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評価とは何か:評価と「気に入る」は何が違うのか【学校教育】

学校で「評価」と聞くと、気持ちが沈む人が多いのではないでしょうか。「○○したら評価が下がるらしい」「高い評価を取らないと進学が…」など学校生活において評価は常に付きまとう存在です。

にもかかわらず、そもそも「評価」とは何か、何のために評価するのか、というのを考える機会はありません。
納得いかない評価も沢山あるでしょう。ふりかかる評価全てを真に受けていては身が持ちません。
評価とは何かという根本を知れば、自身が受け止めるべき評価と不適切な評価を見極める、また自分が他者を評価する時に適切な評価をする上で、助けになると思います。


1.評価=価値判断、基準がある

日常的に使う「評価」という語、辞書の意味は「価値を判断すること」です。
商品のレビューも評価の1つですね。「使い勝手がよい」「耐久性が低い」「価格が安い」「到着が遅い」といった1つ1つの要素も評価、それらを合わせて買うに値するか★5とか★1とかつけたのも評価です。

そして、判断には基準があります。
基準は前もって決めている場合と、そうでない場合があります。「500g以下なら軽量」「1000円以下は安価」「3つの要素を満たせば★3」など基準が決まっている場合は、その基準を見れば判断の根拠がわかります。
しかし、日常で行われる評価の多くは、個人ごとに基準があります。その基準は、日ごとに変わることもありますし、うまく言語化できないものも多いです。
商品レビューでも、「商品が入った箱がへこんでいた」ことが他の要素の何より重要で★1をつける人も、あまり気にせずに★5をつける人もいます。評価=価値の判断は必ずしも合理的な判断とは限りません。もっとも、日常的に行う評価の全てを合理的にするのは大変な労力が要りますので、レビューの1つ1つを時間かけて吟味するのは現実的ではありません。

2.評価と「気に入る」の違い ー基準の妥当性ー

しかし、重要な物事を決める際は、参考にする評価に合理性がなければ困ります。極端な話、大学入試の合否がサイコロの出た目で判断されたらたまりません。
他者への影響力が強い評価公共性の高い評価ほど、その基準は合理的に説明可能なものでなければ、「この評価は意味ない」「こんな評価で人を集める組織は使えない」などと信用を失っていきます。

評価を得ること=「気に入られる」「ご機嫌取り」と感じたことある人は多いでしょう。「気に入る」「気に入らない」も価値判断=評価の一つですが、その基準は極めて主観的で私的なものです。その日の気分などで変動も激しく、言語化できないものが多いでしょう。他者への影響力が強い場面、公共性の高い場面では不適切な場合が多くなります。
「気に入らない人でも評価しなければならない」場面は沢山あります。自分の外にある「前もって決められた基準」で判断しなければならない場合です。例えば、多くの入試の筆記試験は、あらかじめ要項に示した基準のみで評価しますから、試験官がある受験生を「気に入らないから」という理由で減点することはできません。
(面接はどうなんだ、評価を説明可能なのか、と思った人もいるでしょう。大切な視点です。要項に「総合的に判断する」といった文言があるなど、「前もって決められた基準」自体が主観性を含んでいる場合は、評価も主観性が入ってきます。この問題は評価を考える上で重要なので、今後も触れていきます。)

学校での「評価」は、子どもに大きな影響を与えます。すなわち、どんな基準で評価しているか、がとても大切です。

3.教育評価の目的=目標達成度を示す

意識的にせよ無意識的にせよ、評価するのは目的があります。商品レビューであれば、多くの人の購入の参考にしてほしいという目的で、あるいは店に感謝/改善してほしい点を伝えたいという目的で行われます。
「気に入らない」という主観的な評価も、自分の心地よさのため合わない人を回避する・気を付けるべき人物を見極める、という人間としての判断の1つです。

