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保持してナンボ。【EURO2024 グループB1節】イタリアvsアルバニア 2024.6.15

さてアルバニア。馴染みがないような、たまに聞くような、なのでちょっとだけ調べました。

場所はここ

東欧の火薬庫に近く、それでいてオスマン帝国にも近いという絶妙な距離感にある国。その影響で欧州の中では断トツでイスラム教徒の割合が多い国でもあります。約60%くらい。割と緩やかな世俗的ムスリムが多い。ところで国旗がどことなくMARVELのハイドラのロゴに似ていて悪役感がありますね。

ハイドラ(ヒドラ)のロゴ

戦後はソ連に近寄って社会主義色が強くなったりとここでも独自の動きをしている不思議な国である。その後は親中国を強めてクソ貧乏になるなどハズレを引き続けた末、1990年代に国内でネズミ講が死ぬほど流行って国民の1/3が無一文になり経済が破綻する、など調べたら山ほど変な話が出てきそうな国。まともになろうとしたところで欧州金融危機とタイミングが重なるなど本当に不憫。ちなみにEU未加盟です。

サッカーキングのイタリア班の動画にもちょっと話が出てくるが地理的にはイタリアの踵辺りに非常に近く、セリエAでプレーする選手も多い。インテルのクリスティアン・アスラニ、アタランタのベラト・ジムシティ、ラツィオのエルセイド・ヒサイなど。23-24シーズンは13選手がプレーしている。これで初戦イタリアと試合をするのは運命だろ。

13選手ってどれくらいかというとラリーガでプレーするポルトガル人が13人。ウルグアイ人が14人なのでそんな感じ。というかラリーガにポルトガル人て30人くらいいそうじゃないか?(アルゼンチン人が28人)

代表チームはW杯出場経験はなく、カタール大会の欧州予選もポット4でイングランド、ポーランドと同組になり、詰み。

頑張ったが

EUROは2016年大会に初出場し、ルーマニアから勝利を上げるなど活躍したが、グループステージ敗退。今回はそれ以来の出場となる。当時のメンバーからはヒサイとアイエティ、GKベリシャ、アブラシが今回も選ばれている。予選はグループEを首位通過。ポーランドにW杯予選のリベンジも果たした。
監督もイタリア人が務める事が多かったが、W杯予選後にバルサとかにいたあのシウビーニョが就任。晩年シティに所属した時に監督だったマンチーニのアシスタントコーチなどをやっていたらしいので、彼もイタリアチックなのかもしれない。





●スタメン

・イタリア
ドンナルンマ
ディ・ロレンツォ / バストーニ / カラフィオーリ / ディマルコ
ジョルジーニョ / バレッラ / フラッテージ / ペッレグリーニ
キエーザ / スカマッカ

ディ・ロレンツォをHVで使う形。最近の親善試合でもやっていたらしい。

・アルバニア
ストラコシャ
ヒサイ / ジムシティ / アイエティ / ミタイ
ラマダニ / アスラニ / バイラミ
アサニ / セフェリ / ブロヤ

おそらくベストメンバー。最前線はチェルシーだかフルハムだかのブロヤ。



●前半

23秒でディマルコのスローインがバイラミに渡ってアルバニアが先制し、試合が始まる。まだイタリアは誰もボールを触っていない。スタジアムは大騒ぎだったが、これがアルバニアを応援する声だったのか何なのかはよくわからなかった。
思いもよらぬ立ち上がりとなったがイタリアは非常に落ち着いており、そのまま自然に試合に入っていく。緊張が解けてよかったのかも。
むしろペースを掴めていなかったのは先制したアルバニアの方で、イタリアの思い切りの良い再奪回プレスの矢印に驚いて蹴っ飛ばす選択が増えていく。トップのブロヤはプレミアリーグっぽい有無を言わさぬボールキープと推進力を持っており、ここに僅かな可能性は感じさせたがイタリアが問題なくボールを握っていく。

イタリアの保持配置は後方3-2。スカマッカの左右にフラッテージとペッレグリーニが入る。この左右差は後ほど。フラッテージはシンプルにクラブよりも得意なタスクが与えられている。
最終ラインはディ・ロレンツォがHVタスクなのは面白い。バストーニとカラフィオーリがドリブルでずんずん進んでいくのでディ・ロレンツォはむしろ後方待機を担当。ジョルジーニョの隣に立ってCHを前向きにさせる仕事が上手かった。
アルバニアは理想を言えば4-4-2で守りたい気持ちで試合に入ったがこの配置だとどこもかしこも人が足らず、とりあえずかなり幅広く立つディ・ロレンツォとカラフィオーリをどうすんねんという悩みがあり、ブロヤとラマダニの2人でバストーニ、ジョルジーニョ、バレッラの配球を止めろというのも無理な話。色々無理。
出し手を止められないのならば一旦撤退、という事で、キレキレのドリブルを披露していたキエーザのところに左WGのセフェリが落ちていく。このサイドはディ・ロレンツォがドリブルで突っ掛けてきてキエーザが熊でも殺すのかっていう殺気で突進してきたしフラッテージが2.5人分くらいの運動量があって大変だった。

