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APIC寄付講座夢ゼミ_ゲスト:山本達也さん【前編】

日本と外国の相違点や共通点を探ること。
島前地域の独自性を知ること、これからを考えること。

色々な国際的に活躍されている方々と深く対話することで、
視座を高め視野を広げてもらう、
いろんなグローカルな活動に生かしてもらう、
ことを目的に開かれた講座。

今回のnoteでは、11月17日に行われたAPIC(国際協力推進協会)の寄附講座夢ゼミの様子をお届けします! この夢ゼミはAPICと隠岐國学習センターが毎回ゲストをお招きして進めていく5〜6回の「グローカル・ダイアログ」です。
初回のゲストは、エーオンジャパン株式会社代表取締役社長の山本達也さん。120ヶ国に拠点のあるグローバル企業で社長として働いている山本さんのこれまでの経験から、日本の独自性は? 他の国との違いは何だろう? ということを通して高校生にメッセージを送ってくださいました。
今回はその夢ゼミの前半をお届けします。
【進行:大野佳祐】

他の国の人と接することは、自分の幅を広げること。

大野:
夢ゼミをはじめる前に、簡単に佐藤さんから自己紹介と、講座を実施することとなった経緯とAPICの活動について簡単に説明をお願いできますか?
佐藤:
APIC常務理事の佐藤です。よろしくお願いします。
APICというのは国際協力推進協会(Association for Promotion of International Cooperation)という英語の頭文字をとっています。
私自身は常務理事をやっているのと同時に、上智大学の客員教授として国際関係について教えています。そして、僕は2008年から2011年まで、ミクロネシア連邦の大使をやっていました。
生徒:
キンニャモニャセンターにあった写真見ました!めっちゃ綺麗でした!
《笑》
佐藤:
でしょ〜! ミクロネシアから日本に戻ってきたのが10年前のことです。
上智大学で国際関係の授業を持っていたんですけど、毎年夏休みのシーズンに学生を12名ほど引率してミクロネシア連邦に視察に行っていたんです。エクスポージャーツアーと言って。
学生たちが一番感動するのはホームステイ。二泊した後に戻ってくるんだけど、別れ際にほとんどの子が泣くんです、みんな。
なんで泣くの?ということは、次回までの宿題ということで。
《笑》
佐藤:
ということで、説明はこのくらいにしてそのツアーのDVDをみてみましょう。
《ツアーの様子をDVDで観る》
佐藤:
実は、今年、これと同じようなスタディツアーを隠岐島前高校でする予定だったんです。
大野:
本当は来年3月に選抜した人を連れてミクロネシアにいく予定でした。そして、2月には向こうの高校生がこちらに来て交流した上で、島同士盛り上がろうと思っていたんですけど…
佐藤:
新型コロナウイルスの流行で断念しました。
コロナが終息したくらいにできるといいなと思っていますが、みんなが卒業した後かな(笑)
《笑》

佐藤:
では、僕は前座ということで、ここからは山本さんよろしくお願いします。
山本:
山本達也と申します。よろしくお願いいたします。エーオンジャパンというところの日本法人の社長をしています。佐藤大使とは非常に親しくしていただいていて、それこそミクロネシアにも一緒に旅行に行かせていただいたり、知り合ったおかげで隠岐の島の海士町にもくることができて嬉しいなと思っています。
もともと出身は兵庫県の神戸なので、ここからもそう遠くはないですね。
小学校は父親の仕事の関係でマレーシアの日本人小学校にいました。そこで外国人と付き合ってみて学んだことは、日本人と外国人ってあんまり変わんないよねってことでした。
そうは言いながらも、その頃日本人小学校にいて日本語で勉強していたので、あの頃から英語を勉強しておけばよかったよなと。でも小さい頃に外国にいたってことで外国人恐怖症みたいなものはなくなりました。

ということで皆さんにも、機会あるごとにいろんな国の人と接することは、自分のやれることの幅や考えることの幅を増やすことになるんじゃないかなと思ってオススメしています。

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「やりたいことはをやりたい時にやる」


その後、海外で育ったこともあって、住友海上という会社に入ったんですけど、海外で一度仕事をしてみたいなと思って、研修生に手をあげてNYに行きました。
その時に、日本の常識と世界の常識はずいぶん違うぞ?と思ったんです。それを当時の会社に伝えたりもしたんですけど、それは君が役員になってから言ってくれみたいに言われてしまって(笑)
《笑》

