大学入学共通テストの歴史 ~共通一次、センター試験とどう変化してきたか~【教育学】
2023年は1月14・15日実施の大学入学共通テスト。毎年50万人以上が受ける一大試験です。
大学入試の形式は時代で少しずつ変化しています。今の受験生や高校生に対する誤解を防ぐ・理解を少し広げるためにも、変化とその理由を知っておくことは大切です。
1.共通一次試験(1979-89)
統一試験ができる以前は、各大学で行う試験のみで入学者を決めていました。しかし、1965年(昭和40)頃から18歳人口の急増により受験競争が激化し、63年から実施されていた高校の学習指導要領を無視する「難問・奇問」の出題が問題となっていました(文献①)。受験に意味ないからと指導要領を無視とされると、基準を設けた意味がなくなります。そこで、「高校における一般的・基礎的な学習の達成度を共通尺度で評価するため」の共通一次試験+独自性を尊重する二次試験の2段階が構想されました(文献②)。
1979年に全ての国公立大学受験者を対象とする「共通第 1 次学力試験」が始まりました。5教科(国語200、数学200、外国語200、理科100×2科目、社会100×2科目の1000点満点)利用を原則として、第1回は32.7万人が受験しました。こうして大学入試は、高校で学ぶべき内容全般をある程度適切に反映するものとなりました(※1)。
2.センター試験(1990-2020)
しかし、共通一次試験には、日本で国公立大学より学校・学生数が多い私立大学は(ほぼ)対象でないこと、推薦入試など多様な入試形態に対応し辛いことなどの課題もありました(文献③ ※2)。
そこで、私立大も参加可能とし、国公立大含めて使用する教科・科目を各大学・学部に任せるアラカルト方式とした「大学入試センター試験」となりました。1科目のみ受験から可能で、私立大では2~3科目利用が主体となっています。
1990年(平成2)の第1回センター試験は受験者40.8万人、利用私立大は16校でしたが、2017年には受験者57.6万人、私立大は526校(私立大の91%)が利用しました(文献①)。2006年の英語リスニング導入や細かい科目の変更などはありながらも、基本的な形式は維持され大学入試といえばセンター+個別試験という形が定着しました。
3.共通テスト(2021-)
それでは、2021年から始まった「大学入学共通テスト」は何が違うのでしょうか。現状、リスニング配点増加や数学の問題量増加など教科・科目の内容形式が変化しただけで、基本的な制度はセンター試験と同じです。「思考力・判断力・表現力」を重視するとして内容面の変化はありますが、正直、そこまでの変化はありません。
共通テスト実施に向けた議論では、記述式問題の導入と英語民間試験の活用が大きな争点となっていました。「思考力・判断力・表現力」を問うのが主な目的でしたが、大規模に行うコストや実施可能性、目的は個別試験が担っている点などから実施されていません(文献④、⑤)。他、コンピュータ回答(CBT)や年複数の受験機会なども検討には挙がりましたが、現時点で見通しは立っていません(文献⑥)。
ただ、2025年試験からは教科として「情報」が追加され、国立大学は6教科8科目を原則とする方針が出されています(文献⑦)。長年維持された英国社理数という枠組みの牙城が崩れるだけでも、大きな転換点に成り得ます。英国社理数は、人々にも勉強とはこういうものだと認識が固定化されているので、ちょっと打破してくれる期待感を個人的には持っています。
過去の試験を受けた方は、どうしても現在や未来の枠組みに戸惑うかもしれません。変化の是非は置いても、変化している部分としていない部分があることは受け止める必要があります。
※1 本文は現在や過去の統一試験や高等学校学習指導要領を全肯定するものではない。しかし、統一試験の導入が高校教育の方向性に大きな影響を与えているのは確かである。
※2 共通一次試験の課題=センター試験の成果として、大学の序列化・輪切りの進路指導の改善も挙げられ、むしろこちらに重点を置く場合もあるが、実際はその後のセンター試験や共通テストにおいても基本構造は変化していないため、本文では重視していない。
【参考文献】
①大塚憲一「共通試験“小史”からみた『共通テスト』の機能!」『今月の視点』128、pp. 1–14、2017年
②中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」1971年
③中央教育審議会「大学入学者選抜、高等学校教育と大学教育の連携」(高等教育部会 第22回 配布資料1-3)2013年
④山地弘起「大学入学共通テストがめざすもの」『薬学教育』4、pp.1-8、2020年
⑤大塚雄作「共通試験の課題と今後への期待 : 英語民間試験導入施策の頓挫を中心に」『名古屋高等教育研究』20、pp. 153–194、2020年
⑥大学入試センター「大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性について(報告)」2021年
⑦ 国立大学協会「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度-国立大学協会の基本方針-」2022年
◆大塚雄作「日本の共通試験と大学入試センターの役割」『「多面的・総合的な評価への転換を図る入学者選抜改善システム構築」事業(平成28年度~令和3年度)中間報告書』pp. 19–26、2020年
◆佐々木享「能研テスト:新たな共通試験」『大学進学研究』113、pp. 54–57、1989年
◆中村恵佑「大学入試における共通テストの政策形成・決定過程の分析・研究の現状と課題」『東京大学大学院教育学研究科教育行政学論叢』38、pp. 35–51、2018年
◆後藤亘「国立大学入試共通第一次学力試験をめぐって」『中国短期大学紀要』17、pp. 51–57、1986年
◆文部省『学制百二十年史』ぎょうせい、1992年
◆国立教育政策研究所 HP「過去のテスト資料」https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/kako_test/nouken.html (参照 2023年1月10日).
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