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信用創造から見る債務危機、そしてコロナ不況と経済・金融政策について(後編)

前編では信用創造と債務危機、そしてその対処方法について説明しました。後編では、現在起きているコロナ不況の解説と経済・金融政策について、また市況についても簡単に触れたいと思います。

なお当内容は、私が出演し3月20日のライブ放送された「ビットコイナー反省会」のサマリー版となります。このコラムを読んで興味を持たれた方は、ぜひ一度YouTubeで動画もご覧ください。

不況と債務危機(コロナ不況とリーマンショック)

2月29日のコラムで不況と債務危機の違い、そしてコロナ不況とリーマンショックの違いについて説明しました。おさらいとなりますが、下の図がその違いを表しています。

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コロナ不況は生産活動を停止させたことで生じていますが、リーマンショックは発生直後から債務危機が起きました。仮に、あり得ないことですが、コロナウイルスが地球上から今日消え去ってしまえば、明日から何もなかったかのように元に戻るでしょう。債務危機とはこれが本質的な違いとなりますが、生産活動を停止し続けると、コロナ不況においても遅かれ早かれ必ず債務危機を引き起こすと考えられます。

問題は、この債務危機はどういった状態になると発生し、それがいつか?ということですが、残念ながらそれは全くわかりません。これは社会全体の不安や心理に直結するもので、明確な数式で決まっているようなものではないためです。

そのため、経済政策と金融政策の連携によって少しでもこの時期を後ろ倒しにすることが重要となります。そして不況期においては経済対策、債務危機到来後は金融政策の重要性が増すことになります。

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経済政策と金融政策

しかし今回、これらの政策はそう簡単なことではありません。例えば経済対策を打つとしても、そもそも生産活動を停止しているような状態だとその効果も薄くならざるを得ません。もちろん救済策のような、出血しているところにとりあえずバンドエイドを貼る、といった政策は必要です。

リソースが無限にあればなんでもやればいいのですが、費用対効果の面で通常の経済対策に比べると苦しくなるのは間違いない。とはいえ、債務危機が訪れる時期を少しでも後ろにずらすためにはとにかくやってみるしかない、という状態です。

金融政策はさらにやっかいで、債務危機が訪れないよう、出来る事はなんでもやる、というのはいいとしても、本当に債務危機がきたらそのときこそ金融政策は重要になります。そのため今の段階であまり弾を打ち過ぎると、本当の危機の際に出来ることが減ってしまいます。

そのため、経済政策も金融政策も実弾と口先をうまく使い分けしながら、行っていくしかないと私は考えています。アナウンス効果も考慮して大規模な発表をしつつも、その実行にはギリギリのところで時間をかけ、コロナウイルスと経済の状況を見ながら行う。見通せない時間と、限りあるリソースのバランス、これはとても難しいものがあります。

ただし、コロナ危機については仮に債務危機になっても、リーマンショックのときより有利かもしれない点が1つだけあります。それは政治リスクがないこと。リーマンのときも、そしてそのあとのユーロ危機のときも、実はやることは通貨の無制限供給、これにつきることは明白でした。

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しかし、政治的にその判断ができるかどうかは別問題で、それこそが最大のリスクでした。リーマンショックのときはリーマンを潰して、より被害を拡散させることで世論を超えた判断ができました。ユーロ危機のときもぎりぎりまで市場とのチキンゲームを行い、世論が渋々納得するような極限状態に追い込むことで、ようやく実行することができました。

ところが今回のコロナは、おそらくコロナが要因での経済政策、金融政策を大規模に行う判断をしても、世論はまったく反対しないと考えられます。つまり迅速な判断ができるということが有利な点で、唯一の障害だった政治リスクがほぼないということです。(ただし厳密には世代間闘争による政治的混乱リスクがあることを懸念しておりますが、現時点ではまだはっきりとは起きていないためここでは控えることにします。)

楽観視できるような状況にないことは間違いないのですが、同時に債務危機のリスクは世界中、老若男女問わず、はっきりと意識されています。これはリーマンショックとは大きな違いで、債務危機とは通常青天の霹靂のような事件から生じますが、今回のようにすでに予測されていることについて債務危機化するかどうかは、今後の対策次第となるでしょう。

経済の予測とは、地球に隕石が衝突するという予測とは、同じ予測という言葉でも全く異なります。後者は、その予測が出たことで、例えば映画アルマゲドンのように隕石に核ミサイルを撃ち込む準備をしようがしまいが、隕石が地球に到達するという予測になんら影響はしません。これは観測者(人類)と観測対象(隕石)は独立しているから、私たちの行動が観測結果に影響を与えないためです。