山本:
そういうこともあって、世界規模の保険情報を日本に持ち込みたいと思い、エーオンという会社に転職しました。
エーオンに転職して2年目にワールドトレードセンターの同時多発テロが起こって、私はあのビルの103階にいました。
《え!》
山本:
死にかけたんです。エーオンの社員は176人が亡くなりました。

僕自身は2機目がぶつかった方のビルの103階にいたのですが、1機目がぶつかった後の10分後くらいに避難しました。2機目が来るなんて思ってもいなかったからPCをシャットダウンさせたり、荷物を用意したりしていて。でも、隣のビルはずっと爆発が続いていたので、そろそろ逃げなきゃなと。2機目がぶつかったのが結局15分後だったんですけど、残り5分くらいのところでエレベーターで降りることができて、ギリギリ間に合いました。あの時に階段を選んだ人たちはみんなダメだった。

ここでのメッセージは、人生いろんなことがあるよねっていうことです。

神戸出身なので、阪神淡路大震災で家が崩壊してしまったんですけど、おばあちゃんは1階の死んでもおかしくない場所に居て。でもベッドが縁側を突き破って庭まで飛び出して無事だったということも体験しました。

という感じで、これまでの人生にいろんなことがあって、リスクを考えるのも大切なんだけど、「やりたいことをやりたい時にやる」ということが若い皆さんにメッセージとして伝えたいことです。

で、今はエーオンという会社の社長をしています。日本の会社で言ったら、SONYやPanasonic、任天堂などグローバルに活躍する企業さんのリスクマネジメントのお手伝いをしています。

写真にあるとおり、マンチェスターユナイテッドのメインスポンサーもやっています。

120ヶ国で事業所を持っていて、従業員数は5万人くらいですかね。
《え〜〜〜!》
山本:
ということで、世界中どこの国でもオペレーションをやっているというような会社です。何をやっているかというと、そう言った国々でグローバル企業を相手に、リスクマネジメントのアドバイスや実際の保険の手配、例えばある企業の工場が世界中にあるとして、その工場の火災保険だとか賠償保険とかを一気に世界中で手配します、とか。

保険会社ではないんですけど、個人のお客さんを対象に最適な保険を組み合わせて提案するサービスって聞いたことありますか??
《あります》
山本:
簡単にいうと、あれの企業版かな。
大野:
ちなみにだいたい1回の取引額の規模って、どのくらいになるんですか?
山本:
ボリュームのイメージはね……グローバル展開をしている日本の大手企業は年間の保険料っていうのが100億円くらいになるんですよ。
《声にならない驚き》
山本:
たとえば、そのアドバイスをするのにだいたい10%くらいのフィーをいただいている感じです。

さっき世界中に5万人くらい社員がいるって話したんですけど、5万人の連絡先をスマホで探して連絡して、特定の分野に詳しい人を知ることができます。日本の会社だと、国によって従業員が分断されていて連絡を取ることができないことも多いんですけど、グローバルに事業を展開するエーオンだと「エーオンファミリー」としてどこに住んでいても分け隔てない、何も変わらないないんだということを感じますね。

「この国の将来はもっと良くなると思いますか?」

山本:
ここからは私の心配事をお伝えするとともに、皆さんたちの世代で日本をもう一度バリバリに復活させて欲しいと思っていることをお伝えします。
私は大きい会社ばかりと取引をしているので、「フォーチュン・グローバル500」とかを見るんですね(世界中の会社を対象とした総収益ランキング)。そこに掲載されている企業が、日本は1995年から2020年の間でほぼ3分の1ぐらいに減っているんですね。
そんなに減ってる国が他にある?と見てみると、そんなに減っている国はない。むしろ中国なんかは2020年でアメリカを抜くぐらい爆発的に増えている。

特徴として、日本の企業は1995年の時にランクに入っている企業が今も残っている。だけどアメリカなんかは1995年には存在すらしなかった企業がどんどん伸びているんです、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)とか。だからそこまで減っていない。もちろん数が多いことだけがいいわけではないけれど、日本から何かイノベーティブなものが、今までになかったような、世界で活躍するような企業が出て欲しい

そう思うから、皆さんの世代に頑張って欲しいと思うわけですね。逆に言えば、私や佐藤大使の時代がサボったのかもしれませんね(笑)
《笑》
山本:
もう一つの心配事は、日本財団が毎年意識調査をしてる中の、18歳に「自分の国が将来よくなると思いますか?」という質問をしていることについてです。

