができているし、それを信じて欧州圏にタッチできてもいる。ムニアインとサンセの負担はあまりにも大きいかもしれないが、チャレンジを続けてほしい。アギレサバラをください。


2/19
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 1-0 アトレティック
得点者
【アトレティコ】'74 グリーズマン


●ピックアップ選手
グリーズマン
今季7点目は試合を決める一撃。時間が経つ毎にボールタッチの感覚が良くなりバリオス、メンフィスの投入で彼の時間が来た。見事。

ヘイニウド
ニコ、イニャキがすっ飛んでくる難しいエリアでエルモソを助けながら完封。イエローを避けるタスクも完遂した。どの試合も素晴らしいがこの日は特別素晴らしいパフォーマンス。

バリオス
ボール保持が確定した時間帯に"デ・パウルの代わりに"投入される信頼感にドキドキした。現状はボールの経由するルートが明らかになった展開で出てきた方が本人はやりやすそう。今後はグリーズマンとリンクできなさそうな展開なら出さない、という判断もあるのかも。

メンフィス
この日もボールタッチが良く狭いエリアで縦パスを引き出してチームを押し進めた。グリーズマンとモラタに時間とスペースを与えるボールキープは面白い。ジョレンテにはもっと雑にパスを出してもいいと思う

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