学校教育で行われる評価の多くは、目標に基づく評価です。ここでの目標とは、例えば、小6算数はこんな内容を知って・こんな能力を身につける、など教科や活動ごとに「前もって決められた」子どもが身につけるべき能力です。
目標達成度を示す意図は主に2つ、①入試など学校外への能力の証明、②子ども自身に現状を把握させ成長のための指針にすることです。
テストは基本的には、目標への達成度を評価できるように作ります。例えば、小6算数で「分数のかけ算・わり算」の単元のテストをする場合は、学習指導要領(国の定めた教育目標)の以下の目標を達成しているか「評価」することになります。

2 内 容
A 数と計算
⑴ 分数の乗法及び除法に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付け
ることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 乗数や除数が整数や分数である場合も含めて,分数の乗法及び除
法の意味について理解すること。
(イ) 分数の乗法及び除法の計算ができること。
(ウ) 分数の乗法及び除法についても,整数の場合と同じ関係や法則が
成り立つことを理解すること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(ア) 数の意味と表現,計算について成り立つ性質に着目し,計算の仕
方を多面的に捉え考えること。

【出典:小学校学習指導要領(平成 29 年告示)】

実際には、1つの目標を1個のテストだけでなく複数を合わせて評価する場合も多いです。もちろん、テストの質が悪ければ目標の到達度をうまく評価できない場合もあります。逆に言えば、何の目標を評価したいのかよくわからないテストだと、良くないテストという可能性は大きくなります。

そして、学校の評価は何もテストだけではありません。例えば、提出したプリントにA・B・Cと評価が書かれて返ってくることもあります。その評価も、授業や課題に設定させた目標を達成しているか、を示すことになります。

しかし、こうした経験をした人もいると思います。「計算問題は全部正解したのに、名前書いてないって理由でC評価だった」。これは目標を達成しているか、という基準で考えると達成度は100%なので、おかしな話になります。
なぜこうしたことが起こるのか。それは学校教育には様々な目標があるからです。「集団や社会のきまりを守る」といった社会性の育成も学校教育の目標に挙げられています。そのため、学校は教科学習以外の面でも評価を行いますし、教科の時間でも社会性に関わる評価をすることもあります。

しかし、「計算問題は全部正解したのに、名前書いてないという理由でC評価」というのは、「計算の能力をつける」と「決まりを守る」という複数の目標の評価を混在させています。そして、その比率は不明確です。1つ1つの評価が見えにくくなってしまうため、個人的には、学習面の評価は明確にして、「名前書いてない」ことについては別個に評価・助言を行う方が、その子の成長とって有益ではないかと考えます。

おわりに 雑な評価は混乱と不信を生む

評価には基準があります。特に教育での評価の基準は目標に基づくものであってこそ、入試など選抜において適切な判断材料と成り得ます。なにより、子どもにとって自分の現状把握、次にするべきことの指針となります。

しかし、目標をあまり意識しなかったり、複数の目標を混在させたり、「気に入るかどうか」という主観とごちゃ混ぜにする雑な評価をする人もいます。評価される側は、何でもかんでも真に受けるのではなく、適切な評価かどうか、時に冷静に考えてみることもよいと思います。(もし評価者に聞けるなら基準を訪ねてみると、怒り出す人も残念ながらいるでしょうが、真摯に答えてくれる人もいると思います。)
評価する側は、目標・基準を明確にし、疑問を受けた場合は真摯に説明することが大切です。基準をぼかすよりも評価への納得感が生まれ、目標達成に近づきやすくなるでしょう。

今回は「評価」とはそもそも何か、という最も基本的な話です。実際に評価をつける上では、通知表の5・4・3・2・1の評価(=評定)ってどうつけるのか、など知るべき・考えるべきことが沢山あります。それらはまた解説していきます。

【参考文献】 

◆文部科学省『小学校学習指導要領』2017年
◆旺文社教育情報センター「『学校』における“2つの評価”」『今月の視点』41、2010年
◆松下佳代「教育の目標と評価」『系統看護学講座 基礎分野 教育学』第7版、pp.135-150、2015年

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