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信用創造から見る債務危機、そしてコロナ不況と経済・金融政策について(前編)

クリプタクト創業以前に、私はゴールドマン・サックスが運営するヘッジファンド、ゴールドマン・サックス・インベストメント・パートナーズにて運用担当者として従事していました。リーマン・ショックやその後の欧州危機などの経験を踏まえ、2月29日に「今後くる(?)コロナ不況とリーマンショックの違い」と題したnoteを公開しています。

そこから3週間が経過し、毎日のニュースを見ているとわかるように日々状況は変化しています。
前回のnoteをアップデートした内容も含め、3月20日のライブ放送された「ビットコイナー反省会」に出演してお話しましたので、サマリを新たにまとめます。

放送された動画はYouTubeに公開されていますので、さらに詳しく知りたい方はぜひご覧ください。

コロナショックで危惧される債務危機の理解を深めるためにも、まずは信用創造の概念について最初に触れたいと思います。

なお、本コラムの概要は以下の通りです。

・「将来のCFに期待・信頼して資金を供与する」、という概念を生み出したことで、信用創造が誕生し、飛躍的に経済は発展。
・副作用として起こる債務危機に対応するためには、通貨を供給する必要がある。
・通貨供給をコントロールできるようにするため、通貨制度は金本位制から現在のフィアットマネーに変える必要があった。

信用創造の仕組み

私たちの経済は信用創造という仕組みによって成り立っています。これを理解し、メリットやデメリットを理解することで債務危機の本質も見えてきます。

例えば、世界が実業家の東さん、反省会銀行、私(斎藤)だけになったと仮定します。下の動画はここでの信用創造のされ方を表したものですが、以下解説したいと思います。

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実業家である東さんが、全財産である1,000万円を銀行に預けます。すると東さんの預金は全部で1,000万円となり、銀行に現金1,000万円が移りますね。この銀行はオープンしたばかりなので、この1,000万円の現金を預かって銀行業の開始です。

さて次に、お金は全く持っていないけど喫茶店事業を開始したい、と考えている私が、その開業資金1,000万円を銀行から借りることにしました。銀行は、私の喫茶店事業は期待ができると判断し、私に1,000万円を貸付けてくれました。私の手元には、銀行から現金1,000万円が移ります。

私は無事1,000万円が調達できたので、その資金を使って喫茶店開業に向けた店舗工事を行うことにしました。そこで建築内装工事を手掛ける東さんに、その工事を依頼して1,000万円を支払いました。現金の1,000万円が、銀行と私を経由して、東さんの手元に返ってきましたね。

東さんの元に売上1,000万円が計上され、現金が入りました。東さんは、この1,000万円も銀行に預けることにします。東さんは2度1,000万円を預けていますから、預金残高は2,000万円となりますね。ですが、ここまで読んでわかるように、この世界において本来現金は1,000万円しか存在していません。

この世に存在しないはずの「お金」はさらに増える可能性があります。

例えば、私が店舗拡張のために銀行から追加で1,000万円を借りて東さんに工事を依頼すると、東さんはまた現金1,000万円が手元に入ることになります。現金は1,000万円しかない世界で、預金残高は3,000万円となってしまうのです。

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では、この現金1,000万円と預金3,000万円の差はなんでしょうか。

これがまさに信用創造と呼ばれるものです。この見えない2,000万円は、私の喫茶店事業が生み出す「将来のキャッシュフロー(CF)」への期待なのです。CFは、ざっくりと収益と考えてもらって大丈夫です。

このように、信用創造とは現金が貸出を通して循環することで預金が生みだされることを意味しますが、これは「将来生み出すCFに期待・信頼して資金を供与」することで起こります。

信用創造のメリット

信用創造によるメリットはなんなのでしょうか。実は人類の長い歴史の中で、信用創造のベースとなる「将来生み出す収益CFに期待して資金を供与する」という考えが生まれたのは、割と最近の出来事といえます。

ではそれ以前、事業を始めるためにはどうしていたのでしょうか。答えは単純です。自分でお金を貯めるか、もしくはすでに持っている資産、例えば土地とか貴金属とか、を担保にしてお金を借りる、などの方法ですね。つまり、いわゆる既得権益層、金持ちや社会的身分の高い人しか事業を行うことが難しかったのですね。

将来のCFに期待、信用して資金を供与するという概念が生まれ、その仕組みとして信用創造ができたことは革命であるといえます。大げさに言えば、お金も、学も、身分もなにもない人でも、アイデアと実行力があれば資金を調達することができるようになり、ビジネスができるようになったからです。

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そのことで、社会に新陳代謝が発生し、様々なビジネスが誕生するだけでなく、多様性が生まれ、より多くの人にチャンスが提供されました。その結果、急速に経済が発展しました。これは信用創造の大きなメリットでもあり、信用創造を抜きには今の社会は語ることができません。