日本の若者は10%の人がよくなると思っていて、反対に40%近くの人は悪くなると思ってる。でもそうはなって欲しくないし、そうじゃないんだよっていうことがもうひとつの皆さんへのメッセージなんです。日本という国はすごくポテンシャルの高い国なんです。
だから皆さんには目を見開いて、「この国、もっと良くなるぜ!」っていう起爆剤に自分たちでなって欲しいんです。

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同じ言葉でも、意味が違うかもしれない。

山本:
私が考える「日本ってどんな国?」っていうのをお話しします。

アメリカに行っていた当時とかは、日本だとスムーズに仕事が進むのにアメリカではなんかうまくいかないな〜、本当のグローバルビジネスマンになるのって大変だな〜と思っていたことがありました。

日本の独自性や国民性を理解しておくと、他国の人たちとコミュニケーションを取るときに意味があるかもしれないよという話です。

例えば、海外の人が日本に来て驚くのは、小学生が小学生だけで電車に乗って学校に通っていること。誘拐のリスクがないからできる、こんなに安全な国って世界でも稀ですよね。ブラジルでそんなことしたら事件が頻発するだろうし、それはアメリカであっても同じこと。アメリカ人からすると考えられないし、場合によっては子供への虐待だって言われる。

それに、日本ほどきちっと時間厳守の国はなかなかない。今日だって19:30から授業ですって言われたらみんなその時間には来るよね。
《うなずく》
例えば日本で何か無料のセミナーをするとき、無料なんだから別に来ても来なくても無料なのに、95%の人は時間前に来るんです。しかも、来れない人や遅れる人は事務局に連絡してくる。シンガポールの人と一緒にセミナーをやった時も、「みんなすごい時間通りに来るんだけど」ってびっくりされちゃうくらいなんですね。

As soon as possibleという言葉を聞いたことがあると思うんだけど、「なるはやで」って言われたときに、どのくらいでその返事を返します?
《次の日、次の日の朝くらいには出すかな》
山本:
ずいぶんアメリカンだね〜(笑)
僕らの世代って、まず1回目の返事は2〜3時間で返す感覚を持っている人が多いと思います。でもアメリカ人の時間感覚だと12〜24時間とか。人によって48時間以内に返事すればいいかなと思っているところがあります。

一度、この話しをグローバル会議のなかで、せーのって書いてみたことがあって、日本はみんな2〜4時間とか、人によっては30分って書いてる人もいた。一方で、ラテンアメリカの人たちは1〜2週間って書いている人が多数。
《え!ながっ》
山本:
これが、asapって同じ言葉を聞いても、時間の軸が全然違うように聞こえてるというグローバルのカルチャーの違い。

日本人の社員に「なるべく早くお願いね」って朝に頼んだら、夕方に返事が来てないときにもう一回聞けるんだよね、「あれどうだった?」って。でもアメリカ人の感覚では12時間も経ってないのに「あれどうなった?」って聞くと、「それは失礼でしょ!何言ってるの?」ってなると思う。ラテンアメリカの人に問い合わせするときには、1週間くらいは待たないとと僕自身も思っている。
一つの同じ言葉があっても、時間の感覚も言葉の意味もかなり異なっている。これが「グローカル」の醍醐味。日本は時間軸がすごく早いので、その分コストが高くなったり労働時間が長くなって生産性が落ちたりっていうのはあるかもしれないけど、時間に関してや期日までに仕上げる仕事の質については自慢できるカルチャーだと思っています。
生徒:
日本の方が珍しいんですか?
山本:
こんなに時間を守る国は珍しいと思いますね。佐藤大使どう思いますか?
佐藤:
そうだねえ。僕の「なるはや」は5分だね。
《早い!》
山本:
僕らの世代はそうですね。そういう意味では最近は少し変わってきているところもあるかもしれない。それはカルチャーだけじゃなくてジェネレーションのギャップもあるかもしれない。

でも、こういうことがを知っていると、外国人の人とコミュニケーションを取るときに、そういえば相手はこう思ってるのかもしれないなっていう風に考えられるかなと思いますね。

当たり前、は本当に当たり前なのか。

山本:
私がアメリカにいるときに韓国人の友人に「日本人は自分の国に感謝してないよな」と怒られたことがあるんです。
《え???》
山本:
お前の国のパスポートの価値とかわかっているのか!と。当時20年前くらいの話なんだけど、ジャマイカの友達が日本に旅行に行きたいって言った時、たった一週間旅行に行くために、保証人を立てたり申請書を書いたり半年前から準備しているんですよね。日本の場合パスポートがあれば大抵どこの国にも入れる。行けない国って限られてるんですよね。こんなパスポートを持ってる国の人はいないのに、自分の国に感謝してる?って怒られたんですよ。

