ダイエット中なのに「今日はたくさん運動したからお菓子食べよう」いつも合理的な判断ができないのはなぜ?ーそれには行動経済学の仕組みが関係しているかもー
私たちは日々の生活の中で常に意思決定を迫られています。たとえば、
「目の前のスナック菓子を手に取るか」
「電車で通勤するかバスで通勤するか」
「今日は雨が降りそうだし、学校に傘を持っていこうか」
など、実生活では意思決定の連続です。
しかし、日頃の意思決定では全てが合理的な判断をするとは限りません。
私はSEVENTEENのファンなのですが、クリスマスシーズンにコンビニとコラボしていたことで、足しげくコンビニ通いを続けていました。おかげでオタ活は充実していたのですが。笑
「お金ないのにな~、、でも推し活ってたのしい。」
ダイエットしてるとき、「今日はいっぱい運動したからアイス食べちゃお」
という気持ちになるのも頷けます。
他にも、健康に悪いとわかっていてもタバコを吸ってしまったり、「訳あり」や「限定」という言葉に惹かれて衝動買いをしてしまった、という方もいるでしょう。
このような、伝統的な経済学では矛盾が生じてしまう人間の行動を解明するために登場したのが「行動経済学」です。
今回はこの行動経済学をご紹介します。
行動経済学とは
行動経済学とは実際の人間の行動をもとに理論を形成しており、心理学と経済学を合わせたハイブリッドな学問領域といわれています。
行動経済学は消費者の動向を掴みやすいことからマーケティングの分野で注目を集めており、実用的な側面から様々なビジネスにも応用されています。
また、この行動経済学で想定する人間像はこれまでの伝統的な経済学とはほどよく外れています。
これまでの伝統的な経済学では人間は理にかなった行動をし、常に自分の利益を最大化する合理的な選択をするという考えが前提とされてきました。
伝統的な経済学者たちは超合理的、超自制的、超利己的の3つの行動原理によって意思決定する人間を「ホモ・エコノミカス=経済人」と定義し、経済学の理想としました。
しかし先ほど述べた、健康に悪いとわかっていてもタバコを吸ってしまう、などの行動は、純粋に経済学だけで解明することが困難なため、心理学+経済学という観点から行動経済学が生まれました。経済学と言う文字が含まれていますが、心理学的な側面が大きいと言ってもよいでしょう。
行動経済学のメリット
行動経済学を知り、深く理解することで3つの分野での応用が期待できます。
1 .マーケティング
マーケティングでは行動経済学を知り、人々の意思決定のくせを知ることで効果的な広告や販促を打つことができます。近年人気を集めるクラウドファンディングは同調効果と利他性の2つの要因から多くの資金を集めやすくなっています。
【同調効果】
世間でハロウィンの盛り上がりが年々加速していることからも分かるように、私たちは大多数と同じ行動を取ることで安心を得るという傾向を持っています。
テーマパークに行くとみんなカチューシャをつけていたり、TikTokであるダンスが流行していたり、それを見てまた「私もやってみたい!」と思う人が増えるのです。
私の大学では、(他の大学でも多いと思いますが)テストの前になると単位パンというものが食堂に並びます。みんながトレーに入れているのを見ると、私もトレーへ。
そう思うと、学食で食べるものは友達と一緒のものが多いなと感じます。笑
クラウドファンディングにおいても刻々と金額が増えていくのを目にし、自分だけ参加していないのは不安になり、周囲の動きに同調して支援する人が増えていくという仕組みが働いています。
【利他性】
クラウドファンディングはただの出資ではなく、困っている人を助けるという側面が強く、見返りがなくても多くの支援金が集まります。これは経済的には非合理的ですが、社会貢献しているという感覚が投資のハードルを下げ、利他性を刺激しています。
2 .マネジメント
マネジメントでは行動経済学を利用したアンカリング効果とハーディング効果によって、部下や同僚に上手く手伝いを頼むことができます。
【アンカリング効果】
アンカリング効果は、たとえば、元値30,000円の商品が50%オフと表示されていると「元値より15,000円安いから買っちゃおうかな」と感じる心理のことです。元値が提示されることで、値引かれた分を得だと認識し、消費者の購買意欲は高まります。
アンカリング効果については別の記事で詳しく解説しているので、そちらをご覧いただけるとさらにわかりやすいかと思います。
【ハーディング効果】
ハーディング効果は、端的に述べると集団から外れたくないという心理が働くことです。
