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Amazonドラマ「モアザンワーズ」の、言葉で語り尽くせない魅力を語る。

はじめに

2022年9月16日。Amazon Prime Videoで、全10話のオリジナルドラマの独占配信が始まりました。
タイトルは『モアザンワーズ/More Than Words』。絵津子による同名漫画を原作とする、京都で生きる4人の若者の姿を描いた青春群像劇です。

僕は主題歌を担当している京都出身のバンド・くるりが好きで、リーダーの岸田繁さんがInstagramで宣伝していたのを見て「へぇ~くるりが京都のドラマの主題歌やるんや。めっちゃええやん」と思い、軽い気持ちでこのドラマを視聴し始めました(ちなみに僕も京都出身です)。

そんな風にして夜の塾講バイトから帰った後で何の気なしに観た『モアザンワーズ』の第1話に、僕は衝撃を受けました。

このドラマはただの青春ドラマじゃない。
もっともっと深いところで、魂を揺さぶられる、物凄いドラマだ。

強烈に、そんな気がしたのです。

そのまま折り返しの第5話まで一気に視聴し、さすがにその晩は寝ましたが翌朝起きてすぐに朝食も昼食も忘れて残りの5話分を一気に観てしまいました。彼らの物語から目を逸らしたくなかったからです。

小説や漫画、アニメ、映画など好きな文化芸術コンテンツはそれなりにありますが、配信ドラマにこれほどまでに強く惹きつけられたのは生まれて初めての体験でした。正直なところ、視聴を終えた9月17日時点では自分の中で昂るあまりの熱狂に困惑していたのですが、周囲の人たちにこの作品を勧めるようになって、ようやく整理がついてきました。

このドラマは、やっぱり凄い。

タイトルの通り、言葉で語り尽くすことは困難を極めることは百も承知ですが……それでも、僕は『モアザンワーズ』の魅力を多くの人に知って欲しいのです。

一般論では語り尽くせないドラマなので、ほとんど僕の主観で、このドラマの凄いなと思ったところを語っていきたいと思います。少しでも『モアザンワーズ』に興味を持っていただけたら幸いです。


簡単なあらすじ

京都に住む高校1年生の主人公の美枝子(藤野涼子)は、彼氏に殴られて部屋から逃げる最中に同じ高校に通う槙雄(青木柚)に声をかけられる。この一件をきっかけに親しくなった二人は同じ小料理屋でアルバイトをはじめ、先輩の永慈(中川大輔)と3人でつるむようになる。掛け替えのない友達として3人で共に過ごす中で永慈が槙雄に惹かれ、やがて2人は恋人同士になった。しかし永慈の父親(佐々木蔵之介)はある事情から男性同士の交際に反対。大好きな槇雄と永慈がずっと一緒にいられる未来をつくるために、高校を卒業した美枝子はある決断をする。

というのが大まかなストーリー。
同性愛や代理母といった社会的なテーマが展開の中心に組み込まれていますが、この作品においてはそういった問題についてのポリティカル・コレクトネスを提示するようなことはありません。あくまでもひとつの設定として、ごく自然に描かれているというのが一つの特徴です。

社会問題的な観点よりむしろ、注目するべきは出会い、絡まり、深まり、そしてほつれて変化していく美枝子、槙雄、永慈の関係性です。10代後半から20代という不安定な時期に出会ってしまった3人が、変わらない愛や絆を手に入れるために変わることを余儀なくされていく。その過程の描き方が素晴らしい脚本でした。


個人的推しポイント(1) メインキャストの自然な演技

『モアザンワーズ』の印象を振り返ると、まず第一に「とにかくメインキャストの演技に引き込まれたなぁ」という感想が出てきます。

特に素晴らしかったのは、槙雄役の青木柚さんと、最終盤でもう一人のメインキャストとして登場する朝人役のEXIT兼近大樹さん。

青木柚さんは、昨年度のNHK朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』第3部に川栄李奈さん演じる主人公ひなたの弟・桃太郎役で出演していた時から気になっている俳優でした。新川優愛さん演じるひなたの幼馴染に叶わぬ片思いをする桃太郎の姿があまりにも愛おしくて、第3部は青木さん演じる桃太郎が画面に映るたびに胸が苦しくなっていたことを思い出します。

そんな青木柚さんの「愛おしくてたまらなくなるがゆえに見ているだけで苦しくなってくる」演技は、『モアザンワーズ』の槙雄として『カムカム』以上に昇華されていました。誰に対しても愛想が良く、人懐っこくて、永慈のことが大好きで、美枝子のことも大切に思っている、ただひたすらに純粋な槙雄。そんな槙雄だからこそ、3人の関係を続けるために妥協や嘘を差し挟む辛さに耐えられなくなる。辛くても無理して笑う槙雄を見ていると、なんだかもう、どうしようもないぐらいに心が揺さぶられるのです……(深いため息)。