イタリアのとんでもなかったのは後ろの5枚全員、特にジョルジーニョとバレッラの大外までの配球の精度で、アルバニアは5枚で最終ラインを作っているのにディマルコに出てくるボールがクリーンに通り続けて押し込まれていく。そして獲得したCKから11分にバストーニがフリーで合わせて早速同点。その後もディマルコのマークをどうするのか、アルバニアの右サイドでヒサイとアサニが何度かコミュニケーションを取っており、一度アサニが落ちてきてディマルコのマークを担当した瞬間にスカマッカのシュートの跳ね返りが見事にどフリーで待っていたバレッラの前に転がってしまい、2点目が入る。

アサニは踏んだり蹴ったり

結局16分で逆転を許し、アルバニアは5-4-1になったり6-3-1になったりしながら押し込まれ続け、再奪回もとんでもないスピードで突っ込んでくるフラッテージに拾われ続けて防戦一方。なかなか展開を変える糸口がなくハーフコートで試合を続けた。やっと次にイタリアゴール前まで迫ったのは44分のピッチ中央付近からのセットプレーまで守備の時間が続いた。久しぶりに訪れたイタリアのゴールキックにプレスを掛けようにもディマルコとバレッラを中心とした前進を捕まえろというのはなかなか難しいミッション。その能力でCLを獲ろうとしていたプレス回避をいきなり捕まえるというのも無理な話だった。


●イタリアの特徴

イタリアの特徴の話。

・前進

現状この大会で一番ボールを握れるチームになる可能性がある。最終ラインを構成するディ・ロレンツォ、バストーニ、カラフィオーリの3枚は正直名前を見ただけでもプレスを掛けてボールを奪いにいく気力がなくなるレベルであり、ジョルジーニョとバレッラに前を向かせたら何が起こるかわからない。ビルドアップの逃げ道としてディマルコは現状世界最強クラスであり、追いかけてボールを奪うのはかなり厳しい。

・IHのコンビネーション

フラッテージとペッレグリーニは、それぞれの特徴で周囲とのコンビネーションを構築した。右のフラッテージはハーフスペースをスタートポジションとし、ジョルジーニョ&ディ・ロレンツォに近づいて彼らの仕事をサポートする事を強く意識した。それでいながらラストサードでは立ち位置上スカマッカとリンクする事とキエーザとリンクする事を両方意識し、主に前半のうちは左SBのミタイの注意を自分に引き寄せた。

これでキエーザに1vs1を選択させながらスカマッカにボールが入るタイミングで自分がポケットを狙って突進していった。本当に多彩だがどのプレーも澱みなくやれる上、このポジションでプレーする時の最大の武器は再奪回プレスだったりする。戦術兵器である。
自分にミタイがついてくる事を確認してディ・ロレンツォ&キエーザでセフェリに対して2vs1の局面を用意する事も強くイメージできており、崩しのアイディアをいくつも提供した。
左はペッレグリーニ。彼は自分をトライアングルの頂点に置くのが上手く、味方に前向きでスペースを使わせるのが上手かった。

特に、ディマルコの後方に移動してボールを引き出す動きを好み、フリーでボールに触りながらバレッラとカラフィオーリにハーフスペースを使わせるのが上手かった。視野が広いプレーメーカーだなという印象。ポジトラの中心キャラでもあり、魔法が使えそうな雰囲気も持った選手。背が高いのでスカマッカの向こう側でクロスの的になれるのも助かる。ディ・ロレンツォから良いアーリークロスが入ってきていた。前半ロスタイムにはキエーザのクロスに飛び込む決定機もあった。

・ペッレグリーニの守備

気になったのは、数少ない撤退局面で4-4-2ブロックを作る時にペッレグリーニが左SHの位置に入る事。そもそもやりたくなさそうな気配が見え見えだったが立ち位置が良いという印象は皆無だった。この辺りはもう少し守備の時間が長い試合で確認したい。

・ディ・ロレンツォのオールラウンドタスク

今世界一の右SBだと思っているが、HVで出てきた。そして上手い。よく考えればHVでビルドアップを担当させれば上手いに決まっているし、ジョルジーニョと立ち位置が近いのもやばい。バストーニとカラフィオーリに前に進ませて自身は最後方でやり直しを担当するのも上手かった。フラッテージやスカマッカに縦パスをぶつけてゴール前に飛び込んでいく得意の形も披露。2点目はまさにこの形だった。また、ハーフコート押し込みが煮詰まってくるとキエーザの外側から駆け上がる形も披露して相手選手の悲鳴が聞こえそうだった。


