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助教?講師?大学の役職・肩書について

 大学の先生=教授という印象があると思います。しかし、大学で教育や研究をする人の全てが教授ではありません。
 大学に入学した人は、教員ごとに肩書が違うのを何となく目にしますが、肩書の意味を知る機会はあまりないと思います。
 大学院進学を考える方はもちろん、そうでなくとも大学の様々な人と接する・研究者が書いた情報に触れるなどする上で、大学教員の肩書について知っておくと理解の手助けになるかもしれません。
  なお、一般に「はかせ」と言われる肩書は、役職ではありません。正式には「はくし」という博士の肩書は、「博士号」という資格(学位)を持っていることを意味します。一般企業で部長や課長に当たる役職に近いのは、教授や准教授といった肩書になります。「博士」については、別に解説した記事がありますので、そちらをご覧ください。


1.学校教育法が定める大学教員

 大学の役職は、学校教育法の「第九章 大学」で定められています。以下、引用する92条が役職に関する主要な部分です。

第九十二条 大学には学長、教授、准教授、助教、助手及び事務職員を置かなければならない。ただし、教育研究上の組織編制として適切と認められる場合には、准教授、助教又は助手を置かないことができる。
② 大学には、前項のほか、副学長、学部長、講師、技術職員その他必要な職員を置くことができる。
③ 学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。
④ 副学長は、学長を助け、命を受けて校務をつかさどる。
⑤ 学部長は、学部に関する校務をつかさどる。
⑥ 教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
⑦ 准教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
⑧ 助教は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の知識及び能力を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
⑨ 助手は、その所属する組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務に従事する。
⑩ 講師は、教授又は准教授に準ずる職務に従事する。

出典:学校教育法

 要するに、研究と教育をする人の中で、「特に優れた」のが教授、「優れた」のが准教授、可能なのが助教です。
 また、「教授又は准教授に準ずる職務」とされる講師を置くこともできます。曖昧な立場ですが、基本的には准教授の下で助教の上という扱いの大学が多いです。
 助手は研究や教育の補助役として必要に応じて雇用され、基本的には一人で大学の授業を受け持つことはありません。研究補助の他、学生の実験指導や実習指導を担う事例が多いです。
 なお、教員以外では、事務職員の他に必要な職員を置くことができます。大学図書館とは別にある学部・講座単位の図書室の人などは教員ではない職員の場合が多いです。

2.非公式だけど大体の序列 教授・准教授・講師・助教・助手

 大学教員の序列は一般的に、教授・准教授・講師・助教・助手の順とされます。本来、講師は置かなくてもいいですし、助手は補佐役であり教員と言えるか微妙ですが、様々な教育に関する統計を毎年出す「文部科学統計要覧」では、大学における「教員数」の欄が以下のように掲載されています。

教授 Professor      69870(人)
准教授 Associate professor  44587 
講師 Lecturer           23159
助教 Assistant professor       43823
助手 Assistant                        5818

出典:文部科学省『文部科学統計要覧(令和3年版)』2021年

 なお、ここでの講師は常勤講師に限ります。非常勤講師(Part-time Lecturer)は、大学とは授業単位の契約関係であり、正規教員の枠組みには入りません。非常勤講師は、別の大学の教授であったり、複数の大学の非常勤講師を兼務している人であったりします。
 基本的には助教が若く、大学入学時のオリエンテーションを仕切る教員は多くの場合助教です。
 助手が他と比べ少ないのは、実際に教育研究を補佐する役目は大学院生を働かせる、あるいは非正規職員という形で雇用することが多いからと思われます。

3.2007年以前の呼び方に注意 助教授から准教授、助手から助教へ

 注意すべきは、2007年の学校教育法改正以前は肩書が異なり、教授・助教授・助手という名称だった点です。2007年以前の古い肩書を見る時は、助教授は現在の准教授、助手は現在の助教と読み替える必要があります。
 変更の理由は主に「主たる職務が教育・研究かその補助かが必ずしも明瞭でない助手の職」の立場を明確化することでした(文献①p.2)。助手だと下働き感が強いので、補佐ではない一人の独立した教員・研究者には新たな名称を与えて区別しようという狙いです。つまり、Assistant と Assistant professor の区別をしたことに意味があります。
 また、教授を頂点とした講座組織(教授・助教授・助手)を解体するというねらいもあったようです。助教授から准教授への変更も、准教授は決して教授の補佐役ではない、一人の独立した研究者であり教育者であるという意味があります。助けるのではない、准ずる存在だということです。
 ただ、独立した研究者であることを示す意味なら、「助」の文字が残った助教という名称はあまり良くないのでは、という意見もあります(文献②)。

4.名誉教授は「称号」

 ちなみに、名誉教授という言葉も聞いたことがあるかもしれません。これは役職ではなく、大学を退職する際に貰えることがある称号です。○○大学名誉教授と付いていれば、すでに○○大学は退職しており、現在はその大学の正規教員ではありません。教授の上の階級ではなく、別枠のものとなります。名誉教授は学校教育法第百六条に規定されています。

第百六条 当該大学に学長、副学長、学部長、教授、准教授又は講師として勤務した者であつて、教育上又は学術上特に功績のあつた者に対し、当該大学の定めるところにより、名誉教授の称号を授与することができる。

出典:学校教育法

 これより細かい部分(名誉教授を与えるのに必要な実績や在籍年数など)は各大学の規定によって違いがあります。
 なお、ある大学で定年退職して名誉教授の称号を得ても、新たに別の大学で正規の教授職に就くことも可能です。大学ごとに定年の規定が違うため、そういったことも起こります。
 名誉教授制度は1893(明治26)年の帝国大学令改正から存在しますが、その制定理由は明確でないとされています(文献③pp.52-53)。

参考文献

①文部科学省高等教育局大学振興課『大学の教員組織の見直しに関するQandA』2006年
②馬越徹「新設された『助教』名称は適当か:日・韓・中の三国比較の視点から」『名古屋高等教育研究』7、pp.231-248、2007年
③南部広孝「日本における名誉教授制度の歴史的変遷と現状に関する考察」 『大学論集』50、pp.49-64、2018年

◆文部科学省『文部科学統計要覧(令和3年版)』2021年
◆小林淑恵「若手研究者の任期制雇用の現状」『日本労働研究雑誌』660、pp.27-40、2015年
◆小河誠巳「助教の仕事:教員の視点からの大学生活」『特技懇』271、pp.166-169、2013年
◆岩田弘三『近代日本の大学教授職』玉川大学出版部、2011年
◆杉岳志「一橋大学における図書館と教員の協働・図書館職員と専門助手の協働」『大学図書館研究』96、pp.16-22、2012年
◆佐居由美など「学生にとって学びやすい実習室を目指した取り組み:学生実習室委員会との連携および実習室助手の役割に焦点をあてて」『聖路加国際大学紀要』2、pp.78-82、2016年

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