信用創造自体は借入や預金の話ですが、その背景にある考えは負債に限った話ではなく、資本調達、株での調達にも適用されます。

例えば、大企業のように資金力のないスタートアップでも、アイデアや将来の事業計画を評価してもらいVCから資金調達を行う、ということはよくありますよね。

こういったものがあるのも信用創造の背景にある「将来の収益に期待・信用して資金を供与する」という考え方があるからこそです。

信用創造のデメリット

ここまでの話で、信用創造はまるで魔法の杖のように思えるかもしれません。ですが、その副作用、デメリットは当然あります。それが「債務危機」です。

「債務危機」は歴史を振り返ると、70~80年に一回の周期で繰り返し起きています。私はこれは不可避なイベントだと考えています。この周期に意味があるかどうかはわかりませんが、人の一生においては多くても2度。そのため繰り返し起きる感覚が持ちにくく失敗から学ぶことが難しいかもしれません。

では、実際に債務危機とはどういう状態を指すのでしょうか。
それは信用創造の逆、「将来のCFには期待も信頼もしない」という状態を意味します。その結果債務危機で起きるのが、市場からの現金の蒸発です。分かりやすく具体例で説明しますね。

先ほど信用創造の仕組みで説明した世界を思い出して下さい。預金3,000万円に対して、実際の現金は実は1,000万円しかありませんでした。この差は将来に期待することで成り立っていました。では将来を期待しなくなるとどうなるでしょう。

結論をいえば、現金1,000万円を手元に置いておきたいと取り合いが始まります。

しかし、全員が預金を全額おろすことは絶対にできないのです。なぜなら、今ここに全員分の現金がないから。トイレットペーパーで起きたことが分かりやすいですよね。トイレットペーパーが順調に生産されているかどうかは関係なく、今この瞬間皆が殺到したら全員には供給できない。だから我先にと争奪戦が始まります。

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市場から現金が蒸発することが債務危機の本質であり、また信用創造社会における究極の危機です。社会を成り立たせていた信用創造というルールが突然消えてなくなる。私たちの生きている世界の物理法則が突然書き換わるようなイメージです。

債務危機への対処法

この債務危機は前述の通り、繰り返し起きています。前回のnoteで、経済とは生産性とレバレッジ(借入)で決まることに触れました。レバレッジ拡大と縮小は周期性があるのですが、この周期性により債務危機が繰り返し起きることを表しています。

繰り返し起きるのであれば、信用創造の副作用として起きてしまうこの危機に対して、ダメージを最小限にすべくどう対処すればいいのでしょうか。これが次の論点となります。

たびたびトイレットペーパーの例を出したので、勘のいい方はもう気付いているでしょう。

これまでに人類が繰り返される歴史を経て得た解決法はたった一つで、通貨を供給する、つまり通貨を刷るという方法でした。トイレットペーパーと同じですね。ガラガラの棚を見るとトイレットペッパーを買い占めたくなるけれど、店舗いっぱいに並べられると人は「いつでも買える」と安心して、列に押し寄せなくなります。

他にも方法がありそうにも感じますが、実際のところこれしか見つかっていないのが現実です。そのため、通貨制度自体も、通貨供給量をコントロールできるように変更を余儀なくされました。過去に用いられた金本位制が捨て去られ、政策によって通貨供給可能なフィアットマネーという体制になったのです。

信用創造と通貨制度は密接に関わっています。このことは、実はビットコインという分散型通貨を考える上でも重要な点となります。そもそも通貨供給以外に債務危機の解決法はないのか、さらにはビットコインは法定通貨の代替ではなく、それとの共存としての選択肢を人類に与えているのでは?、といった話にも繋がります。動画でお話をしていますので、詳しくはこちら(時間1:16:00~)をご覧下さい。

まとめ、そして金融政策へ

本コラムをまとめると次の通りです。

・「将来のCFに期待・信頼して資金を供与する」、という概念を生み出したことで、信用創造が誕生し、飛躍的に経済は発展。
・副作用として起こる債務危機に対応するためには、通貨を供給する必要がある。
・通貨供給をコントロールできるようにするため、通貨制度は金本位制から現在のフィアットマネーに変える必要があった。

これが現代行われる、危機対応のための金融政策の本質です。厳密には、通貨供給のコントロールは、債務危機だけでなく、経済政策のため常に行われています。

これが、不況あるいは債務危機の対応として、なぜ通貨供給が行われるのか。その背景です。

そして後編では、いよいよ今まさに起きているコロナ不況、それに対応するための政策、そして今の市況について触れていきたいと思います。





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