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loco por LaRojaスペイン代表の定点観測2023.06編

6月はネイションズリーグの決勝ラウンド。

●招集メンバー

GK
☆ウナイ・シモン(アトレティック)
ケパ・アリサバラガ(チェルシー)
ダビド・ラヤ(ブレントフォード)

DF
ダニ・カルバハル(マドリー)
☆ヘスス・ナバス(セビージャ)
アイメリク・ラポルト(マンチェスターシティ)
ダビド・ガルシア(オサスナ)
☆ロバン・ル・ノルマン(ソシエダ)
☆ジョルディ・アルバ(バルサ)
☆フアン・ベルナト(パリSG)

MF
ロドリ(マンチェスターシティ)
マルティン・スビメンディ(ソシエダ)
ファビアン・ルイス(パリSG)
ミケル・メリーノ(ソシエダ)
ガビ(バルサ)
☆セルヒオ・カナレス(ベティス)

FW
アルバロ・モラタ(アトレティコ)
ホセル(エスパニョール)
☆ロドリゴ(リーズ)
☆マルコ・アセンシオ(マドリー)
ニコ・ウィリアムズ(アトレティック)
ダニ・オルモ(ライプツィヒ)
ジェレミー・ピノ(ビジャレアル)

ベルナトが負傷離脱したことでラージョからマドリーへ移籍(復帰)が決まっている☆フラン・ガルシアが代表に初選出されている。それとダビド・ガルシアの怪我でナチョ(マドリー)が追加召集。

☆は前回3月は選外だった選手。
CBのル・ノルマンはようやくスペイン国籍を取得して初招集。たぶん必要な人材でしょう。エアバトラーいないので。
3月には最適解が見つからなかった両SBはカルバハル以外全員入れ替わった。3人とも今さら感のある選手になったのが特徴的。WGも引き続き探している様子。まあ”誰が選ばれてもおかしくない環境”を優先している雰囲気がある。


●イタリア戦 ○2-1

準決勝のイタリア戦。個人的にネイションズリーグ自体あんまりピンときていないので準決勝とは、という気持ち。モチベーションとかもよくわからん。

イタリア戦スタメン

GKは3月はケパだったがシモンに戻った。両SBは何年前やねんという組み合わせ。スペイン国籍を取得したル・ノルマンは初招集で初先発となった。
最前線はモラタで、ロドリゴも2021年11月14日のW杯予選スウェーデン戦以来、久しぶりの出場。

この両SBで、両WGは逆足ということで5レーンの埋め方は明確な様子。全然機能しなかったけど。あとはユニットのコンビネーションと、ガビがプラス1を作るという狙いが見える。ロドリの周辺タスクを担当するメリーノに注目していた。

3分にピノが先制ゴール。前プレでハメた。序盤からかなり強めに相手最終ラインまで圧力をかけて、両SBもWBまで出てくる形を選んだ。最後はGKが中盤に付けるボールをガビが狙えた。イタリアはこの3CBからのビルドアップをそもそもどこまで構築できているのか知らないが急造な雰囲気はあった。特にアチェルビ。

ガビの個人戦術

ちなみにイタリアも前プレを選択しており、試合のペースは序盤から速かった。しかも6分にはスペインもシモンが中盤に付けるボールを似たような形でロストしている。
スペインは当社比ビルドアップが得意なメンツでもなく、ル・ノルマンが周りの選手と一緒にプレーするのは初めて(メリーノは除く)という環境もあり、あとはイタリアの前向きの矢印がかなりはっきりとしており、ロドリとメリーノを捕まえる形を徹底。SBで余裕で詰まった。
じゃあロングボールでのキャンセルがどうか、というところでじゃあなんでガビやねんという話もあり。イタリアの前プレの選択自体は当たっていたのだと思う。
ただ、トーナメント戦で開始3分に先制されて追いつかなければならないなら明らかにベストなメンツではなく、先制された時点で前プレの狙いもくそもないかなという試合になってしまった。
と思いきやザニオーロがよくわからんけど蹴っ飛ばしてル・ノルマンの手に当たりPK。これをインモービレが決めて11分に同点とした。ここで試合が落ち着いて仕切り直し。

21分にフラッテージが裏抜け。ちなみにこのシーンに限らずダイナミックな展開に対してラポルトの対応がまあまあ酷かった。元々そんなにスピードがあるイメージはなかったけどここまで酷かったっけ。
前半の終盤にロドリゴとピノの位置を入れ替えていたが何の効果があるのかわからん