日本っていう国は外務省の人だとか、佐藤さんのような先輩たちのおかげでこんなに世界中を往来できる自由を手に入れているんだなっていうことに気がついてもらえるといいなと思います。
佐藤:
感謝してよ!(笑)
《ありがとうございます(笑)》
山本:
そのことに対して俺たち日本人ってラッキーだよな!って思っているというよりかは、当たり前だと思っている

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思い切って言ってみること、から始まる。

山本:
日本人って、恥を掻くこととか顔が潰れることを妙に嫌いすぎてるように思います。大きなクラスで授業中に手をあげて質問するとか、ドキドキしてできないんだよね。アメリカの学校だったら、当てられるまで手を上げ続けてるからね。今先生がいったばっかりじゃん!ってことでも平気で質問する。「今のはこういう理解でいいか?」って。この世に悪い質問なんかないんだって。

でもそれによってコミュニケーションが生まれる。自分自身が恥を掻くとか、顔が潰れるとか、そんなこと大したことないのに、日本人はすごく嫌がる。
佐藤:
アメリカの高校生は、授業中に先生に質問しないと怒られる。黙ってるなんて迷惑な人は出て行きなさいって言われる。
山本:
日本の学校って静かに聞いていることが真面目でいいことだって思われているもんね。
《確かに…》
山本:
それ変えようよって思ってます。思い切って言ってみて、そこから理解できることもいっぱいあるじゃない。質問する、議論することはぜひやってほしいと思います。
次は、嘘をつかない、正直な国民性っていうのかな、謝ったりすることもそうかもしれない。僕が働いていたアメリカだと、負けを認めた瞬間にもう敗者だと思ってるから、嘘はつかなくても「うん」と言わない。ミスったよね?と言っても、なかなか認めない。でもそれは国民性の違いってだけ。
あとは、こんなに清潔で整然とした国はないということですね。海士町に来ても、こんなに整然とした町はないと思った。世界規模で見た時に、漁村や農村でこんなに綺麗でゴミも落ちてなくてって国ってなかなかない。
それから、日本人の得意分野であるちょっと便利とか、ちょっと綺麗とか、ちょっと可愛いとか。そういうのは強みだと思っています。例えば工事現場に立てる柵が人やカエルの形をしていることあるじゃない? ああいうの、ヨーロッパの人とかが見て感動するんだよね。あと、袋を開ける時にビリッと破れやすくなってることとか。
大野:
ペットボトルのカバーにミシン目が入ってるとか。
《あ〜〜》
山本:
日本ってやっぱり「ちょっと便利」にこだわりがある。そこは日本の得意分野だと思うから、次の世代のみなさんもその日本の得意分野をぐんぐん活かして、もっと爆発的にヒットするものとか考えてもらえるといいなと思う。

今幸せ、だから止まっていていいのか。

山本:
心配ごととして……、今日本って安全で幸せすぎる。でもその一方で、企業トップ500のなかの日本社の数はどんどん減っていっていますと言われている。世界の他の国々の企業は、常に世界と戦っていると思っているわけ。でも日本人は世界と戦っているという意識があまりなくて、今のままで幸せならいいじゃんって。

自分が同じ場所でじっとしていても、周りはどんどん伸びていくから。実際に他の国の平均給与はどんどん上がっていくけど、日本は20年前からほとんど変わっていない。これから海外旅行に行っても日本は貧乏だから何も買えない、ということが起こるようになっていく。向こうはどんどん給与が上がっていくから、日本は給与が安いね〜って行ってる人たちはすでにいっぱいいるじゃない。自分たちの購買力や国の力が徐々に徐々に見えないうちに下がっていっている、ということに気がつこうよってこと。
ここで立ち止まっていいんだよという概念を捨てて、自分たちで伸びなきゃと思ってほしい。

ローカルで日本の「ちょっと便利・ちょっと綺麗・ちょっと可愛い」っていうのを考えて、グローバルに展開していく。グローバルで自分たちが成長しながら生きていくというストーリーを期待しています。

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夢ゼミの前半では、山本さんがこれまで海外で生活し、働いている中で感じた日本と海外の違いやそこから見える日本の独自性についてお話ししていただきました。
次回の記事では、生徒からの質問を通して考えを深めていく様子をお届けします。

【書き手:西澤七海(卒業生)】

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