●前半終了

アルバニアがEURO史上最速得点で先制したがイタリアが前半のうちに逆転。アルバニアは結局45分間自陣に閉じ込められる展開となった。アルバニアの一番しんどかったのは単純にWGの質である。ディ・ロレンツォ&ディマルコ相手に突破しろよとまでは言えないが流石にノーパワーすぎる。裏に蹴っ飛ばされたら危険だぞという牙すら見せられなかったのは厳しかった。ではMFの3人の工夫を使ってどうにか敵陣に進むしかないですね、というのが後半戦のアンサーであろう。


●後半

アルバニアはカウンターを全面的に諦めるところからスタート。あれだけやられた前半だったがよく考えたらまだ一点差である。ビルドアップに傾倒していく。

2CBにMF3人が近づいてくる。SBのミタイも高い位置には出ていかずサポートポジションを意識。人数を掛けて前進する形を狙う。ところでこのメンツで縦の推進力を出せるのは10番のバイラミであり、彼を中心にボールを進めるのが基本形だが、非保持ではブロヤと一緒に最前線のプレスを担当し、ブロック守備に戻ってポジトラの1stレシーバーになるなど過労死目前のタスク量であった。徐々にアスラニとラマダニが最終ラインで配球を担当し始めると右SBヒサイが高い位置を取り右WGアサニがブロヤに近づいて何となくやりたい形が見え始めた。ちなみに左WGのセフェリはちょっと能力的に厳しそうだったが、後半に前がかりになり始めたチームで最終ラインに落ちる形をやめていたが左SBミタイが普通にキエーザを止めていた。最初からやれ。最初からセフェリはジョルジーニョorディ・ロレンツォに張り付いた方が有益だった感がある。

68分にセフェリに替わって出てきた26番のホッジャはクオリティはともかく縦に突破してやるぞという気持ちに満ちており左サイドの攻撃を活性化させた。だからと言ってバイラミのタスクが全然減らなかったのはポイント。90分にCBから背後一発で7番マナイが決定機を迎えるがこれを決められず、初戦を終える。



●試合結果

慌ただしかったがイタリアが2-1で初戦を制した。特にビルドアップの部分でかなり自信を持っており、列強相手でもボールを握れそうなクオリティを発揮した。崩しの手順も多々持っており、選手交代で得点を奪いにいく形もまだいくつか持っていそう。なかったらすまん。

アルバニアは、かなりバタついた前半、WGが最終ラインに入った守備形が結局どこまでベンチからのオーダーだったのかもいまいち不明である。イタリアの配置がどこまで予想できていたのかも判然としない。
その中でビルドアップから攻撃に転じようとした後半が真の姿であったと考える。とにかくWGにクオリティがなくどこかの局面を打開するのは結構難しそうなチームなのでとにかく保持で押し込み。得点手段はその後考えるという形がデフォルトになりそう。クロアチアとスペイン相手にそれをやるのはかなりしんどいと思うが。
この日の後半にそれなりに攻撃の形を作れたのも、イタリアが何故かミドルプレスに出てきた事が原因な気がする。イタリア側に撤退を嫌がる理由があったのかはわからないが。何はともあれ2戦目、クロアチアと生き残りを賭けた一戦となる。


6/15
ジグナル・イドゥナ・パルク
イタリア 2-1 アルバニア
得点者
【イタリア】’11 バストーニ ’16 バレッラ
【アルバニア】’1 バイラニ


●ピックアップ選手

フェデリコ・ディマルコ(イタリア)
開始早々衝撃のチョンボがあったが普段通りのパフォーマンス。GK前に蹴り込む速いクロスは絶品。

ジオバンニ・ディ・ロレンツォ(イタリア)
保持局面と再奪回でクオリティを出した。持ち合わせる武器を一個ずつ披露しながら余裕の活躍。

ニコロ・バレッラ(イタリア)
特にプレス回避局面で圧倒的能力を発揮し、さらにディマルコに届けるロングボールが素晴らしい。決勝点は綺麗なボレーシュート。

ダビデ・フラッテージ(イタリア)
ライン間タスクをやらせるのが一番良い。ガビみたいだった。

フェデリコ・キエーザ(イタリア)
スピードと切れ味。左右の足から強烈なシュートを打てて、ずっと自分の仕事に集中しているので味方の邪魔をする事がない。ギラギラしていた。

ネディム・バイラミ(アルバニア)
多くの荷物いを背負っているが報われてほしい。先制点決めたの忘れてた。

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