これは、周囲のみんなに同調するよう促したい時に効果的です。人は「みんながやっているのに自分だけ、、」という状況に不安を感じるため、「〜さんもやってるから君にもこの仕事お願いできる?」というような一言を添えると快く引き受けてくれる可能性が高まるでしょう。
3 .自己実現
自己実現では行動経済学のナッジ理論を応用することで自分の行動をコントロールし、目標達成を手助けします。
たとえば、健康な体になるというゴールを設定したけれど、痩せたいのについ食べ過ぎてしまうという課題があったとします。
ダイエット中なのに、
「今日バイトがんばったし、お菓子食べちゃお」
と思って食べ始めたら、止まらない。
「まあ、ダイエットは明日からでいっか。」
そうやってまた、永遠に来ることのない「明日」に期待をするのです。
このような私にも、解決策はあります。笑
それは、デメリットを見える化すること、です。
具体的にはワンサイズ小さい服を日頃から着ることが挙げられます。太ることへの危機感を感じ、食の誘惑に負けにくく、目標達成への近道になることが期待できると言われています。
私も、さっそく日々の生活に取り入れていきたいですね。
行動経済学に関係深いナッジとは
行動経済学と関係が深い用語として「ナッジ」が挙げられます。
ナッジ(nudge)とは、そっと後押しする、という意味があります。行動経済学の考え方を逆手に沿って、人間に意図する行動をとらせたり、逆にとらせないようにしたりするためにナッジが利用されています。
例えば、レジの前にある足跡のマークはナッジの代表例といえるでしょう。自然と並ぶ場所が分かる効果に加え、コロナ禍においてはソーシャルディスタンスを保つ効果もありそうです。
その他にも、電車などで優先席が分かるようシートの色を変える工夫も、ナッジの考えを取り入れた例といえます。
以下からは、ナッジをうまく活用した企業をご紹介します。
1.行けば行くほど健康になる社員食堂
ここでは、Googleの社員食堂を例に挙げます。
一般的な社員食堂では、ディスプレイに並んだサンプルからメニューを選ぶ形式がとられています。そうすると、好物やいつも注文しているなじみのあるメニューに手を出しがちになりますよね。Googleの社員食堂でも、サラダが敬遠されていました。
そこで、Google社では食堂の一番目立つ位置にサラダを無料のバイキング形式で設置することで、野菜を取るのが当たり前というデフォルト(あらかじめ選ばせたい選択肢を初期設定とすること)の状態を作り上げました。
これによって、食堂を利用する従業員は、「無料だし、野菜をたくさん取らないと損だ」と考え、皿いっぱいに野菜を盛り付けるようになったのです。
2.おもわず「納税したくなる」イギリスの住民税
イギリスではナッジを利用し、利他性と同調効果を刺激することで納税率を上昇させました。
納付期限を超過していても納税をしない住民に対して単に納付をお願いするのではなく、実際にどのように税金が使われているかを明示することで、未納税者の利他性をくすぶり、納税を前向きに考えるように仕向けたのです。
また、通知書にほとんどの人が期限内に納付している事実を記載し、同調効果によって納付を促しました。
その結果、対象者の納税は促進されたのです。
3.好きなチームをタバコで投票!灰皿が投票箱に
あるイギリスのNPO団体はロンドンの街でのタバコのポイ捨てが蔓延していることに悩んでいました。
そこで、同調効果を利用し、灰皿を投票箱にし、2つの人気サッカーチームの名前を記載しました。すると、喫煙者たちはタバコの吸い殻を箱に入れて投票を始めたのです。
その結果、タバコのポイ捨てを減らすことに成功し、小さな工夫のナッジが大きな成果へと繋がりました。
まとめ
今回は、行動経済学についてご紹介しました。
私たちの生活は豊かになり、大量生産大量消費の時代は終わりを迎え、成熟化した社会が訪れています。
従来のように、安いから買う、便利だから買う、といった経済合理性だけでは、消費者行動を予測できません。
成熟化した社会では、購買の動機になる要因は、値段や便益を超えた「共感」や「見栄」かもしれません。もはや、消費者の心理にまで踏み込んでいかないと、ビジネスの世界での成功は難しい社会が訪れているのです。
コンビニがSEVENTEENとコラボしていたのも、ファン層の購買動機が「商品」よりも「推し」にあることを理解したうえで、それを狙っていたからなんですね。
知れば知るほどおもしろい行動経済学でした。
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