ところが経済というのはやっかいで、予測を行い、その予測に基づいて人々は行動をするため、その行動によって予測がさらに変わることが頻繁に起きます。なぜなら観測者(人類)と観察対象(経済)が独立していないためで、ある意味量子力学のような話でもあります。

そのため、債務危機が来るとわかりきっているのであれば、当然そのための対策が取られますし、その結果起きないかもしれないし、あるいは対策することで別の危機を誘発するのかもしれない。このように行動によって最初の予測が変わってしまうんですよね。そのため債務危機の到来まで薄氷を踏んでいる状態でありますが、今後の行動によっては必ずしもそれが到来するとは限らないのです。

今、市場で起きていることの私見

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2月29日のコラムで、クレジット市場(債券市場)の重要性を説きました。その時点では債券は買われていましたが、ここ最近徐々に売られている傾向も見受けられます。

絶対水準としては、リーマンショックのような、社債がごみくずのように売られてる状況では当然ないのですが、じわりじわりと売られつつある、この現金を求めていくような動きが、債務危機を彷彿とさせます。

ただし、この売られているというのは、実はまだ幸せなことでして、債務危機のときはそもそも売れないんですよね。なぜなら買い手がいないから。

「売られて値段が下がって大変!」ではないんですよ。「売りたくても売れない!だって買い手いないから!」というのが債務危機のときのクレジット市場。そのため、値段が下がっている、というのは、無事取引が約定できているという点において、まだ幸せなことでもあります。

でもこれは「だから大丈夫!」という話ではなく、だから「本当の危機がきたらもっとすごいことになるよ」って話なんですよね。そのため引き続き緊張感を持って注視していきたいと思います。

こういった債務危機が意識される局面においては、日経平均やTOPIXといった株式指数の上下やボラティリティは、リーマンショックと比較したところであまり意味がないと思っています。債券がもし返済されないと当然その会社は倒産してしまいます。このような状況での株式指数の水準はもはや意味がないでしょう。

ちなみに、ここ最近日本株は海外株に比べて妙に強いですね。少し感じていることとして、機関投資家における株式投資のウェイトは当然下がっていると思いますが、その中での地域アロケーションで日本株のウェイト上げている可能性はあると思います。つまりは、欧米の株から日本株へのスイッチ。

背景として、コロナが始まって2か月くらい日本は経過しますが、人口対比の死亡者数が、気づいたら他の先進国より明らかにコントロールされているように見えますよね。その割には、これも他先進国対比ですが、自由に外出して比較的消費もされている状態、つまり経済に与える影響も比較的緩やかに見えます。

この見方が医学的に正しいかどうか、あるいは起きている事実に沿っているかどうかはともかく、現時点ではそう見えのであれば、日本の状況が明らかに悪化するまでは欧米株持つくらいなら日本株を持とう、という動きが出ている可能性はあります。ヨーロッパ株ショートの日本株ロングというのもあるかもしれません。

もっとも、そうなって欲しくはないですが、死亡者数がここから急増することがあると、日本株もさらに売られる可能性を示唆しているため、注意が必要です。

なお、個別株の議論は指数とは全く別になります。例えばこういう局面でも関係なしに成長する会社は常にあります。他にも、会社で保有している現金の合計から負債総額を引いた金額が、今の時価総額よりもはるかに大きい、なんて会社もあったりします。これらの会社の株へ投資すると、大変不謹慎ですが、債務危機が生じて何かの間違いで倒産してくれたほうがかえって儲かることになります。

株式投資といいながら、現金をディスカウントで買ってくるような投資になるため、仮に債務危機が起きて倒産が誘発され、まさにCash is kingの時代になるのであれば、とても魅力的なポジションになる可能性も秘めてはいます。

最後に

経済というのは様々な事情が絡み合い、また株や債券といった市場もどれかだけを見るのではなく、同時に様々なものが関係してきます。

動画の最後で紹介していますが、こういった未来を皆で議論しながら予測し描いていける場として、来月私の会社のクリプタクトで新サービスを公開予定です。ここでは株、為替、仮想通貨など様々な資産に対しての投資アイデアを投稿したり閲覧しながら議論をしつつ、実際の資産価格で各アイデアを評価していくことで投資シミュレーションのようにも利用することができます。

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コミュニティ型の投資とSNSを組み合わせた無料でできる新サービスとなるので、興味ある方は是非クリプタクトに登録して、事前のサービス案内までお待ち頂ければと思います。

なお、noteでは省略していますが、動画ではビットコインや仮想通貨にまで話を広げて触れています。こちらも興味ある方はぜひチェックしてみてくださいね。


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