青木さんの演技は第1話の冒頭から最終話のラストカットまであまりにも自然で、槙雄という役を演じているという印象が全くありませんでした。青木柚=槙雄であり、槙雄=青木柚。槙雄がいるシーンはドラマではなくドキュメンタリーを観ているのではないかと錯覚するほど。京都の鴨川沿いを散歩していたら槙雄に会えるような気さえしてくるのです。それほどまでに槙雄の生き方がリアルに伝わってきた分、より一層、槙雄の抱える辛さが骨身に染みてきて、魂にまで響いてきました。

最終盤でそんな槙雄と出会う朝人を演じたのがEXITの兼近大樹さん。前々から「チャラ男芸人キャラだけれど実際は非常に真面目で優しい人」という印象がありましたが、朝人というキャラクターはまさに兼近さんの二面性をよく反映した存在に仕上がっていたため、演技ほぼ未経験のお笑い芸人とは思えない至極自然な役としてハマっていました。朝人もまた、槙雄と同じように「京都のどこかの美容室に行ったら朝人が美容師見習いの兄ちゃんやっとんのとちゃうかな」という気がしてくるぐらい、リアルなキャラクターでした。役者としての兼近さんをもっと見てみたいですね。


個人的推しポイント(2) ほぼ全編京都ロケ撮影

このドラマは、一部のシーンを除いてほとんどが舞台である京都で撮影されています。登場人物も一部を除いてみんな京都弁(なんで生粋の京都人である佐々木蔵之介さんに京都弁を喋らせへんかったんや????)。京都人に馴染み深い場所で登場人物たちが本当に暮らしているかのような、まるでドキュメンタリーのようにリアルな描き方がなされていました。

特に鴨川デルタや嵐電の修学院駅といった3人の生活圏である京都北東部には、何とも言えない風情というか、雰囲気というか、そういうものがあるんですよね(完全に主観です)。この辺りは洛中の碁盤の目の外で、京都市街との間に鴨川を挟んでいるので、人口140万人の大都市である京都のなかではかなり落ち着いている地域です。近くには京都大学吉田キャンパスもあります。ちょうどいま公開されている映画『四畳半サマータイムマシンブルース』の舞台もこの辺り、出町柳百万遍界隈ですね。

「古都京都」の味わいというよりは、都会のはずれのちょっと枯れた感じというか、何というかこううまーーーく言い表すのが非常に難しいのですが、そういう、この辺りにしか無い繊細な雰囲気みたいなものが『モアザンワーズ』の世界とよくシンクロしていたように思います。


個人的推しポイント(3) 拘りぬかれたビジュアルや音楽

映像作品の印象は予告編の画作りやタイトルロゴ、カメラワーク、カラーグレーディング、音楽といった要素が組み合わさって固まっていくものです。『モアザンワーズ』についてはどれをとっても(個人的には)「めちゃくちゃセンスが良いな……」とため息が出ました。

夏の思い出のエモーションを掻き立てるメインビジュアルやタイトルロゴ。ドキュメンタリーのような視線をつくるカメラワーク。どことなくノスタルジーを感じさせる色調。心の機微をやり取りする微妙な会話のなかで生じる間と、それを絶対に邪魔しない絶妙な音楽。「映像作品としての作り込みが良い」というのが率直な感想です。こういった要素は、(不躾な言い方をするならば)どれだけでも手を抜くことができてしまうものです。『モアザンワーズ』のクリエイター陣は、そこで敢えて、細々とした要素ひとつひとつに徹底的に拘ることにした。結果的に、作品の印象を極めて高次元に仕立て上げた。きっとそういうことなのだろうと思います。

このように、作り手の拘りが随所に見られる上質な映像体験を得られるというのもまた、この作品の魅力の一つだと思います。


やっぱり言葉で語り尽くせる気がしない

―――と、ここまでつらつらと『モアザンワーズ』の個人的な推しポイントを語ることで作品の魅力をお伝えしようと頑張ってみましたが……正直なところ、まだまだ喋りたいことはたくさんあります!でも、どれだけ語ったところでやっぱり言葉で語り尽くせる気はしません。それぐらい、途轍もないドラマなのだということだけが伝わってくれたら、僕はそれで充分です。

豪勢な特撮やVFXが使われるわけでもない。ど派手なシーンがあるわけでもない。特殊な撮影技術が使われているわけでもない。それでも、俳優とクリエイターたちが徹底的に拘りぬいて作った作品であれば、これだけ魂を揺さぶられるような映像になるのだ。

とにかく、『モアザンワーズ/More Than Words』第1話を視聴して、このことを体感していただければと思います。

最終話まで見終えたらぜひ、ご家族やお友達に、言葉では語り尽くせないこの作品の魅力を語ってあげてください。

(文:ねも)

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