本音と建前【終末京大生日記73】

 会社に入社してからというもの、想像してはいたがやはり建前が多いことに気づく。例えば、新入社員である私にはよく雑用が飛んでくる。そして、私がそれに嫌気がさしていると、決まり文句で「これも成長につながる」とのこと。私はそうは思わない。

 私が世の中を斜めから見ることを覚えたのは小学校高学年のころだ。覚えている記憶によれば確か、遠足か何かのレクリエーションをした後に先生が「今日楽しかった人ー?」と聞いた時だ。大体3, 4年生くらいまでは全員挙手で「はーい!」と元気よくレスポンスするところ、教室の後ろの壁に寄りかかっていた、私とひねくれものの友達はふざけて手を挙げなかった。それが世の中の多数派から敢えて逸れてみるという初めての体験だった。彼とは馬が合い、小学校の頃の将来の夢にみんながスポーツ選手とか歌手とかいろいろ書く中で、私たち二人はまたしてもふざけて「正社員」と書いた。単純にみんなと一緒なのが嫌だっただけで、本当に正社員になりたかったわけではない。(正社員やった今なら絶対書かない!)

 それからというもの、私はほかの人が行うあらゆる行動に対して、この行動はその人にとってどういう意図があるのか、どういう得があるのか、そして、彼らの口からでる行動の理由付けは筋が通っているものなのか、など多角的にみるようになった。

 中学生時代の話をしよう。私の通っていた中学校はほかの中学校の例にもれず、校則があった。中学校の拘束は今にして思えば謎に厳しく、髪染めや眉毛を整えることが禁止だった。彼らに言わせれば「風紀が乱れる」とのことだったが、単純に生徒の自主性を一つ制限することで管理しやすくしてるのだろう。この校則がバッファとなり、重大な問題が起きる前に誰が規則を重視していないかをマークすることができる。余談だが、オードリーの若林さんも制服の一番上のボタンを開けていた際、教師から怒られたエピソードとともに同じ話をされていた。

 そして、建前もなく学校の姿勢が表れたエピソードをもう一つしよう。このエピソードがあると先ほどの考えにもっともらしさがついてくる。確か生活習慣を考える標語を作ろうという企画で生徒会が全校生徒から投票をした時のことだ。投票の結果「○○中革命!」(○○は通っていた中学校の略称)が最多投票になった。本来の話ならばこの標語がこのまま採用されるはずだったが教員の中から「暴力的な印象がある」という声が上がった。私は当時、それに対して出てきた文脈は全く違うし、革命っていってもIT革命とか農業革命とか必ずしも暴力的とは限らないと思った。しかし、革命と言われれば学生運動の印象も同時にあると思った。(ちなみに京大だと体制に批判的な学生がたくさんこんな感じの文化祭スローガンにたくさん投票し、実際に採用されることがある)

 結局、教師陣は「○○中改革」という標語に書き換えてそれを最終版とした。

 なんというか、まず、生徒会の投票で決まったものを教員の一存でひっくり返すのかという点はある。それをやるには、最初から「投票で決めた中で私たちが編集する可能性があります」と明記する必要があるだろう。

 そして、「改革」の変更は筋が悪かったのではないかと私は思った。私たちが最初の「○○中革命!」という標語を決めたとき、上から言われて生活習慣を改めるのではなく自主性を持つという解説が生徒会からされた。それに対し、「改革」とは上から行うことであり、結局、「この学校のことは我々教員がきめる」という嫌な意思表示で我々の自主性は明確に上書きされた。

 このエピソードは私の中で教員の生徒に対する態度を決定づけたものであり、私はそれからというもの、自分の邪推は意外と当たるという自信をつけた。


 そして、時は流れ、今の話をしよう。会社で雑用を振ってくる人は私に対して「これが成長につながる」などというが当然そんなこと心から思っているはずはない。思うに、最近世間で「仕事のやりがい」「仕事を通して成長」などと声高に騒がれるのは、失われた30年のうちに最先端から遠のき、さらに正当な賃金も出せなくなった日本企業の最後の詭弁なのだろう。今の若者は残業しないなんてよく言われるが、この賃金ではとても時間は売れないと私は考える。そして、逆に今、もしもほかの先進国と同じように実質賃金が1.4倍になったとしたら「やりがい」とか「成長」とか賃金を出せない企業の胡散臭いアピールポイントは消え、大量に働くのが良しとされる社会が来るかも?とも考える。

 こんな観点を与えるきっかけになった、退屈な教員たちのおかげで私も少しは成長できたか?(そんなわけない)


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