後半、スペインはロドリゴ→アセンシオを交代。イタリアも2枚替えてディマルコとダルミアンを入れたがたぶん配置は変わってなかった。と思う。スペインはアセンシオの投入で両サイドともに内外の配置が整理された。3月も選手交代で整理していた気がしたが、別に前半からやれるのでは?と毎回思っている。左でピノが大外を取ってアルバは内側。じゃあなぜアルバなのか、という感じだがその位置から決勝点を生んだので結果オーライ。右サイドはアセンシオが大外スタートから内へ侵入してくる形でライン間を活用。明確にイタリアを押し込めるようになり、スペインの時間を作っていった。その後、カナレスとファティもライン間で前向きになれる選手なのでここに続々選手を入れたのは意識的だったように思う。ファビアン・ルイスもそう。クロス爆撃が生きる内容だったら大外にニコだったのだろうが、この日はワイドにトライアングルを作る狙いがそれなりに機能した。
最終盤にモラタ→ホセルを替えたのはスタミナ的なものか、モラタがイライラしてたからか、2人とも使おうと最初から決めていたからだったか。最後の最後でそのホセルが決勝ゴールを決めたのは巡り合わせであり、彼の実力である。文句はない。

イタリアの選手交代そのものは指摘する立場にないのであまり触れないが、多分効果的ではなかった。ただ、ビルドアップが機能しなくなった後半にジョルジーニョを下げてクリスタンテに替えたところとかは理に適っていたと思う。でもまあバレッラとフラッテージを同時起用しておいてポジトラで全く優位がないのはどうなんだ。2人が速すぎるのか。もっとスペインの背後を狙う攻撃ができれば違う試合になっていたんじゃないか。お互いにシーズン終了直後感はあったなという感想


●クロアチア戦 ○0-0(PK5-4)

決勝。

クロアチア戦スタメン

例に倣ってクロアチアの前進をなかなか捕まえられない展開。スペインはガビがブロゾビッチを消しつつ、クロアチアは左SBのペリシッチがWGのような立ち位置になり、IHのコバチッチがボールを引き取りに落ちる。それとなく前進できてしまうのと、逆サイドへの大きい展開を使われると厄介。クロアチアはWGがあんまりWGじゃないのも特徴で、どの位置で捕まえたら良いかわかりにくい。ジョルディ・アルバのところにロングボールを入れてきたりクラマリッチは普通にヘディング強かったり、アーリークロスのファーにペリシッチが飛び込んできたりと相変わらず多彩な攻撃をしてくる。

スペインはイタリア戦同様に前プレを基本とするが、"捕まえられませんね"に基づいて守る。特に左WGのピノが相手CBまで寄せてこの日スタメンのファビアン・ルイスが全方向カバー。実は前プレを機能させようと思ったらペドリとガビの併用は難しいのでは、という配置。

保持フェーズ

保持はファビアン・ルイスがガビと並列に。押し込んで何が出来るか、なんて今さらスペイン代表がテーマにすることではないが、なんとなくこの日のメンツは誰がキーパスを提供するのか微妙にわからんメンツだった。WGがペナ角で相手SBに向かって仕掛けて2人目3人目が関与してポケット取り、みたいな形は前半は皆無だった。ピノも2人に見張られている状況。ライン間でファビアン・ルイスとガビが浮いている機会が割とあったがあまりタイミング良くボールは入らなかった。

後半。コンディション差もあるのかスペインがそれとなくボールを持ち始めるがアルバ側から進んでクロス、という形に夢はなかった。しかしガビは思ってるより前を向けなかったな。
シモンはビルドアップで無理することはなく、それなりに突っかかると蹴っていた。蹴るとあんまり競り勝てない。むしろクロアチアの方がプレスをGKからSBへのキックで外して前進みたいなことを上手くやっていた。

66分にファティとホセルin。もはやホセルの投入が点を取りに行く合図っぽいんだがモラタの役割とは一体。それとファティはボールを持つと違いを生める気配はあった。ピノはもうちょいオープンな試合の方がいいのかね。クロアチアは疲労からかライン間がぐだぐだになり始めていたのでファビアン・ルイスに替えてメリーノ。CBはル・ノルマンに替えてナチョ。終盤にラッシュを作るとダニ・オルモをようやく入れて試合を決めに行く。が、決めきれずに延長突入。クロアチアはこんな時期に2試合連続延長。休めモドリッチ。
延長戦は基本的にスペインがボールを握りながらクロアチアの我慢とそもそもの詰めの甘さで結局得点は生まれずPK戦突入、ウナイ・シモンが2つ止めて勝った。


●総括と気づき

スペイン代表は2戦とも勝ってネイションズリーグを制した。おめでとう。

3月とは違い、2戦通じてそれなりにメンバーを固定。ロドリやモラタ、ガビはきっと中心なんだろうと思いつつ、わざわざ召集した37歳のヘスス・ナバスを2戦とも使ったのは、フランス、クロアチアに共通するナバスだから使えるメリットが何かあったのか、そもそもスペイン最高の右SBはナバスであるという判断なのか。どちらでもなさそうに見えるのでよくわからなくなってくる。ピノも連続起用したが、特にクロアチア戦はユラノビッチを対人で上回るに至らず、ファティに替わってからチームでスペースを使い始めた。そもそもこのチームビルディングだとラストサードで違いを生む絶対条件にWGの対人突破は必須な雰囲気があり、その意味で方法は違えどアセンシオとファティが目立っていたのはそういうことだろうと思う。

