地下水から蛇口に届くまで
熊本市は世界でも珍しい、水道水源のすべてを地下水でまかなう都市。
熊本の地下水には「蛇口をひねればミネラルウォーター」というキャッチフレーズがついており、約20年間の歳月をかけて湧き出す水には炭酸分とミネラル分が適度に含まれています。
生活用水のほとんどに地下水を使用していますが、実際にどう運ばれるかは意外と知らないのではないでしょうか?
ちょっと特殊な例かもしれませんが、今回は地下水がみなさまの家庭の蛇口まで、どのようなプロセスを経ているのかを見ていこうと思います。
そもそも、地下水を使用している都市は?
何でもかんでも、熊本市の専売特許だと思うのはよくありません。世界はともかく、他の地域で地下水を使用してるのはどこだろう?
調べてみるとはっきりとした地域を探すことは困難でしたが、国土交通省のHPにこんなことが載っていました。
現在、地下水は生活用水(飲料用、調理用、浴用等)、工業用水(飲食品製造業、原料用、洗浄用、冷却用等)、農業用水(農作物栽培用、温調等用)、養魚用水等、各種の用途に利用されています。また、この他にも都市蓄熱(ヒートポンプ、ヒートパイプ等)や、 湧水公園等の環境用水といった多様な用途に利用されています。
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk1_000062.html
地下水には
①水質が良好
②水温が一定
の、二つの特徴があり、主に生活用水には①水質が良好な点を利用し、工業用水には②水温が一定であることを利用しています。
地下水を工業用水や農業用水として利用する地域は多く(いわゆる井戸水)、地下資源を有効につかう良いことですね!
では、蛇口から地下水が出てくる地域は?
というと、意外と少なく、県庁所在地では熊本市と岐阜市のみのようです。(ほかにもあれば教えてください)
地下水が蛇口に運ばれるまで
(参考:熊本市上下水道局HP )
熊本市民と岐阜市民以外にはあまりなじみがないかとは思いますが、地下水があなたのお家の蛇口にいくまではどのようになっているのでしょうか。
(ちなみに、そのことを給水と呼びます。)
①取水井で水を汲み上げる
取水井(しゅすいせい)と読みます。今日初めて知りました。
(参考:狭山市HP)
取水井とは、井戸から水を汲み上げる施設のことです。
井戸からはもちろん地下水が汲み上げられます。蛇口から出る水のスタートは、この井戸になっています。
ちなみに、熊本市内には取水井は100カ所以上あり、一日に約22万立方メートルを配水しています。(参考:熊本市役所HP)
そんなに汲み上げて地下水はなくならないの?!と心配になるかと思いますが、ご安心を。
地下には水を通しやすい岩盤と、通しにくい岩盤がありまして、それらに挟まれたところに地下水が溜まっています。ちょっと想像しにくいですが、我々が生活している少し下に、大きな川のようなものが流れている、と思ってください。
(参考:三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社HP)
地上の川は深さは、上流・下流や、地域によるバラつき大きいですが、せいぜい10m(もちろん、それ以上深い川もあるかとおもいます)。
川幅にしても、一級河川でも1kmあるところはあまり多くはありません。
対して、地下に流れる川は、これもバラつきがありますが、数百メートルに及ぶこともあり、幅も何十kmと広い。こんなに広大なところから水を取っているので、そうそう枯渇しないと分かってもらえるかと思います。
②集水槽でためる
水を使うとき、そのたびに取水井から水を取っていては、なかなか大変。ですから、地下水をある一定の量まで汲み上げためておきます。
その施設を集水槽と言います。読んで字のごとくです。
(参考:熊本市上下水道局HP)
槽の中には地下水がたくさん。一旦ためておいて、必要な量を次の施設に送り、逆に槽の水量が少なくなれば、取水井から水をを汲みます。(そのため、調整池と呼ぶ場合もあります。)
意外とハイテクで、中のセンサーで水量を監視。異常があれば管理部門に連絡を送ります。
集水槽に溜まっている水は、災害などで水道管が破損した場合など通常通りに蛇口から水が出なくなった場合に使われることも。
殺菌消毒をしていない場合もありますので、飲料水ではなく、トイレなどの生活用水に使われます。
③塩素を投入し滅菌
多くの場合、地下水は清澄ですが、大腸菌などの有害な菌がいる可能性もあります。そのため、集水槽から滅菌設備に行きます。
よく聞く、次亜塩素酸ナトリウムを加えての殺菌ですが、地下水の場合、投入量は非常に少ないのも特徴。
正直、殺菌しなくてもよいくらい清澄なのですが念のためです。
ちなみに、蛇口から出てくる水には塩素を含まなければいけないという決まりがあり、東京や大阪などの都市部は0.6~0.9%と言われています。最低0.1%という決まりだけで、上限が決まっていないのが少し問題ですね。
塩素濃度が高いということは、多く入れなければ殺菌できないということですし、反対にしっかり消毒してあるともいえます。どちらが安心であるかは個人の考え方によりますが、少なくとも塩素臭は嫌です。
熊本市の場合、0.1~0.25%と低水準。さすが、蛇口をひねればミネラルウォーター。
④加圧施設や配水池へ
滅菌されたらいよいよ各家庭へ届けられます。
水道は高いところから低いところへながす自然流下式が多いです。
配水池というのは家庭に届ける水をためておくところで、集水池のような施設。違い消毒済みかそうではないか。
(参考:熊本市上下水道局HP)
配水池には大きく分けて二種類あり、高台にあるか平野にあるかで設備が変わってきます。
本来、停電のリスクや維持費などから自然流下式にしたいのですが、どうしても平野部に作る場合は、加圧施設が内在しています。
高台に配水池がある場合も、加圧ポンプで上まで持ち上げて、下流へ水道を流すようになっており、ポンプを使うことに変わりはありませんが、使うタイミングが違うんですね。
配水池は結構多く、熊本市は17カ所。地下水といっても、全部が同じ水ではなくて、地域によってルーツは異なっています。
ちなみに、配水池は大きいほうがより水を貯められて優れている!と思うかもしれませんが、ちょっと違います。
使用量に対して配水池が大きすぎると、そのなかに水が留まる日数が多くなり傷みます。水が腐ることは少ないですが、白く濁ったり、先ほどの塩素濃度が0になったり(塩素が空気に触れて抜ける)……。
丁度よいキャパの施設を作る必要があるってことですね!
⑤水道管を通って蛇口へ
さてさて、最後は水道管を通って皆様の家庭へと送られます。
昔は地域に井戸があり、使うたびに水をくみ取って生活していました。技術の進歩はすさまじく、今では片手で蛇口をひねれば井戸水が出てくるんです。
地下水を生活用水として使う地域が少なく、どれほどこの感動に共感してもらえるかはわかりませんが、地下水と水道設備の偉大さは伝わったと思います。
実際に熊本市に長いこと住んでいましたが、初めて知ったことも多かったです。少しでも興味を持っていただけたら、自分の地域の水道水のルーツをたどってみてはいかがでしょうか。
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