また、ガビとモラタは必須なのかと思いきや、点を取りに行く流れで2人とも外されるのもポイントでしょう。ガビが悪いとは全く思わないが4-2-3-1風の配置のトップ下なんてバルサ下部にいて経験する機会はあるのか?全体的にまだ優先順位はよくわからんなという感想。

スペイン代表のイメージは長らく"バルサのような何か"だった気がする。デ・ラ・フエンテのスペイン代表はそこからは程遠いもので、程遠いものを作ろうという意欲も感じる。というかバルサのようなものはもう作れないよね、がスタート地点なのかもしれない。じゃあペドリを組み込むとどうなるんだろう、がわからないまま4試合見てきたことに個人的な難しさを感じている。ロドリとペドリを併用してガビを使ってトップがモラタだったらバルサのような何かの出来上がりとしか思えない。

現状のGKとCBは守備能力に重点を置いているように見える。その中でビルドアップに取り組み、上手くできる選手は誰でしょう、上手くいく組み合わせはどれでしょう、という様子が見える。シモンはある程度の圧力が掛かると蹴るが、前線は空中戦の強さ以前に"蹴るんかい"という様子だったのを今後どうするのか。
CBのル・ノルマンはハイボール対応は悪くなかったがビルドアップで強みは出ない。ラポルトは背後の対応が微妙だった。それで困ったらナチョを使う。ということでナチョはしばらく呼ばれそう。ナチョが対角のロングボールをやたら意識していたのはファティから違いが生めるという個人判断か、チームで何か狙いがあったのか、ヴィニシウスと勘違いして蹴っ飛ばしていたのか。

中盤はロドリが中心である限り、衛星として動ける選手が使われる。ジローナのロメウとアレイシ・ガルシアの組み合わせみたいに。スビメンディはロドリの代わりなのかもしれないが使うタイミングがいつ来るのか。ファビアン・ルイスは衛星としてもライン間のタスクもサイドとのトライアングル形成も上手かったがそもそもビルドアップ貢献が全くできないのが謎。なんでだ。メリーノは欠点は感じないが代表レベルではラストサードの説得力に欠ける。この2人は中盤の対人強度を担保できるのは良いところ。

アタッカーはスペイン代表である限りみんな内側に行きたがるWGばかりで、縦突破に特徴があるのはニコ・ウィリアムズなのだが出番はなかった。イタリア戦はアセンシオが入ってからライン間の循環とSBとの関わりが良くなり、左のピノがタッチラインを踏む方向性も安定した。イタリア戦のところでも書いたが選手交代をしないとこの辺が整理されない理由はいまいちわからん。アセンシオとダニ・オルモの違いもよくわからなくなってきた。少なくとも過去ダニ・オルモのシュートが枠に飛んだ記憶が全くない。
ストライカーは、なんか他にいないのか。いないか。


●デ・ラ・フエンテの考え方について

デ・ラ・フエンテのゲームプランは、スタメンの11人で勝ち切ろうとはそもそも思っていないと思われる。特に今回はトーナメントだったので前半を無失点で通過することへの比重が強かった。この辺は3月シリーズ同様合理性を強めている雰囲気はある。イタリア戦の前半は前プレでワンチャンを狙って実際結果を出した。失点はPK。クロアチア戦は思ったよりもボールを握られて我慢しながらロングボールを使ってボールを手放すこともやむ無しの判断。ただ、選手が対応できていなかった様子。

選手交代は攻撃の方向性を変えるためにWGに手を付けること、前線にホセルを入れること、IHの組み合わせを変えることがメインで大外れすることがなければ基本的には効果的だろう。ホセルは絶対的な存在と言っていい。モラタはアトレティコでの使われ方とほぼ一緒。個人的にはセルヒオ・カナレスが普段の彼通りのプレーをして、それが周囲とのコンビネーションを活性化させていたのはポジティブだった。顔出しと配球が上手い。ボールを受ける角度が味方へのメッセージになっていて、初めて合わせる選手との連携にも問題なかった。サッカーが上手い。ファティやガビと近い距離で使うのはかなり効果的に見える。
ロドリが明らかに中心人物だが、クロアチア戦のように思いの外ボールを持てない時にロドリは不要なのか、延長に入った後のようにいざボールを握れた時のことを考えると絶対に外せないのか、でこのチームの振り幅は大きく変わりそう。おれは外さないと思う。ただ、この2試合を見てもこのチームはワールドクラスの攻撃力とは到底言えないことは明白だ。そこの改善をロドリを動かさずにチャレンジするのが、ここから4年間の方向性として正しいのかどうかは疑問に思っておいた方がいい。でも今、シティで全てを手にしたロドリを外せって言える人、いないよね。

「バルサとは全く違う何かを目指すロドリと愉快な仲間たち」

こう言われて明るい未来を感じるかどうかだろう。
正直おれはスペイン代表が強くなっていく様を観測したいわけではないのでコケとジョレンテが死ぬほど横スライドしていた方が面白いし、エルモソが肘打ちしてPK献上していた方が楽しい、という立場は表明しておきたい。では次は9月。

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